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「死に戻り」とは「告解」であるーー『Re:ゼロから始める異世界生活』のテーマを考察

リアルサウンド

20/8/11(火) 10:00

 長月達平が小説家になろうに連載中の小説『Re:ゼロから始める異世界生活』を原作とするアニメ第2期が2020年7月から放映中だ。

 現代日本から異世界に転移した少年ナツキスバルは、唯一手に入れた「死に戻り」の力を使って何度も選択をやり直し、複雑に絡む謎を解き明かしながら、エミリアやレムを救うために奮闘する――というのが『Re:ゼロ』のあらすじだ。

 第1章では「死に戻り」の基本設定の説明と少女エミリアとの出会いが描かれた。

 第2章ではエミリアとともに滞在することになったロズワール邸で起きる惨劇を避けるために何度も死に戻りして行動するなかでラム、レム、ベアトリス、エミリアといった主要キャラクターたちの片鱗が垣間見えていく。

 第3章では、王選に出馬したエミリアを襲う魔女教大罪司教ベデルギウスと、人々から記憶を奪う怪物・白鯨との戦いを描く。

 7月からのアニメは、3章の終わりで別の魔女教からレムが襲撃を受け、存在を忘れられた眠り人となってしまったことに始まり、彼女を取り戻すべく魔女教「暴食」を倒すことをスバルが決意し、エミリアが向かった「聖域」へと足を運び、そこで行われる「試練」に挑んでいくことが描かれる。

 3章までは「レムかわいいよレム」的なエンターテインメント色が強かったが(語弊のある表現)、4章はぐっと重たい話になる。

「死に戻り」と「七つの大罪」モチーフの関係とは

 結局「死に戻り」とは何なのか――断っておくとこれはあくまで「考察」である。

 主人公スバルたちの敵役としてキリスト教の「七つの大罪」に由来する「傲慢」「嫉妬」「憤怒」「怠惰」「強欲」「暴食」「色欲」の魔女やそれを崇拝する大罪司教などが登場することから推察するに、人間を罪に導く欲望(=七つの大罪)と戦うために自らの行動の誤りを反省し、やり直す(=告解・懺悔する)、ということなのだろう。

 カトリックでは、告解を聞いた司祭はどんな理由があってもその内容を他言してはならないとされている(歴史的に実際どうだったかはさておき)。

 『Re:ゼロ』ではスバルが死に戻りしていることを他言しようとすると黒い影がスバルを襲い心臓を握りつぶそうとし、それでも口にすると惨劇が起こる。これは告解は密室で閉じられ、罪を再び侵さないという誓いはそのひと個人において解決されるべきだという原則を示したものと解釈しうる(4章ではスバルが死に戻りしていることを知る人物も登場してくるものの、スバルを救済してくれるわけではなく、彼が自ら戦わなければならないことに変わりはない)。

過去に向き合い、内面のミステリーを解く

 『Re:ゼロ』の1章から3章までは死に戻りをしながら事件の謎を解く、世界の謎を解く物語だったが、4章から始まる「試練」ではスバルやエミリアが自らの過去に向き合うことが課され、これまで描かれてこなかった内面の謎に迫っていくことになる。

 1章から3章まではスバルがフーダニット(誰がやったのか?)、ハウダニット(いかにやったのか?)にチャレンジしていくミステリーだったが、4章はそれに加えてある意味でホワイダニット(なぜやったのか?)の物語になっていく。スバルも含めて「このキャラクターはなぜこんなことをする(人間になった)のか」「過去にどんな人間だったのか」を掘り下げ、それぞれのキャラクターの心理の謎を解いていく、内面のミステリーになる。

 来たるべき赦しと救いの日に向けて、罪に向き合い、人間に破滅をもたらす悪しき欲望や恐怖と戦う――『Re:ゼロから始める異世界生活』はそういう物語なのだと思う。

 もちろん、あらゆる誘惑に勝ち、驕ることなく、腐ることなく、恐れることなく生きられる人間などいない。だからスバルは何度でも反省し、罪に、それをもたらす欲望に向き合い、死に戻ってやり直さなければならない。

 4章序盤では、スバルが不登校だった過去と向き合い、異世界転移以前には両親に伝えられなかった言葉を伝える姿が感動的に描かれる。

 『Re:ゼロ』はそうした姿を通じて、死に戻ることはできない読者/視聴者にも、自らを省みる機会を与えてくれる作品でもある。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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