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原点に立ち返った新しい『スター・ウォーズ』 『マンダロリアン』が高評価を得た理由を解説

リアルサウンド

21/1/27(水) 8:00

 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)よりスタートした、ディズニー主導による新しい『スター・ウォーズ』シリーズ、「続3部作」とスピンオフ映画は、それぞれに多くの観客を集めたビッグプロジェクトだ。しかし、その内容について賛否の声が飛び交っているのも確かである。『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』(2018年)では、とうとう興行収入が著しく落ちてしまったことから、ディズニーのCEOボブ・アイガーはアメリカのメディアの取材で、「作品をハイペースで製作し過ぎた」と、弱気な発言をするに至った。

 『スター・ウォーズ』シリーズは、このまま下火になっていくのだろうか……。そんな雰囲気が漂っていた2019年頃、配信された『スター・ウォーズ』初の実写ドラマシリーズ『マンダロリアン』は意外にも大きな話題を呼び、ディズニーの『スター・ウォーズ』作品として、最も好評を博することになった。まさにディズニーにとって救いの神である。しかし、なぜ『マンダロリアン』はここまで高く評価されることになったのだろうか。それは、本シリーズが本質的な意味で『スター・ウォーズ』の原点に立ち返った作品となったからではないだろうか。ここでは、その理由を解説していきたい。

 『マンダロリアン』は、全身にアーマーを着たバウンティハンター(賞金稼ぎ)と小さな子どものキャラクターが、『スター・ウォーズ』旧三部作でルーク・スカイウォーカーらが帝国軍の中枢を打ち倒してから5年後の銀河系を旅していくという物語で、2シーズン、16話で構成されている。“マンダロリアン”と呼ばれる主人公の見た目は『スター・ウォーズ』旧三部作や新三部作の一部に登場する、それほど出番の多くない脇役にもかかわらず人気のあるキャラクター、“ボバ・フェット”そっくりだ。それもそのはずで、本シリーズの企画はかなり以前からあり、「ボバ・フェットを主人公としたスピンオフを製作する」という噂がファンの間で話題になっていたのだ。

 本シリーズでボバ・フェット自身が主人公ではないのは、ファンにとって残念だが、彼はもともと装備によって顔を見せることのないキャラクターとして人気を得たため、同じようにアーマーを装備したキャラクターでも応援しやすいという利点がある。『ワンダーウーマン 1984』(2020年)に重要な役で出演するなど、近年ブレイクすることになったペドロ・パスカルが演じる本作の主人公は、光線エネルギーを発射するブラスター・ピストルの射撃であれば耐え得るほどの強靭な装甲と、忍者のように身体中に様々な武器を仕込んでいる武装集団“マンダロリアン”の一員という設定。主人公は、そのために周囲からただ「マンダロリアン」、もしくは縮めて「マンドー」と呼ばれているのだ。

 そして、彼が共に銀河を旅することになった子ども、名前が不明なために、そのまま“ザ・チャイルド”と呼ばれている。視聴者の間では「ベビーヨーダ」とも言われているが、旧3部作や新3部作に登場していたヨーダの子ども時代というわけではなく、同じ種族というだけなのだ。しかし、彼は子どもながらにヨーダを彷彿とさせるような強い“フォース”を持った存在であり、ときにマンダロリアンのピンチを救うこともある。この、アニマトロニクスによって操演されるベビーヨーダの愛らしさも視聴者の評判となった。

 また、近年活躍が目覚ましい作曲家ルドウィグ・ゴランソンによるテーマ曲が象徴するように、本シリーズの雰囲気はマカロニ・ウェスタン調である。もともと『スター・ウォーズ』は、ルークたちジェダイが象徴する、日本の時代劇における侍や、西洋の騎士道などを思い起こさせるストーリーが中心となりながらも、同時にハン・ソロやボバ・フェットの活躍に代表される娯楽西部劇のテイストも含まれていた。本シリーズは、『スター・ウォーズ』のそちら側の世界をフィーチャーしているのだ。

 そして、凄腕の男が子どもを連れて旅をするという設定は、日本の漫画『子連れ狼』にもそっくりだ。アメリカでも『子連れ狼』は人気があり、それを基にしたと思われる、大恐慌時代のシカゴを舞台に子連れのギャングが死闘を繰り広げるグラフィックノベル『ロード・トゥ・パーディション』(2002年)は、実写化もされている。このテイストは、もともと新三部作『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002年)において、ジャンゴ・フェットとボバ・フェットのコンビというかたちで、すでに見られていた。

 このように、忍者のようにかっこいいバウンティハンターと、新3部作などのデザインを担当したダグ・チャンによってデザインされた、空中に浮いている乳母車に乗ったかわいい子どものコンビが毎回活躍するという設定は、それぞれが視聴者層の幅を広げ、作品の魅力を強くしているといえよう。

 本シリーズ製作の中心人物となっているのが、まずジョン・ファヴローだ。彼は監督として『アイアンマン』(2008年)、『アイアンマン2』(2010年)を手がけ、マーベル・スタジオ作品ブームの起爆剤となった存在であるとともに、近年はディズニー・クラシックの実写化シリーズ『ジャングル・ブック』(2016年)や『ライオン・キング』(2019年)で、全面的にCGを駆使した作品を手掛けている。その一方で、映画『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(2014年)のように、平凡な人物を主人公にした人間ドラマも撮り上げている。

