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『おっさんずラブ-in the sky-』成功の鍵は戸次重幸が握っていた!? “切ない担当”=四宮に幸あれ

リアルサウンド

19/12/21(土) 7:00

 『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日系)で特に感情移入してしまう登場人物は、戸次重幸が演じる四宮要だ。

参考:多様化する“続編もの”ドラマ 成功の鍵は「変わったこと・変わらないこと」の見極めにあり

 思い返すと、『-in the sky-』の初回はピリピリしていた。新人CA・春田創一(田中圭)に当たりが強い先輩CAたち。まだ周囲に壁を作っていた成瀬竜(千葉雄大)。春田は2度も顔面にコーヒーをぶち撒けられたし、「優しい世界」と認識していた同作の世界観と異なる展開には戸惑ったものだ。

 そんな中、初登場から人柄の良さがだだ漏れしていた四宮は救いの存在だった。また、前作で春田と結ばれた牧凌太(林遣都)のツンデレ成分は成瀬へ、料理上手という要素は四宮へ受け継がれた? とも我々は勘繰った。何しろ、春田は胃袋を掴まれるタイプだ(もっと言えば、シノさんという愛称は『きのう何食べた?』(テレビ東京系)のシロさんに掛けた? ともよぎった)。まだ『-in the sky-』の雰囲気に据わりの悪さを感じていた頃、四宮だけは心の拠りどころだったのだ。

 初回でこんなやり取りがあった。成瀬から突然キスされた春田は、そのことを四宮に愚痴り、「だってシノさん、俺とキスしろって言われてできます?」と質問。すると、四宮は真顔で「できるよ」と返答。察しの悪い春田が「え?」と戸惑うと「なんてな。やめろ、お前(笑)。ないないない!」と即座に否定したくだりである。あの瞬間、「彼がこのドラマの“切ない担当”なんだな」と認識した。そして、「このドラマの成功の鍵は四宮に掛かっている」と確信した。春田と結ばれるにしろ恋破れるにしろ、彼を応援しようと心に決めた。

 ストーリーが進むほど、四宮の切なさは深度を増していく。隠れて描き溜めていた春田のデッサンが風に舞い、必死でかき集める四宮の姿に、もう感情移入していた。「気付かないでくれ、気付かれると春田との関係が壊れてしまう!」。四宮は秘めた恋をしようとしていたのだ。

 春田に対してだけじゃない。四宮がしてきた恋はずっと秘めたものだった。橘緋夏(佐津川愛美)とカフェで食事していたとき、ショートケーキの苺を緋夏に取られた四宮は「ああーーっ! それは、最後に取っておいた……」と錯乱。緋夏が謝罪すると「緋夏ちゃんは悪くない。こんなもの最後まで取っておく俺が……。いっつもそうだよぉ!」と自分を責めた。彼の今までの人生が、このシーンに凝縮されている。好きな人がいても、彼は手を出さずに見守るだけ。そして最後は他の者に取られてしまう。しかし、想う気持ちは大きいから「ああーーっ!」と行き場のない感情が爆発。おそらく、彼はいつもそうだった。思わず、天空不動産から武川政宗(眞島秀和)を呼んできて「相手の幸せのためなら自分は引いてもいいとか、どっかのラブソングかよ。そんな綺麗事じゃねえだろ、恋愛って」と説いてほしくなる。取られてあんなに悔しがるのなら、自ら手を伸ばすべきなのに。

 4話の卓球大会で春田への想いをばらされてしまった四宮。春田から「俺なんかの、どこが……いいの?」と問われたが、四宮はこの期に及んで「誰がお前なんか」と一笑に付した。もう、全てが切ない。「お前なんか~」と人を貶める発言は、あまりに四宮らしくない。嘘がバレバレなのだ。でも、彼は「俺には幸せになる資格がない」と頑なだった。

 「幸せになる資格がない」と口にする理由は、別れた妻子にある。断りもなく家を出ていった元妻の蘭(松島花)。四宮は自分のセクシャリティが原因と考え、責任を感じていた。

 そういえば、『きのう何食べた?』でも第2話で、シロさん(西島秀俊)が女性との交際歴を告白していた。「もしあのまま仁美と付き合い続けていたら、俺、結婚とかしてたかもしれない。子どもだってできてたかもしれない。でも、ゲイであることはやめられないから、奥さんと子どもを裏切って彼氏作って。それでも家族を捨てられないから、結局、彼氏のことも傷つける。そういうの、続けてたと思う……。ゾッとするよ。仁美には悪いことしたって反省してる」。

 一方、成瀬は四宮の離婚歴について理解を示した。「別に、あるあるじゃないですか。恋愛対象が同性でも、普通に家族欲しいっていう人はいっぱいいますよね」。

 シノさんは、まさしくシロさんのifの姿を体現していたのかもしれない。それら全てを背負ったからこその切なさ。でも、蘭はシノさんがゲイだと知っていたし、それでもシノさんに結婚してもらいたかった。だから、「要と結婚したこと後悔してないよ」と告げた。自分を縛り付けていた過去と決別し、シノさんが前へ進めた瞬間だ。

 そして、シノさんは春田に告白をした。「まずはお試しで1週間、一生のお願い!」。今まで切ないキャラだったシノさんが、ようやく前に出た! このお試し1週間は、ババ抜き形式で進んでいく。春田が1枚カードを引き、そこには四宮が考えたイベントが書いてある。それを2人で実行する7日間だ。しかし、春田に心変わりは訪れなかった。四宮を“良い先輩”としか思えなかった。そして、最後の7日目。四宮が用意したイベントは「手をつなごう」だった。お試し期間の勝算が2パーセントと踏んでいた四宮は「1週間の思い出をありがとう」の思いを込め、手をつなぐのではなく春田と“握手”した。そして春田の気持ちを察し、「俺は春田とは付き合わない」と自ら引き下がった。四宮には久々のチャンスだったはずなのに、そんな貴重な1週間を彼は彼らしく理性と優しさで締めくくった。

 四宮を密かに想っているのは成瀬だ。四宮は成瀬から告白された。しかし「いいかげん諦めてくれ、迷惑だ!」とキツい言い方で跳ね除けた。四宮のことを知る我々なら、彼の意図が丸わかりである。成瀬を自分から遠ざけ、春田の恋心を成就させてやりたい。四宮は自分の幸せより他者の幸せをいつも優先する。公園で成瀬を発見した春田は、成瀬と手をつないだまま寮に帰ってきた。その姿は四宮との握手とコントラストになっている。ここまで切なくさせると、観ているこっちが辛くなってくるのだが。

 21日放送の第8話で『おっさんずラブ-in the sky-』は最終回を迎える。視聴者からの応援を背に受けてきた四宮だが、今まで彼には切ないシーンしかなかった。それはそれで寂しい。四宮の自己犠牲がいつか報われてほしいという気持ちも少しある。着地点が全く予想できない最終話、四宮はどんな表情をしているのだろう?

 筆者にとって四宮は、今でもこのドラマの拠りどころだ。全8話が終わった後、『おっさんずラブ-in the sky-』は、余韻として四宮要の印象が大きく残る作品になっている気がする。

■寺西ジャジューカ
1978年、東京都生まれ。2008年よりフリーライターとして活動中。得意分野は、芸能、音楽、(昔の)プロレス系、ドラマ。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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