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Suchmos、立ち位置を更新し続ける野心に満ちた歩み 活動休止発表に寄せて

リアルサウンド

21/2/4(木) 16:00

 2021年2月3日、Suchmosが活動休止を発表。ファンへの感謝と共に「修行の時期を迎えるため、バンド活動を一時休止します」というメッセージが届けられた。2020年7月には新曲のみを演奏する配信ライブを開催するなど、次のアクションが注目されている中での活動休止だった。彼らの歩みは常に立ち位置を更新していく野心に満ちたものであったと思う。本稿ではその歴史を振り返っていく。

 2013年にYONCE(Vo)、HSU(Ba)、OK(Dr)を中心に結成されたSuchmos。小さなライブハウスで経験を積みながら2014年には『FUJI ROCK FESTIVAL』に公募出演するなど活動初期から注目度は高かった。2015年にTAIKING(Gt)、KCEE(DJ)、TAIHEI(Key)が加入して現在のメンバー6人となり、同年7月リリースの1stアルバム『THE BAY』で本格的に世に出ていくことになる。

Suchmos “YMM” (Official Music Video)

 『THE BAY』ではロック、ソウル、ジャズ、ヒップホップを混ぜ合わせたダンサンブルで心地よい音楽を志向し、すでに独自のカラーを獲得している。2012年にceroが『My Lost City』で提示した楽団的な音のリッチさや、2014年のYogee New Waves『PARAISO』に溢れるエキゾチックなメロウネスとも異なる、6人の音だけが溶け合った都会的でクールな音楽性は当時のインディーシーンにおいても孤高の存在感を放っていた。

Suchmos “STAY TUNE” (Official Music Video)

 代表曲「STAY TUNE」が収録された2016年のEP『LOVE&VICE』が快進撃の幕開けだ。『THE BAY』で確立した基礎をより華やかなフォームに進化させた曲であり、リリース時より静かな話題となっていたが同年9月にHonda「VEZEL」のCMソングに起用されお茶の間へと急速に浸透。“心地よくてオシャレな音楽”、“大人には懐かしく、若者には新鮮に聴こえる“といった要素が広く受け入れられた結果、2017年1月リリースの2ndアルバム『THE KIDS』はオリコン週間チャート2位を記録。決定的なブレイクとなった。

Suchmos “A.G.I.T.” (Official Music Video)

 『THE KIDS』は「STAY TUNE」や「MINT」のようなオープンな楽曲もありながら、注目を浴びる中で感じたストレスに反抗するようなエッジーな楽曲も多い。スケールは大きく、しかし攻撃的なロックサウンドを展開したことで、当時Suchmosが中心にいた“心地よくてオシャレな音楽”からは一線を画すポジションへと登り始めた。自らの立ち位置を開拓し続ける姿勢はこの頃から顕著だ。

 2017年にはソニー・ミュージック内に設立した自主レーベル<F.C.L.S.>からメジャーデビュー。開拓者精神のままでさらに上のステージへ向かう。2018年の「VOLT-AGE」はFIFAワールドカップを含む同年の「NHKサッカーテーマ」として書き下ろされた。これまでの起用アーティストの楽曲とは全く違う、どっしりとしたテンポでふつふつと沸き立つ熱が表現されたこの曲は賛否両論を巻き起こすとともに、どんなオーダーであっても迎合することのない彼らのスタンスが貫かれているように思えた。同年、『第69回NHK紅白歌合戦』にも出場し、YONCEが「臭くて汚ねえライブハウスから来ました」と言い放った後に「VOLT-AGE」を爆音で届けた。彼らの出自と在り方を誇るようなパフォーマンスだった。

Suchmos 「VOLT-AGE」2018.11.25 Live at YOKOHAMA ARENA

 2019年3月の3rdアルバム『THE ANYMAL』におけるブルージーでサイケデリックなサウンドは流れを大きく変えた。まるで自分たち自身にもカウンターを打つような転換作である。ゆったりとしながら荘厳な響きを持つ長尺の楽曲たちは、聴いているとどこかに連れて行かれるような気分になる。YONCEの歌声にも悲しみが滲み、混沌とした時代への祈りのようだ。この作品を引っ提げた横浜スタジアムのライブで彼らは3万人を集めた。リスナーに媚びることなく道を切り拓いてきた歴史の成果を証明する夜となった。

Suchmos “In The Zoo” (Official Music Video)

 新曲を数多く披露した昨年7月の配信ライブから約半年後に活動休止を選択したSuchmos。結論に至るまでにどんな思いがあったのか、その全てを知ることは出来ないが、文面にあった“修行の時”というワードは救いだ。各々がスキルとセンスを一層尖らせた後にいつか集結することになるはず。そこで生まれる未知なる音楽で、また新たな道を開拓していくことだろう。

■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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