 もう一人の立役者は、デイブ・フィローニ。彼はもともと『スター・ウォーズ』の熱狂的なファンであり、ディズニーがルーカスフィルムを買収する前から、ルーカスフィルムでTVアニメーション『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』シリーズの総監督を務めている。実写ではないものの、こだわりの設定や世界観への深い理解によって、ファンの人気が高い作品だ。フィローニは、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015年)でコンセプトアートなどを手掛けてはいるが、実写の『スター・ウォーズ』製作に本格的に関わったのは本シリーズが初。彼の存在が、『マンダロリアン』を『スター・ウォーズ』の世界につなぎとめている。

 そんなデイブ・フィローニや、ジョン・ファヴロー自身も、数あるエピソードの一部で監督を務めるほか、ロン・ハワードを父に持つ、俳優でもあるブライス・ダラス・ハワード監督、『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)や『ジョジョ・ラビット』(2019年)のタイカ・ワイティティ監督、『ロッキー』シリーズでアポロ・クリードを演じていたカール・ウェザース監督、『アントマン』シリーズのペイトン・リード監督、『デスペラード』(1995年)や『アリータ:バトル・エンジェル』(2019年)などのロバート・ロドリゲス監督など、本シリーズは、おそろしく豪華な監督たちによって演出されている。また、“ザ・チャイルド”を手に入れようと依頼する抜け目のない“クライアント”を演じている、映画監督として輝かしいキャリアを持つヴェルナー・ヘルツォークの存在感も素晴らしい。

 ジョン・ファヴロー監督は、『ライオン・キング』で行った製作手法を、ここで応用している。スタジオ内をLEDディスプレイで囲み、そこに実物の大道具などを配置して、俳優に演技させるのだ。ゲームエンジンを利用したという、変化し続ける背景は、まさに最新の書き割りである。最新デジタル出演者たちによると、カメラの前で演じているとき、自分の周囲にあるものが映像なのか実物なのか、分からなくなっていくのだという。このシステムによって、これまでに達成できていなかったようなリアリティが実現した。まさにキャストや撮影スタッフらが、あたかも遠い星系にいて映画を作っているかのように、自然な撮影や演技が実現されているのだ。

 ハリウッドにおける現在のSFやアクション映画の大作は、CGなどによる“ポストプロダクション”によって、現実にはあり得ない非現実的な映像を作り出す。そんな業界をこれまで牽引してきたのが、ルーカスフィルムのVFXスタジオ、インダストリアル・ライト&マジック(ILM)であり、その技術の結晶といえる『スター・ウォーズ』新3部作の存在であった。

 『スター・ウォーズ』の創造者であり、旧3部作の監督を務めたジョージ・ルーカスは、続3部作の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を鑑賞した際、その内容が旧三部作を懐かしむことに終始していた点を批判していた。それもそのはずで、ルーカスの『スター・ウォーズ』シリーズは、技術面において常に最新であり、時代の先端を行く作品だったはずなのだ。その意味で、本シリーズは旧3部作や新3部作ほどの革新性には及んでないものの、新しい技術を常に追い求める『スター・ウォーズ』の魂を受け継いでいるといえる。

 また、ファヴローとともに作品の中枢に関わるデイブ・フィローニは、ジョージ・ルーカスの信奉者でもある。彼は『スター・ウォーズ』の核となるものを、“父と子の愛情の物語”であると分析する。旧3部作のクライマックスでは、フォースのダークサイドに堕ちた父親と、彼を救おうとするルーク・スカイウォーカーが対峙することになる。新3部作では、ジェダイの堅苦しい掟とシスの邪悪な計画にアナキン・スカイウォーカーの心が引き裂かれたが、旧3部作のラストでは、ジェダイともシスの道とも異なる、ルークの個人的な愛情の力によって、ついにアナキンはフォースにバランスをもたらすことになる。だからこそ『スター・ウォーズ』の物語は素晴らしいのだと、フィローニは力説する。

 旧3部作のファンのなかには、新3部作を嫌う人も多く、J・J・エイブラムス監督含め、製作側にも新3部作をよく思っていないスタッフが少なくない。そのなかでフィローニは、旧3部作と新3部作の間にある重要なテーマを理解し、その核心部分を本作『マンダロリアン』に重ね合わせる。それは、マンダロリアンとベビーヨーダの間に育まれていく、擬似的な親子関係である。

 マンダロリアンの集団にも、ジェダイ同様の厳しい戒律と教義がある。だが、マンダロリアンはベビーヨーダのため、次第に教義に反するような行動をとり始める。そして、最終的に迷いを振り切ったルークと同じ境地にまで達するのである。その意味で本シリーズは、続3部作よりも数段高い地点で、『スター・ウォーズ』を描いているといえるのだ。

 そして本シリーズには、ファンを歓喜させるビッグサプライズも複数用意されている。ラストで明かされる、新しいシリーズのスタートには、ジョン・ファヴローやデイブ・フィローニらが、『マンダロリアン』から継続して参加することが決定している。彼らによる新しい『スター・ウォーズ』は、これからも続いていくのである。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『マンダロリアン』
ディズニープラスにて独占配信中
(c)2020 Lucasfilm Ltd.
公式サイト:https://disneyplus.disney.co.jp/program/mandalorian.html

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