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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

コロナ禍のあとの映画界ー懸念材料は多いが、今こそ、映画を映画館で楽しんでいただくことの素晴らしさを!

毎月29日掲載

第22回

20/5/29(金)

映画館の再開が増えてきた。5月下旬段階では、全国で2000スクリーンを超える映画館が営業を行っている模様だ。興行大手のTOHOシネマズは、5月29日から関西圏など11サイトで再開した。同社の再開は、すでに40サイトを超える。都内はまだだが、6月からの再開が視野に入った。もちろん、各映画館では少し前に上映した作品や旧作の編成が多い。だから、集客的にはかなり苦戦していると聞く。そのような情勢下で、1本の新作が登場していた。

日活が配給している『心霊喫茶「エクストラ」の秘密-The Real Exorcist-』(製作・幸福の科学)だ。この作品が何と、2週連続(5月16、17日、及び5月23、24日)で、週末興行ランキングのトップとなったのである。現在、全国では49スクリーンで公開。今後は、100スクリーンを優に超え、200スクリーン以上にまで増えるという。映画館が、めぼしい新作がないなかで再開したこともあり、地方からの上映オファーが増えたのだ。3週連続トップもありえる。5月23、24日のランキングでは、3位に『パラサイト 半地下の家族』が入り、旧作では『天気の子』や『君の名は。』などが上位に並ぶ。少し前の作品として、『Fukushima50(フクシマフィフティ)』が5位に入っているのが注目される。前回触れたように、すでに配信が行われている作品だが、意外にも見える。

さて、今後の映画界はどうなるか。興行面含め、今年の見通しを何人もの方に聞かれるが、全く予測不能というのが正直なところだ。限られた数のチケット販売など、今の厳しい興行スタイルが、いったいいつまで続くのか。新作の公開は、どうなるのか。そもそも、自宅待機が長引き、配信などで観る人が大幅に増えたこともあり、映画館にどの程度まで観客が戻ってくるのか。不安定要素を挙げれば、キリがない。新作でいえば、これから延期になっていた作品が続々と公開されてくる。ただ、その上映の仕方が問題になるかもしれないのだ。

たとえば、ふだんの興行なら興収90億円以上が見込まれるだろう新作の『名探偵コナン 緋色の弾丸』が、どの時点で公開されるのか。上映された場合、1つのシネコンで、何スクリーンも“占拠”してしまうのではないかとの見方がある。つまり、座席をフルキャパで売れないので、1つのスクリーンでは動員が限られる。『名探偵コナン~』は興行のスケールが大きいから、他のスクリーンにまで“越境”して上映されるケースが増えるのではないかというわけだ。全部で12スクリーンあるシネコンなら、3スクリーン以上で上映されることがありえるだろう。そうなると、他の作品に影響が出てくる。延期の作品が公開されるのはいいのだが、それらが同時期に重なると、どうしても集客力の高い作品が優先されていく。つまり、上映回数が少なくなる作品が出てくる可能性があるのだ。興行のバランスが、非常に悪くなる。

このまま、再度の緊急事態宣言が出なければ、とくに7月以降に作品が集中してくると思われる。今後、毎週ごとに話題の新作が登場してくれば、市場の混乱が出かねない。配給会社は、止まっていた作品の供給を行いたい。映画館は、何とか収益を上げたい。両者のせめぎ合いのなかで、では観客はどのように映画と接するのか。これまで経験したことがない事態だ。少し様子を見るしかないかもしれないが、あまりに不都合な市場の情勢になるようであれば、どこかでチェックすることも必要になってくるだろう。映画を、まっとうに観客に送り届ける。映画館で楽しんでいただく。この困難な状況だからこそ、映画界は安全、安心を含めた観客側の視点に立つべきと思う。

もう一つ懸念材料を挙げておけば、映画の製作(撮影)の遅延のことがある。これからは、何とか作品の公開はあるとして、今後に撮影が予定されていて、来年に公開予定の作品も多いことだろう。これは、邦画も洋画も同様で、来年、再来年に向けた映画の行方が、非常に厳しいことになりかねないのだ。現時点では、東宝でいえば、この会社は作品が比較的以前に完成している場合が多く、今年末あたりまではラインナップにある作品は何とか公開できる。ただ、6月撮入の作品の撮影で、押しているものもあり、来年以降の公開では不安要素もある。『キネマの神様』が仕切り直しとなった松竹は、何本かの作品で撮影が延期になっていて、今年にもそれが影響すると聞いた。

今年だけではない。来年、さらに再来年と、映画界の今後は全く見通しが立たないというのが、今の偽らざる状況だと言える。ただここで強く言っておけば、映画を映画館で楽しんでいただくことの素晴らしさを、映画界はじめ多くの映画人が、それこそ様々な場で、多くの方法をもって発信していくことの重要性である。これを忘れてはならない。映画の流れを止めないことだ。そのためには、やるべきことが非常に多い。この文章も、その思いで書いているわけだが、発信力の強弱など関係なく、その思いがいかに人々に伝わるかだと思う。映画ファンの方々の力も借りて、そのことも、この場でお願いしたいしだいである。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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