Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

『浦安鉄筋家族』ドラマ化は絶妙なキャスティングで期待大 成功の鍵は“演出”と“脚本”?

リアルサウンド

20/4/10(金) 8:00

 浜岡賢次の『浦安鉄筋家族』(秋田書店、以下『浦安』)がドラマ化されると聞いて、無茶なことするなぁと思った人は少なくないだろう。

 1993年にスタートした『浦安』は、現在も『あっぱれ!浦安鉄筋家族』のタイトルで、『週刊少年チャンピオン』で連載している人気ギャグ漫画。千葉県浦安市で暮す小学生・大沢木小鉄を主人公にした本作は、面白い顔をしたキャラクターが面白い動きをしながら「滑って転んで」を繰り返すドタバタコメディ。笑いのピタゴラスイッチとでも言うようなギャグ漫画で、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(集英社)が連載終了した今となっては、長編ギャグ漫画・最後の砦とでも言うような存在である。

 今までアニメシリーズは二度作られているが、実写ドラマ化は今回がはじめて。初期に比べるとだいぶ薄まったが、ここには書けないような下ネタもいまだ健在で、だからこそ「ドラマでやるのは難しいのでは?」と困惑したが、絶妙なキャスティングを見ていると、むしろイケるんじゃないかと期待しはじめている。

【写真】桜の恋人・花丸木を演じる染谷将太

 どうやらドラマ版は小鉄たち小学生の物語が中心にあるのではなく、佐藤二朗が演じるタクシー運転手のお父さんを中心とした家族の物語となるようだ。元々『浦安』は長い連載であるため、小鉄たちの他のサブキャラのエピソードも豊富なのだが、ど真ん中となる小学生パートに比べれば、ドラマ化しやすいのかもしれない。俳優陣も豪華で、母親の順子を最近は不倫ドラマでのエクセントリックな演技が話題の水野美紀、長女の桜を若手実力派女優の岸井ゆきの、そして桜の恋人・花丸木をなんと染谷将太が演じる。現在、大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)で織田信長の怪演が話題となっている染谷だが、このキャスティングにはびっくりした。だが同時に思ったのは、花丸木(何かあると不可抗力で全裸になってしまう)を演じられるのは、天才キャラを演じまくっている染谷以外には考えられないとも言える。

 また、先日まで同枠の『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)で主役を演じていた滝藤賢一も出演。他にも松井玲奈、大東駿介、宍戸美和公、坂田利夫などが出演予定で、まだまだ隠し球も多そう。今やテレ東の深夜ドラマだから地上波のドラマに比べてキャスティング面で劣るということはないのだが、この俳優陣を見ているだけでもワクワクするものがある。

 とは言え、もっとも重要なのは演出と脚本だろう。

 漫画の映像化は難しく、作り手が作品のエッセンスをちゃんと理解していないと失敗する。中でも一番難しいのがギャグ漫画だ。

 笑いのリズムはとてもパーソナルなもので、作者の生理的感覚と直結している。だから少しズレるだけでも笑えなくなってしまう。その意味でも、漫画というページをめくることで時間が進む(つまりある程度読者がリズムを調整できる)表現を、時間の流れとともに物語が進んでいくテレビドラマのリズムに落とし込むことはとても難しく、そこをどうクリアするのかが一番の壁となる。

 『浦安』の脚本には『サマータイムマシン・ブルース』や『曲がれ!スプーン』で知られる上田誠たちヨーロッパ企画の面々がクレジットされている。

 監督には『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)の瑠東東一郎が参加。座組を見る限り漫画の世界を舞台劇の笑いに落とし込んだようなドラマになると思うのだが、元々『浦安』はザ・ドリフターズに対するリスペクトが強く、『8時だョ!全員集合』(TBS系)のような舞台劇のテイストもあるため、作品との相性は意外と良いのかもしれない。

 今のお笑い番組は、『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)のような対決モノか、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)のようなひな壇トークばかりになってしまい、物語仕立ての作り込まれたコントバラエティはNHKの『LIFE!~人生に捧げるコント~』だけとなってしまったが、一方でドラマの形を借りたコントバラエティは健在で、バカリズムの『架空OL日記』(日本テレビ系)のような芸人が脚本を書いた傑作ドラマも増えている。

 このジャンルを切り開いたのは『勇者ヨシヒコ』(テレビ東京系)シリーズなどで知られる福田雄一だ。『浦安』で主演を務める佐藤二朗はムロツヨシと並ぶ福田ドラマの常連だが、バラエティで難しくなったストーリー仕立てのコントはテレビドラマの中で延命している。とは言え、「笑い」の映像化は難しく、滑っている作品も少なくない。

 そんな中、福田ドラマがうまくいっているのは脚本と演出を福田が兼任していることが大きい。「笑い」にとって重要なのは脚本と演出の相性で、できれば一人で担当するのが理想である。そうでなければ『架空OL日記』における住田崇のように、脚本の良さがわかっている監督が必要となる。

 まだ放送前であるため、ヨーロッパ企画と瑠東東一郎の相性は未知数だが、成功すればドラマにおける「笑い」の可能性は一気に広がるのではないかと期待している。ちなみに一番観たいのは動物ネタだ。

(成馬零一)

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む