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おとな向け映画ガイド

今週は、おとなが観逃せない!3本をご紹介します。

ぴあ編集部 坂口英明
20/7/26(日)

イラストレーション:高松啓二

今週のロードショー公開は18本(ライブビューイング、映画祭企画を除く)。連休後でもあり、全国100スクリーン規模以上で拡大公開される作品はなく、すべてミニシアター系の作品です。今回はその中から2本、もう1本は上映中から、ぜひ観逃さないで、という3本をご紹介します。

『海辺の映画館-キネマの玉手箱』



大林宣彦監督最後の作品がいよいよ公開されます。当初予定されていたのが4月10日。コロナ禍のため上映延期となったのですが、その公開するはずの日に他界されました。まさに、文字通りの遺作。しかもその内容たるや、映画で遺言を残されたとしか思えないほど、メッセージは明確で、映像表現は実験映画の精神に満ち満ちた「ぶっとんだ」ものでした。

海辺の町にある古い映画館「瀬戸内シネマ」がいよいよ閉館。その最後の日のプログラムは「日本の戦争映画」オールナイト上映会です。老若男女で満員の館内。画面に見入る3人の若者は熱中するうち、スクリーンの世界、つまり日本が体験したさまざまな争いの場に入っていってしまいます。あるときは、新選組が跋扈する幕末の京都、戊辰戦争の会津、さらに日中戦争、沖縄戦、原爆投下直前の広島……。

舞台は監督の生まれ故郷・尾道。代表作『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』は“尾道三部作”とよばれています。この作品は、20年ぶりにその尾道でロケをし、制作されました。劇中には、少年時代に初めて作った手描きアニメの思い出も再現されますし、監督に影響を与えた映画や、中原中也の詩の引用など、自伝的要素も盛り込まれています。同じく尾道を舞台にした『東京物語』の小津安二郎監督も登場します。

その小津監督を演じているのは手塚眞。前知識がないとわかりません。そんな異色のキャスティングは、映画のいたるところにみられます。それはまるで「キネマの玉手箱」のようです。例えば、幕末の世界にとべば、近藤勇は尾美としのり、武田鉄矢が坂本龍馬、中岡慎太郎に柄本時生、西郷隆盛は村田雄浩、なんと大久保利通役は稲垣吾郎です。そしてその脇でお茶をたてているのは千利休役の片岡鶴太郎、おなじみ常盤貴子、根岸季衣、入江若葉……。きりがないのでやめますが、大林作品ゆかりの俳優たち総出演です。

3時間近い大作です。パロディで茶化しながら、ファンタジックな映像を駆使し、思いのすべてをここにこめた、そんな映画作家の熱い気持ちが伝わってくる、映画史上にない映画による遺書です。

『剣の舞 我が心の旋律』



『天国と地獄』や『剣の舞』、運動会徒競走にかかる曲、あれ、どなたが選んだんでしょうね。聴くとやたら元気がでて、逃げ足が早くなりそうな『剣の舞』は、もともと、第二次大戦下のソ連で、アルメニアを舞台にしたバレエ『ガイーヌ』のためにアダム・ハチャトゥリアンが作曲したのだそうです。世界でも屈指の演奏回数といわれるその名曲の、誕生秘話をもとにオリジナル脚本で映画化しています。

もちろんアルメニア人ハチャトゥリアンの幼年期の思い出などは背景として描かれますが、映画は『剣の舞』が作られる前後2週間に絞り込んだスト―リーになっています。

戦時下、レニングラード国立オペラ劇場も地方へ疎開しています。10日後に控えたバレエ『ガイーヌ』のリハーサル中。検閲にやってきた文化省の役人から、時節柄、士気高揚のため、勇壮な曲を付け加えるように命じられます。芸術をプロパガンダの道具としか考えない理不尽な文化官僚に抗いながら、ハチャトゥリアンは、ある着想がひらめき、開幕の前夜、この曲をひと晩で書き上げるのです。

実際に親しかったといわれる作曲家、ショスタコーヴィチやオイストラフも登場します。親友ふたりとの会話では、不自由な国家のなかで、どう生きるかが語られます。ハチャトゥリアンに恋するバレリーナ、同郷の従者、そして対立する文化官僚など、わかりやすいキャラの登場人物が織りなす人間模様と差し迫った時間のなかで展開する曲づくり。クラシック好きでなくても大満足のエンタテインメント映画です。

首都圏は、7/31(金)から新宿武蔵野館他で公開。中部は、7/31(金)から名演小劇場で公開。関西は、8/7(金)からテアトル梅田で公開。

『コンフィデンスマンJP プリンセス編』



公開初日の23日、渋谷の映画館で観ました。さすがの人気シリーズ、コロナ禍対応で座席数を絞っていますが満員の盛況。映画としては2作目。前作よりさらに面白いです。

長澤まさみのダー子、東出昌大のボクちゃん、小日向文世扮するリチャードというメイン3人に、アシスタントの小手伸也や「子猫ちゃん」とよばれる協力スタッフも加えたおなじみの詐欺師チームの、国際的犯罪プロジェクト。今回狙いを定めたのは、シンガポールの大富豪フウ一族の後継者争い。当主の死後、遺書に書かれていた全財産の相続者は3人の実子ではなく、ミシェルという隠し子だった―。ダー子の計画は、このミシェルをでっちあげ、遺産をいただく、というもの。その替え玉ミシェルになった、コックリ(関水渚)のシンデレラ・ストーリーでもあります。

『男はつらいよ』をはじめ、愛されるシリーズものの楽しさは、登場人物のキャラクターがわかりやすく、彼らの「お約束」やフォーマットがかっちりできていること。それでいて、初めて観ても楽しめる。その点このシリーズは完璧ですし、マンネリにもなっていません。

前回もそうでしたが、舞台がアジアの観光地というのも成功の秘訣と思います。シンガポールのフウ一族にしても当主役の北大路欣也をはじめ、ふたりの息子を日本人の古川雄大や白濱亜嵐が演じても無理を感じません。逆にギャグがかっていて笑えます。それにしても、長女役に台湾の元アイドル、ビビアン・スーを起用してくるとは驚きました。45歳って、信じられないキュートさ。やや悪役ですけど。執事役の柴田恭兵も渋いです。

またまたでてくる日本のマフィア・赤星の江口洋介や、竹内結子、石黒賢、広末涼子といったシリーズ常連もなるほど、それぞれに見せ場あり。そして、プレイボーイの詐欺師ジェシーを演じた三浦春馬は欠かせない存在でした。とても惜しまれます。

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