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斉藤和義は“理想のポジション”をどう築いたか? 消費されないミュージシャン像を探る

リアルサウンド

14/12/17(水) 17:00

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 斉藤和義の勢いが止まらない。デビュー20周年となった昨年は、初のさいたまスーパーアリーナ公演を大成功に収め、2枚同時発売のアルバム『斉藤』と『和義』はオリコンの2位と3位にランクイン。この2作品を従えて回ったツアーでは全国55都市62公演を周り、約14万人を動員している。さらに、いつそんな時間があったのか今年の秋には中村達也とのユニットMANNISH BOYSで2枚目のアルバム(これが最高にクール!)を完成させ、同時にCMやドラマのタイアップとして新曲「Endless」と「ワンダーランド」も書き下ろしているのだ。

 脂が乗りまくっている。売れに売れている。全国のメディアやイベンターから引っ張りだこ。近年の斉藤はまさにそういう状況なのだが、なんだろう、いかにもトップスターでございというオーラがまったく感じられない。もちろんいい意味でだ。これだけタイアップに恵まれておきながら商業の匂いがしない。それは全ミュージシャンにとって理想のポジションではないかと思うのだ。

 もっとも、商業のことを本人がまったく考えないわけではないだろう。たとえば「Endless」は三井不動産レジデンシャルの「タイムスリップ!服部安兵衛」主題歌として作られた新曲。赤穂浪士のひとりが現代にやってきて騒動を起こすコメディ調のWeb映画だが、笑いの中にも「建物や街は、暮らす人々の愛情によって成熟し価値が増す」という企業PRが光っている。そのストーリーを受けて、斉藤は実にポップな、コメディに似合う軽やかなメロディを書き下ろす。歌詞も企業側の要望をよく汲み取っているのだろう。一粒の種が大木になり、切られて資材となり商品となり、人に愛されることによってかけがえのない財産になっていくストーリーだ。ただ、主語は建築ではなくヴィンテージギター。この瞬間、いち企業の理念は、立派な斉藤和義の物語になってしまう。このあたりが本当に上手い。

 さらに「ワンダーランド」は栃木発地域ドラマ「ライド ライド ライド」の主題歌。疾走感のあるロックンロールと、〈Oh—!〉という爽やかなコーラス、〈風の中を今すぐ走りだそうよ〉というような歌詞は、ドラマ題材である自転車ロードレースチームにお誂え向きのものだろう。でも、そこに〈風に吹かれたら唄って〉とボブ・ディランを忍ばせたりするのが斉藤和義カラー。ロック好きなら必ずくすぐられるツボがある。その要素は、過去のどんなヒット曲にも感じられるのだ。

 タイアップの仕事はきちんとこなす。プロとして職人として、一定のクオリティを保ち続ける。だけど自分のルーツも必ず出す。そのバランス感覚が実に優れているのだ。あるいは、八方美人に仕事をせず、どこか「男のこだわり」を感じさせる佇まいだからこそ、彼の歌を起用することが「企業のこだわり」と合致するのだろうか。今はバンバンCMを打てば商品が売れる時代ではない。だからこそ、斉藤のタイアップは昨今増えているのかもしれない。

 今から21年前、斉藤和義は「僕の見たビートルズはTVの中」でデビューしている。今となればこれは非常に示唆的なタイトルに思えてくる。ビートルズというロックの基本を、TVというマスメディアで見る経験。シンガー・ソングライターでありロックンローラーであり、自由人、ギターマニア、優男、エロ好きな「せっちゃん」などなど、さまざまなイメージで語られる斉藤和義だが、彼がやってきたことを改めて振り返れば「マスメディアでのロック体験」という一言に集約されるのではないか。ポンキッキーズで「歩いて帰ろう」を知った人、アリナミンのCMで「やぁ 無情」を知った人、家政婦のミタで「やさしくなりたい」を知った人は、のべ一億人では済まないはずだ。

 なんとなく見ていたテレビで斉藤和義が流れてくる。なんかいいなと思う。シングルやアルバムを買ってみて、今度はコンサートに行ってみる。そこまで深みにハマる人はわずか数パーセントだろうが、それでも十分だ。彼女たちはギターソロの魅力に引きずり込まれ、ギブソンの深さを知る。また、普段は二枚目でもないくせに、ギターを持った瞬間たまらない色男に変身するギタリストという人種を知る。普段は口下手でぶっきらぼうなのに、唄いだした瞬間に官能的になる「歌うたい」という人種を知るのである。下世話を承知でいえば、ギャップ込みのセクシャリティというのは、どんなイケメンよりも強いのだから。

 よく言われることだが、斉藤和義のライヴは美女率が高い。彼の仕事ぶりを観ていれば当然だと思うが、これもまた、全ミュージシャンの羨望なのだろう。そして、売れても売れても、斉藤和義は何も背負っていないように見える。飄々と好き勝手に、自分のやりたいことをやっているように見える。まさに理想のポジション。彼の旬はまだまだ続きそうだ。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

20141217-saito3.jpg斉藤和義『Endless』

■リリース情報
『Endless』
三井不動産レジデンシャル『タイムスリップ!堀部安兵衛』主題歌
特設サイト: http://www.horibeyasu.be/

『ワンダーランド』
NHK宇都宮放送局開局70周年記念 栃木初地域ドラマ『ライド ライド ライド』主題歌
番組サイト: http://www.nhk.or.jp/utsunomiya/drama/

レコチョク
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20141217-saito4.jpg斉藤和義『ワンダーランド』

■ライブ情報
『KAZUYOSHI SAITO LIVE TOUR 2014 “RUMBLE HORSES”』

11月25日(火) 仙台Rensa
11月26日(水) 仙台Rensa
11月29日(土) BLUE LIVE広島
11月30日(日) BLUE LIVE広島
12月7日(日) Zepp Sapporo
12月11日(木) Zepp Tokyo
12月12日(金) Zepp Tokyo
12月16日(火) なんばHatch
12月17日(水) なんばHatch
12月21日(日) Zepp Nagoya
12月22日(月) Zepp Nagoya
12月26日(金) Zepp Fukuoka
12月27日(土) Zepp Fukuoka

http://www.kazuyoshi-saito.com/tour2014/

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