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『バッドボーイズ フォー・ライフ』はシリーズの転換点!? 成功した“引き算戦法”

リアルサウンド

20/2/5(水) 10:00

 見た目も中身もギンギラ、ナンパで武闘派刑事のマイク(ウィル・スミス)と、常識人ながらマイクの暴走の心労から時おり奇行が目立つ良き家庭人の刑事マーカス(マーティン・ローレンス)。2人はマイアミ警察のお騒がせコンビ、通称“バッドボーイズ”として名を馳せていた。しかし、イキのいい若手だった90年代も、脂の乗り切ったゼロ年代も遠い昔。2020年に突入し、マイクはヒゲに白髪が混ざるようになり、マーカスは孫まで誕生して、撃った撃たれたの刑事稼業から引退を考え始める。そんな折、メキシコの麻薬カルテルから冷酷非情かつキレキレの動きを持つ暗殺者が出現、警察関係者を次々と殺害していく。やがて暗殺者の魔手がマイクにも迫るのだが――。

参考:ウィル・スミスが狙われる 『バッドボーイズ フォー・ライフ』日本版ポスター&最新予告公開

 結論から言うと、本作『バッドボーイズ フォー・ライフ』は『バッドボーイズ』シリーズの転換点だ。もちろんシリーズの基本のツボは押さえている。ド派手な銃撃戦とカーアクションはあるし、ウィル・スミスとマーティン・ローレンスの漫才もテンコ盛り。一方で、物語はシリーズで最もシリアスかつダークになっている。ジャンルもバディものから『ワイルド・スピード』系のチームものへシフト。今までの『バッドボーイズ』とは明らかに手触りが異なるが、これはこれでありだ。むしろ逆に今までの……特に『バッドボーイズ2バッド』(2003年)の異常さが際立つ。やや話は脱線するが、やっぱ『2』は異常な映画ですよ。人は缶詰になるし、後半からキューバで戦争するし。そりゃエドガー・ライトやクリストファー・ノーランとか、世界中の映画人がビックリしたのも当然っスね。あれ、今こそ爆音上映とかで観たいっス。閑話休題。ともかく『2バッド』のスケールを期待していくと、こじんまり感を覚えるかもしれない。ただ、刑事モノとして足し算で考えたとき、『2』以上のものはなかなか出せないだろう。いわば今回は引き算の勝負。そして、この引き算戦法は成功していた。

 ウィル・スミス、御年51歳。息子のジェイデン・スミスも色々あった末に独り立ちを始め、妻のジェイダ・ピンケット=スミスと離婚寸前まで関係が悪化したこともある。かつて“フレッシュ・プリンス”を名乗っていた若者も、今では立派な中年男性なのだ。ウィルさんは、もう若さに頼れない年齢に達した。人間は若いままではいられない。しかしスターは輝きを失ってはならない。

 ウィルさんは輝きを失わないため、一歩引くことを覚えた。映画以外の部分では “おもしろおじさん”としてSNSを使いこなしている。『スーサイド・スクワッド』(2016年)や『アラジン』(2019年)では助演に回った。それに今回はアクションだけではなく、ドラマ的な面で魅せてくれる。今回はウィルさん演じるマイクの過去に触れるのだが、今までのシリーズにはないウェットな展開になっていく。アクション映画としてスケールダウンしたのは否めないが、マイクの苦悩を描いたホロ苦い展開や、それを受けてのウィルさんの芝居は間違いなくフレッシュな印象を観客に与える。そういえば、同じくビッグスターのトム・クルーズもド派手を突き詰めた『ミッション:インポッシブル2』(2000年)の後には、チーム映画的な側面を強調し、怖いもの知らずのスーパースパイから“妻を守るために奮闘する男”へキャラをシフトさせた『ミッション:インポッシブル3』(2006年)を作っている。ウィルさんはトムクルさんと友達らしいので、彼のキャリアを参考にしたのかもしれない。

 さて、ここまで散々“スケールダウン”という言葉を使ったが、それはあくまで“『バッドボーイズ2バッド』に比べて”という意味だ。今回も普通のアクション映画と比べれば、十分にド派手である。銃撃戦やカーアクションもさることながら、格闘アクションのキレ味はシリーズ随一だろう。監督を務めたのは、ベルギー出身のアディル・エル・アルビ&ビラル・ファラー。最初に書いた通り、このシリーズのツボはしっかり押さえているし、何より全編に漂うチャラさ加減も絶品だ。特にパーティーのシーンは白眉である。起用したミュージシャンは『アクアマン』(2018年)でTOTOの名曲「Africa」を超絶粗雑にサンプリングした名曲「Ocean To Ocean」を発表した前科を持つピットブル。彼の「Damn I Love Miami」という直球にも程がある曲が鳴り響き、脳ミソがすっかりマイアミになること請け合いだ。こうしたチャラさと後半からのシリアスさの使い分けも上手い。

 シリーズのツボを押さえつつ、上手くシリーズの方向性を修正する。ややホロ苦いドラマを見せながら、それでも最後の最後には「『バットボーイズ』を観た」と思わせるのは至難の業だ。しかし本作は、ウィルさんとマーティン・ローレンスの好演と、監督たちのバランス感覚で、この難しい仕事を見事に成し遂げている。シリーズに求めるものが(マイケル・ベイの狂気以外は)ちゃんとあって、しかもシリーズの今後が楽しみになる1本だ。(加藤よしき)

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