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GRAPEVINE「Gifted」レビュー:“現実という光”の消えた先に見出したもの

リアルサウンド

21/3/18(木) 18:00

 GRAPEVINEが約2年ぶりにドロップする新曲「Gifted」は、未曾有の経験を全世界に及ぼした新型コロナ禍の中で彼らが辿り着いた曲だ。そしてここから何かが始まる。

 御多分に洩れずGRAPEVINEも2020年は3月以降のライブやイベントが次々と延期になり、ようやくバンドが動いたのは11月に横浜・東京・大阪で行なった『GRAPEVINE FALL TOUR』だった。多くのアーティストが配信ライブにシフトしていく中、このツアーは無配信&有観客ライブで、それだけにバンドの集中力も高く観客の喜びもひとしおだった。このライブ最終日の模様は年を越して2021年1月に一部公開され、足を運ぶことのできなかったファンを喜ばせた。

GRAPEVINE FALL TOUR in Tokyo (November 2020)

 配信では伝わらないものをやっている、という自負があるからだろう。ライブの生配信にGRAPEVINEは触手を動かさなかったが、過去のライブ映像などをいくつか公開したのは彼らなりのファンへの回答だった。そうこうしているうちに対バンツアーを予定していたSuchmosは活動休止してしまった。何とも残念な話だ。

GRAPEVINE – 光について (Official Live Video)
GRAPEVINE – スロウ (Official Live Video)

 そんな日々が来るとは全く予想だにしていなかっただろうが、2019年2月にリリースした16作目のアルバム『ALL THE LIGHT』に田中和将(Vo/Gt)はこんなコメントを寄せている。

「聴いた人を幸せにしたいわけでもなければ、勇気づけたいわけでもない。重要なのは、音楽を聴いた全ての人が直面するであろう、あるいはしているであろう、現実という名の『光』なのだ」

 その下にいる全てに平等に降り注ぐ太陽の光のように、現実は平等に存在する。だが同じ光が眩しいものもいれば心地よいものもいるように、同じ音楽を聴いて何を感じるかはそれぞれ。そんなことを田中は言いたかったのだろう、と改めて思ったのは、彼が月刊誌『文學界』2020年7月号に寄稿したエッセイを読んでのことだ。読書家で知られる田中が文芸誌に関わるのはごく自然なことに思えるが、「群れず集まる」と題したその文章で、コロナ禍で活動できないバンドのメンバーの一人としての想いと、彼の音楽に対する矜持を率直に書いている。それは田中を知るものには得心の行く言葉で、興味を持たれたら是非読んで欲しい。

GRAPEVINE – すべてのありふれた光 (Official Music Video)

 『ALL THE LIGHT』のリードトラックと言える「すべてのありふれた光」には、〈朝になればそれだけでも〉と光を感じさせる一節がある。そこに筆者は未来への希望を感じていたし、田中のコメントからも未来に向かって生きていくことと受け取っていた。ところが、今回の新曲「Gifted」では“現実という光”が消えたかのようだ。

 あるはずの光を探すかのように、この曲は歌が始まるまでにちょうど1分、リバーブを効かせた亀井亨(Dr)のドラムをメインにしたリフが繰り返される。西川弘剛 (Gt)のギター、サポートメンバー高野勲(Key)のシンセ、金戸覚(Ba)のベースが控えめに重なっていくその1分は、新型コロナ禍に覆われた1年を凝縮したかのようにジワジワと聴く者の心をざわつかせ、田中の歌声が聴こえたと思うと〈光など届かなかったんだ〉という言葉が耳に飛び込んでくる。そして、〈私の声なんて聞こえないか〉と歌う。

 緊張感に溢れた演奏と亀井によるスリリングなメロディも印象的な待望の新曲なのに、「待ってました!」と諸手を挙げていいものか躊躇するが、そうした気持ちこそがコロナ禍で閉塞した空気の中で生きている今だからこそ共感できるものではないかと思う。それはライブをやれるのかやれないのか逡巡し続けていたアーティストたちの気持ちとも呼応する気がする。メンバーの鼓動が伝わるような演奏は、ラップトップ1台で作る曲へのバンドからの回答だ。ギターリフの揺らぎと共鳴するベース、波を起こすようなドラムと微妙な重なりで響くボーカル。自分たちはこういうスタンスなのだと、言わずもがなに聴かせていく。

 この新曲をはじめ、新作に向けて昨年頭ころにはデモテープを作っていたそうだ。だが、曲を詰めていこうというところでコロナ禍のために作業が止まり、再開できたのは秋風が吹く季節。その間に起こったこと・経験したことが、曲に反映したと考えていいだろう。曲を作りバンドと演奏し観客に聴いてもらう、そんなありふれた現実が遠のいた日々は光が届かないような心持ちだったに違いない。ライブを楽しみにしていた人たちにとっても同様だ。確信のない情報に振り回されている状態を打破する、神をも超える天才が現れないものか。そんな戯言を言ってみたくなるのもわかるというものだ。

 もっとも、あながちこれが戯言とも思えないのは、コロナ禍で注目を集めたイスラエル出身の哲学者 ユヴァル・ノア・ハラリの主張と通じるものを感じるからで、〈薹の立った世界で/狩る者と狩られる者と/ここでそれを嗤っている者〉とは、いわゆる「ニューノーマル」のことのようだし、そんな経済重視の言葉遊びに〈さよなら〉するのがこれからの世界だろう。 

 その〈さよなら〉で気づくことがある。自分が信じていた光が明日も照らしてくれる平穏な日々ではないかもしれないが、過去の規範にはおさらばして、“Gifted”ーーすなわち新たな可能性を持った存在として進もうということ。Giftedは神から贈られたとする特別な才能を意味することが多いが、より広い意味でこの曲には使われているように思う。これから才能を開花させるべく生まれてくる命や新しく成長していく存在を、あるいは自分の中にある可能性を、“Gifted”と呼んでいるのではないだろうか。

GRAPEVINE – 「Gifted」(Official Lyric Video)

 GRAPEVINEは安易な共感を求めないし、安直に希望を持たせたりしない。けれども絶望をちらつかせてもそのまま置き去りにはしない。冷静に状況を見て自ら進むことが必要だと気づかせてくれる。〈若い私が見えないか〉という歌い出しに、彼らのデビューミニアルバムが『覚醒』というタイトルだったことを思い出した。

 もちろんこれは筆者が個人的に「Gifted」から感じたことにすぎず、この曲をどのように解釈するかは聴いた人それぞれに委ねられる。時を経たらまた受け取り方が変わるかもしれない。GRAPEVINEの楽曲が、そうした時間経過や解釈の変化に耐えうるものだと「Gifted」もまた示している。

※掲載時より一部表現を修正いたしました。

■今井智子
音楽ライター。『朝日新聞』『ミュージックマガジン』『ロッキングオン』『ロッキングオンジャパン』『EMTG MUSIC』などで執筆中。

■リリース情報
GRAPEVINE「Gifted」
2021年3月17日(水)配信リリース
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