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広瀬和生 この落語高座がよかった! myマンスリー・ベスト

3月のベストは三遊亭兼好、晴れたら空に豆まいて 「代官山落語夜咄“第4夜”」の『ちきり伊勢屋』。

毎月連載

第17回

20/3/31(火)

「代官山落語夜咄“第4夜”」のチラシ

3月に観た落語・高座myベスト5

①三遊亭兼好『ちきり伊勢屋』
 晴れたら空に豆まいて「代官山落語夜咄“第4夜”」(3/2)
②三遊亭萬橘『つるつる』
 道楽亭「真打競演 三遊亭萬橘独演“つきつきまんきつ”」(2/28)
③柳家三三『元犬』
 上野鈴本演芸場「(柳亭市楽改め)玉屋柳勢真打昇進披露興行」(3/21)
④柳家花緑『つる』
 上野鈴本演芸場「(柳亭市楽改め)玉屋柳勢真打昇進披露興行」(3/21)
⑤桃月庵白酒『浮世床』
 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE「渋谷道玄坂寄席」(3/9)

*日付は観劇日
 2/26〜3/25までに行った
 寄席・落語会23公演、105演目から選出

新型コロナウイルス感染拡大対策として首相からイベントの自粛を求める声明があったのが2月26日。以降、多くの落語会が延期/中止となったが、「消毒」「マスク着用」「換気」を徹底して客席の間隔も考慮するなど万全の対策を講じて開催された会も多々あり、結果的に僕が足を運んだ落語会の数はいつもに比べてもあまり減ってはいない。

今月は兼好の『ちきり伊勢屋』がダントツで1位。全く迷わなかった。3月2日の「代官山落語夜咄」は僕がプロデュースする会で、『ちきり伊勢屋』は僕からの「六代目圓生ゆかりの演目」というリクエストに応えてくれたものだが、実際には師匠の三遊亭好楽が八代目林家正蔵の型を継承したものが基盤。さらに兼好は登場人物を整理して因果関係を一本化し、わかりやすい噺にしている。『ちきり伊勢屋』がこんなに面白いとは驚いた。

兼好演出最大のポイントは父親代わりに傳次郎に愛情を注いできた番頭の存在。「施しをなさいませ」と助言するのは白井左近ではなく番頭で、生き延びた傳次郎をちきり伊勢屋の再興に導くのもまた番頭。番頭は2年前に傳次郎が命を救った山城屋に奉公しながら傳次郎を待っていたのだった。1時間で全編を語りきる見事な演出で観客を引き込み、随所で笑わせて最後に泣かせる名演だ。素直な傳次郎と包容力のある番頭の人間像が心に残る。

「真打競演 三遊亭萬橘独演“つきつきまんきつ”」のチラシ

萬橘の『つるつる』も目からウロコの独自演出が光った。従来の『つるつる』ではお梅の寝室と居間、師匠の寝室などの位置関係が理解不能だったが、萬橘は「お梅の寝床が師匠の家の居間」という設定。それならあの「井戸替えの夢」のサゲも意味が通る。樋ィさんは無理やり一八を連れていくのではなく、事情を知って「じゃあ今夜は無理だな」と言うのに一八が遊びに付き合うと言い張り、「12時だぞ」と樋ィさんに力づくで帰されるという演りかたなので、祝儀欲しさで酔っぱらった一八の自業自得なドタバタ劇として素直に笑えた。

「(柳亭市楽改め)玉屋柳勢真打昇進披露興行」のチラシ

三三の『元犬』は全編オリジナルの爆笑編。愛くるしいシロはあくまで犬らしく、最後に登場する“おもと”の意外な正体もこしら版『元犬』を連想させる凄さ。(もちろん三三がこしらの『元犬』を知るはずはない)ここまで“改作”しても正攻法の古典に聞こえるのが三三ならでは。白鳥作品を演じるときのように生き生きとした『元犬』での三三を観ていると、実はここに三三の本質があるのかも、と思えてくる(笑)。

「落語の隠居も冗談を言う」という噺、という解釈で花緑が演じた『つる』は、短い時間にまとめた中に独自の台詞廻しを自由自在に入れ込んで大いに笑わせてくれた。隠居の描き方も楽しく、八五郎の記憶違いのバカバカしさも他の演者とは別次元。床屋に行くという設定も秀逸だ。花緑の“落語脳”に感心させられた一席。

「渋谷道玄坂寄席」のチラシ

白酒の『浮世床』は将棋~本。先手を決めるだけでこんなに笑える“将棋”も素敵だが、圧巻は“本”。とにかく、源ちゃんの顔が卑怯なくらい可笑しい。音読も、その声の響きを聞いてるだけでバカバカしくて笑わずにはいられない。まさに爆笑編、これぞ名人芸!



最新著書

『21世紀落語史 すべては志ん朝の死から始まった』(光文社新書)1,000円+税

プロフィール

広瀬和生(ひろせ・かずお)

広瀬和生(ひろせ・かずお) 1960年、埼玉県生まれ。東京大学工学部卒業。ヘヴィメタル専門誌「BURRN!」の編集長、落語評論家。1970年代からの落語ファン。落語会のプロデュースも行う。落語に関する連載、著作も多数。近著に『「落語家」という生き方』(講談社)、『噺は生きている 名作落語進化論』(毎日新聞出版)、最新著は『21世紀落語史 すべては志ん朝の死から始まった』(光文社新書)など。

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