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ずっと真夜中でいいのに。の音楽は、なぜ心の深い部分を掴むのか 『潜潜話』に投影された現代を生きる“僕ら”の姿

リアルサウンド

19/11/21(木) 7:00

 「ずっと真夜中でいいのに。」ーーそう聞くと、何を思い浮かべるだろうか。日曜の夜、真夜中でも煌煌と光る新宿・歌舞伎町のネオンを見ていたら、私もそんな感情になった。このまま夜が明けなければいいのに。そんな諦めに似た願いをアーティスト名にしたのが、今注目のアーティスト、通称・ずとまよである。ずとまよは昨年6月、印象的なアニメーションとともにYouTubeに突如「秒針を噛む」を投稿。本動画は動画総再生回数3500万回を突破し(11月20日時点)、彼らの名を多くの音楽ファンへ広めるきっかけとなった。

(関連:【ライブ写真】ずっと真夜中でいいのに。

 この夏出演した『FUJI ROCK FESTIVAL ’19』も大いに話題になるなど、カリスマ的人気を獲得している。そんな彼らの1stフルアルバムが『潜潜話』だ。読み方は“ヒソヒソバナシ”。メンバー編成が明かされていない、彼らの存在自体の「秘密性」とも相まって、まさに個人的な物語を共有し合うような作品だ。今回はその歌詞に注目してみようと思う。

 本作を通してまず感じたのは、「今」の時代に生きる僕らを強く投影しているのではないかということだった。ここで「僕ら」と書いたのは学生や、SNSネイティブの若者たちが特に描かれているように思ったからだ。現代の特に若い世代は、SNSで互いに意見し合い、自分の言葉で語ろうとする人が増えているように思う。その一方で、非難や炎上を好む人も後を絶たず、指摘に怯え、したためた本心はTwitterの下書きに残り、出せない言葉ばかりが溜まる。そんな風に感じる時代ではないだろうか。実際「勘冴えて悔しいわ」では〈着いた 吐いた ツイッター呟く 7個目の方で〉とまさに裏垢だらけの現代人を思わせるフレーズが出てくる。本作では全ての曲の歌詞が長いことにも驚かされたのだが、これは本音を吐き出し切れない現代の生き方を投影しているように思える。

 「眩しいDNAだけ」ではラップも取り入れられ、より多くの文字を一曲に詰め込み、語り足りない気持ちが滲み出ているようだ。メロディは同じでも、歌詞の繰り返しがほとんどないことが多いが、同曲では唯一〈犠牲にしたって本心だけ〉というフレーズだけは繰り返し歌われる。これには、本心すら犠牲にしても良い、軽いものになってしまった現代的な刹那を感じた。

 同曲では〈今は傷つくことも願ってる 見たことない光を望むなら〉と、DNAに書き込まれたシナリオ通りに生きていきたくはないと歌い、学校や親の言いなりになりたくないと思っていた学生時代が浮かぶ。「居眠り遠征隊」でも〈誰かの期待に応える必要ナイの 盛られた噂に白目 向けたらイイの〉と歌い、「優しくLAST SMILE」では〈保健室のせんせいとは 仲良くしよ〉と学校や世間にうまく溶け込めない生活を描く。

 では本作の主人公は、世間に反してやりたいことがあるのかといえば、そうでもなさそうだ。ところどころ、こうなら良いのに、こんなのは嫌だ、と主張めいた歌詞はあるものの、結局のところ本心や強い意志はないように感じる。さらりとした曲調も、この感覚を助長させているかもしれない。アーティスト名の通り、全ての曲のどこかに「諦め」を含んでいるように思えるし、「ずっと真夜中がいい」のではなく「ずっと真夜中でいいのに」と、意志ではなく静かな願いを歌うアーティストなのではないかと感じた。

 「蹴っ飛ばした毛布」では〈今は緩い安心が不安なんだよ〉とどっちつかずの感情を吐露し、「こんなこと騒動」では覚悟を決めたい、ではなく〈もう どうだってよくなってしまう前に 覚悟を決めたかった〉と後悔を歌う。「Dear. Mr「F」」では〈そもそも住む世界が違うな 冗談だよ 口癖の 間違えた ふりして笑おう〉と見たくないものに蓋をする。自分の本心、存在が空虚な感じだ。「秒針を噛む」の〈「僕っているのかな?」〉という一言に、まさにこの空虚が集約されているように思う。決して器用とはいえない生き方が垣間見える本作。そこに宿るのは、不器用な現代人なのかもしれない。

 彼らの歌詞に明確なメッセージは無いように思う。力強く励ますわけでもないし、世間を痛烈に風刺しているわけでもない。鬱憤をまくしたてるように歌うわけでもない。だから、思い切り背中を押されたり、激しく共感したりというものではないように感じる。けれど彼らの歌詞を構成する欠片達は、確かに今を生きる私たちとリンクする。そしてその欠片が、今まで感じたことの無いほど猛烈な輝きを放ち、自分だけに向けられたメッセージかのように聴こえる瞬間があるのだ。これが彼らにしかない独自性であり、カリスマ的人気を獲得した理由の一つであろう。不思議なくらい、心の深い部分を掴まれるアーティスト。もっともっと彼らを知りたいと思う。(深海アオミ)

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