【おとな向け映画ガイド】
『老後の資金がありません！』けど、気分明るくすっきり後味。オススメです！
ぴあ編集部 坂口英明
21/10/17(日)
今週末（10/22～23）に公開される映画は16本。全国100館以上で拡大公開される作品が『ロン 僕のポンコツ・ボット』『CUBE 一度入ったら、最後』『映画トロピカル～ジュ！プリキュア 雪のプリンセスと奇跡の指輪！』『G.I.ジョー：漆黒のスネークアイズ』の4本。中規模公開、ミニシアター系の作品が12本です。今回は10/30公開の、まさにおとな向け映画『老後の資金がありません！』をご紹介します。
主婦役・天海祐希が光る
『老後の資金がありません！』
この映画タイトルを見て、身につまされる人、多いんじゃないでしょうか。考えてみればつらい話題なんですが、登場人物がそろいもそろって楽天家ばかりなので、暗い気持ちにならず、あるよなあこういうこと、とかいいながら明るく観ていられます。
50代の夫婦に押し寄せる金銭的危機をどう乗り越えるか、がテーマのコメディです。主演は天海祐希。いつものカッコイイ雰囲気は抑え気味に、とはいえ生活に追われ疲弊している、という弱弱しさは微塵もない、彼女ならではのポジティブな主婦、後藤篤子さんを演じています。タイトルの「ありません」を暗く呟くのではなく、「ありませ～ん！」と叫ぶ感じ。どこか、なんとかなると信じている楽天家。元気いいのです。
次の楽天家は、松重豊扮する夫の後藤章さん。いろんなタイプの役を演じている松重さんのなかでは、CMの「それ、早く言ってよ〜」の部長役が近いかな。仕事はできる、でもどこか間がぬけている、人を疑うことがない、好人物です。ふりかかる難題は「篤子さん頼むよぅ」と妻にふる、実はいくじのない夫でもあります。
章の父が逝去します。浅草で何代も続いた老舗和菓子屋の元主人です。店を閉め、老人ホームで隠居暮らしをしていました。あっというまに出番のなくなるこの役を演じたのは『深夜食堂』などで松重とは縁あさからぬ綾田俊樹。章は、この葬儀の費用を長男だからと妹から押し付けられます。ここから、平穏だった家庭に、次から次へとお金にまつわる災難が押し寄せます。篤子は突然パートの仕事をクビになり、ほどなく夫の会社が倒産、息子はなんとか大学を卒業し手間がかからなくなったのですが、フリーターの娘が派手婚をしたいと言い出した、その費用たるや！
でも実は、最高の楽天家は章の母・芳乃さん。草笛光子が扮しています。女将として老舗を背負って来た彼女は、プライドが高く、面倒見もいい。言い方をかえると見栄っ張りで、気前がよく、浪費家。この母が、父が亡くなって同居することになります。気前がいいのはよいのですが、お金はなく、つまり篤子さんにそのツケがまわってくるのです。嫁VS姑のバトルの始まりです。一家の食卓によく登場するのは、これがおいしそうな“豚もやし鍋”なんですが、同居をはじめた母が「きょうは私が作るわ」と言って用意するのは、“高級牛肉のすき焼き”。その対比が傑作です。もちろん肉代を払うのは……。天海祐希はいわずと知れた宝塚の元トップスター。草笛光子は松竹歌劇団の出身です。華やかなふたりならではの粋なシーンもあります。
原作は垣谷美雨の同名小説。『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の前田哲監督が映画化しています。金にうるさい男というのはいやがられますが、これはいい意味で「金にうるさい映画」。ギャグのように金額が画面に登場します。観ていて、へーそんなにするんだといちいち反応したりして。つまり、面白くてかつ勉強になる映画、なのです。
【ぴあ水先案内から】
平辻哲也さん（映画ジャーナリスト）
「……ちょっぴりウルッともさせてくれ、大活躍。当年87歳の草笛の演技に元気をいただけた。」
(C)2020『老後の資金がありません！』製作委員会
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