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『アシュラ』『銭ゲバ』『浮浪雲』……ジョージ秋山が遺した“漫画らしさ”のかたち

リアルサウンド

20/6/4(木) 13:56

 漫画家のジョージ秋山が5月12日に亡くなった。享年77歳。

 代表作はやはり『浮浪雲』(小学館)だろうか? 

 1973年から2017年まで、『ビックコミックオリジナル』で連載された全112巻に渡る本作は、幕末の江戸時代を舞台にした人情漫画。宿場町で問屋を営む「夢屋」の主人・雲(くも)の生き様は自由の一言。その達観した姿は作者にとっての理想像であり、仏教における「色即是空、空即是色」そのものだったと言えるだろう。

 その意味でも作者の到達点といえる作品だが、この悟りにも似た境地に辿り着く過程で、業の深い苦悩に満ちた漫画を多数発表していた。その筆頭が『アシュラ』と『銭ゲバ』だ。

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 『少年マガジン』で連載された『アシュラ』は、飢饉が広がる中世と思しき日本を舞台に、アシュラという醜い少年の姿を通して「生きるとはどういうことか?」を描いた壮絶な作品。アシュラが生きるために人肉を食らう描写があることが当時問題となり有害図書指定された。

 対して『銭ゲバ』は『少年サンデー』で連載された作品で、貧しい家に生まれた醜い少年・蒲郡風太郎が銭と暴力(ゲバルト)によって権力の頂点に上り詰めようとするピカレスクロマン。どちらも70~71年にかけて連載された作品だが、当時の少年誌は学生運動の盛り上がる世相に後押しされて、みるみる先鋭化していき、少年漫画から逸脱した過激な作品や文芸性の高い作品が次々と生まれていた。

 ジョージ秋山もデビューした60年代後半は『ガイコツくん』、『パットマンX』といった児童向けの漫画を描いていたが、その作家性がみるみる先鋭化していく。その初期の達成であり問題作が、この二作だ。話数も短いため、ジョージ秋山を知らない人は、まずこの二作から入るといいだろう。逆にこの二作を読んで「無理」という方には、あまりオススメはしない。

 暗鬱とした『アシュラ』や『銭ゲバ』が一方にあり、もう一方に『浮浪雲』があるというのがジョージ秋山の世界だ。そして、この二極の間にも優れた作品が多数ある。

 『アシュラ』が問題化した後、ジョージ秋山は『告白』という漫画を『少年サンデー』で発表。殺人の告白からはじまる本作はどこまで本当でどこまで嘘かわからない私小説的な作品で連載終了とともにジョージ秋山は漫画家引退を宣言するのだが、その三カ月後に漫画家に復帰し、『少年ジャンプ』で『ばらの坂道』を連載する。心が病んだ母親を抱える少年・土門健が、多額のお金を手に入れ、仲間たちとともに「理想の村」という共同体を築こうとする姿を描いた文学的な作品だった。

 一方、72~73年にかけて『少年サンデー』で連載した『ザ・ムーン』は、巨大ロボット・ムーンを操る子どもたちの活躍を描いた異色のロボット漫画。鬼頭莫宏の『ぼくらの』(小学館)が本作の影響を受けていることで知られているが、浦沢直樹もTwitterに上げた追悼文で『ザ・ムーン』のイラストを描いていた。隠れた人気作である。

 こういった、多数の問題作を描いた後、『浮浪雲』を連載するのだが、この問題作を連発していた70年代初頭がジョージ秋山の絶頂期と言えるだろう。その後は『浮浪雲』を連載する傍ら、『ピンクのカーテン』や『恋子の毎日』といった映像化された作品や、動物のキャラクターを主人公にして暴力と性を描いた『ラブリン・モンロー』、文学性の高い『捨てがたき人々』といった作品を生み出すのだが、興味深いのが『くどき屋ジョー』から生まれた悪役・毒薬仁(どくぐすり じん)が登場する一連の作品。

 毒薬は女にモテないブサイクなヤクザで「オリ(俺)の名前を言ってみろ」が口グセ。品がなく粗暴で、金と暴力ですぐに女を支配しようとするが、そんな生き方に時々虚しさを感じては「海を見に行く」という『銭ゲバ』の風太郎をコミカルにしたような小悪党。読者の間で大人気となり、次々と他の作品に悪役として登場するようになる不思議な男だ。そしてついに『スンズクの帝王 オリは毒薬』で、主役を張ることになるのだが、この毒薬こそがジョージ秋山が生み出した最高のキャラクターだったと言えよう。

 最後に、個人的に一番好きな作品が2002~05年に描かれた『WHO are YOU 中年ジョージ秋山物語』。連載時は秋山勇二名義で描かれていたため『告白』のような作品になるかと思われたが、中年漫画家の日常を、虚実を交えて描いた飄々とした漫画である。後半になると『銭ゲバ』の風太郎や毒薬といった漫画のキャラクターが登場してジョージ秋山と対話するという異常な展開になるのだが、愛嬌のある作品で、何度も読み返している。

 晩年になるほど哲学性、文学性、宗教性を内包した作家性が評価されるようになったジョージ秋山だが、多作ゆえに、行き当たりばったりの展開で進み、ぶん投げるように終わった作品も多かった。しかしそれも含めた“漫画らしさ”を最後まで手放さなかったことこそが、彼の漫画の魅力だったと言える。今は、毒薬を含めた全てのキャラクターを愛おしく思う。

(文=成馬零一)

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