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声優・宮野真守が考える“映画を吹き替えで観る醍醐味” 「キャラクターの全部の動向を観られる」

リアルサウンド

18/10/12(金) 12:30

 映画『スモールフット』が10月12日に公開された。本作は、人里離れた雪深い山頂に住む、大きな体で心優しきイエティと小さな足の伝説の生物“スモールフット(=人間)”の絆を描く物語。イエティのミーゴと人間のパーシーが偶然出会い、大騒動が巻き起こる。

 今回リアルサウンド映画部ではパーシーの吹き替え声優を務めた宮野真守にインタビュー。日本語のアニメと吹き替えアニメでの演技の違いや、映画を吹き替えで観る醍醐味などを語ってもらった。(取材・文・写真=阿部桜子)

ーー『スモールフット』は、人間が伝説の生き物という不思議な物語でした。

宮野真守(以下、宮野):今回のお話は、斬新な世界設定で、人間ではなく、ビッグフットすなわちイエティ側の目線で、イエティの常識や日常が描かれます。僕が演じる人間パーシーは、イエティにとって伝説の生き物“スモールフット”という設定に、面白いなと心惹かれました。でも別に伝説感を出すつもりは全然なくて(笑)、人間として演じて立ち回っています。パーシーは売れなくなった三流芸能人なのですが、僕も過去にはつらい時期を味わったことがあるので、パーシーがいろいろと起死回生の策を練っているところがどこか共感できるというか、「頑張れ! パーシー頑張れ!」と思いながら演じていました(笑)。

ーー基本的なことを聞くのですが、日本語のアニメと吹き替えのアニメって、演技に違いはあるのですか?

宮野:アニメーションに限らず洋画実写の吹き替えもそうなのですが、僕は元の役者さんのお芝居をしっかり拾いたいなと思っています。実は声優での、初めてのお仕事が海外ドラマ『私はケイトリン』の吹き替えだったので、海外の俳優さんのお芝居にかなり引っ張ってもらう部分があり、相当助けられたんです。「こうやって自分のお芝居を広げていくことができるんだ」みたいな感覚を学びました。今は自分のノウハウや、やりたいこともあり、全部が全部じゃないのですが、吹き替えの際は、より原作や本人の意図を僕自身が僕なりに寄り添えるように意識することがありますね。

ーーそれでは、元の映像を観てから収録しているのですね。

宮野:そうですね。資料として練習用に元の映像をいただけるので、「こんな風に喋ってるんだ」と思いながら、お家でせっせと練習して収録に臨みます。

ーー英語のテンションって日本語と違っているので、合わせるのは難しいと思います。

宮野:もうもはや僕は色んなテンションの役をやってきてるので(笑)。確かに今回のパーシーはお調子もので、パーシー役のジェームズ・コーデンが自由に伸び伸びと演じているのに合わせていくという作業は大変な時もあります。テンションの起伏や、畳み掛けるようなマシンガントークとかが凄くて。でもその作業も、僕にとってはとても楽しいんです。

ーーそれでは、アニメと吹き替えの場合は違いがあるのでしょうか?

宮野:「こういう風に変えよう」とは思うことはないですね。声というより“呼吸感”が大きく違う気がします。なぜなら、吹き替えの場合は「呼吸」がもう入っていまして、台本にも「息」と書いてあります。吹き替えの場合は、向こうの俳優さんの呼吸に、自分の呼吸を合わせて声を入れるんです。一方、アニメの場合は、キャラクターが口パクで動くので、そこにまさに“息を吹き込む”作業をします。なので、流れている空気感の違いは感じます。僕はアニメの方ではしっかり息を吹き込みたいなと思いますし、逆に吹き替えのときは俳優さんの息に寄り添いたいなと考えています。

ーー細かいところに工夫があるのですね! でも、息って日常生活で意識することのないポイントではないでしょうか。

宮野:確かに(笑)。意識しだすと、どうやって呼吸してるかわかんなくなっちゃいますよね(笑)。だからそこは、お芝居の自然な流れに任せています。もしかしたら実は、呼吸をするということは、お芝居において一番難しい点かも知れませんね。僕はそれを表現していくのがとても好きです。

ーーその呼吸感というものは、最初の『私はケイトリン』の際に習得したのですか?

宮野:そうですね。その時は初めてだらけで、右も左もわからず、声だけで色んなことを表現したことすらなかったんですね。海外の役者さんがもぐもぐ食べているシーンで、その声を吹き替えしなきゃいけなくなったときに、僕はできませんでした。初めてだし、18歳だし……(笑)。ベテラン声優の皆さんは巧みな技を駆使してやっていたんですけど、口の仕組みが全然わからなくて、呆れたディレクターが僕の口の中にみかんを突っ込んで、「これで喋ろ!」みたいな感じで喋って、やっとOKがでました。

ーー吹き替えの道のりは険しいですね……。映画のファンには、吹き替え派と字幕派で両方いますが、宮野さんが思う吹き替えの良さは何でしょうか?

宮野:全部のキャラクターの全部の動向を観られるのが吹き替えの良いところじゃないでしょうか。キャラクターたちは結構細かく話しているし、畳み掛けるように全員がいっぺんに喋りだしたりするときもありますよね。僕も英語は聞き取れないのですが、字幕の情報だけだと、「端っこのあの人はなんて言っているんだろう」という疑問が生まれると思います。そういった部分が知れるというのが吹き替えの醍醐味のひとつだと思っています。

ーー本当にその通りですね。映画の中で、端っこの会話も大切な部分です。

宮野:端っこの会話に、作品のこだわりのやり取りなんだろうなと思うテンポ感だったり言葉遊びが入っていたりすることがあります。特に海外の作品は言葉遊びがすごく面白いです。いわゆる、アメリカンジョークってやつですね。それを日本語訳で表現するのは、結構難しいことだと思いますが、吹き替えでは、アメリカンジョークをジャパニーズジョークに寄せながらも、アメリカンジョークの良さを出すみたいな和訳の妙みたいなものが生まれるので、そういうところで面白さが出てくるのではないかと思っています。

ーージャパニーズ風に寄せるときって、日本語らしいトーンに声を変えるのですか?

宮野:声だけの印象でいうと、吹き替えでやるときの方が原音よりも大げさになるときもあるのかな…。例えば向こうの俳優さんが自分の心情をボソボソと小声で語るときでも、しっかり声を出したりすることもあります。その中で僕は毎回結構チャレンジしています。大げさになることもある一方で、向こうの俳優さんと同じトーンでやったりとか、アニメの口の大きさを真似してみたりとか……。吹き替えの可能性は大きいなと思っています。

ーー元の俳優さんの演技に寄り添う中で、宮野さんの吹き替えの演技のこだわりはありますか?

宮野:僕は声優のことを学校とかで習ったことがないので、こういう吹き替えをやってくださいとか、こういう風に合わせてくださいとかをお勉強したことがなく、現場で覚えていきました。なので、ディレクターのOKが出るお芝居を目指しています。僕の考えたアプローチでOKが出ることもあるので、そこのセッションが僕は楽しいですね。

ーー『スモールフット』ではどこが一番楽しかったですか?

宮野:僕が今回、原音に合わせたセリフで言うと、ミーゴと初めて会ったときにパーシーの声がカスカスになっちゃうシーンです。原音がめっちゃ面白くて、それ聞いたときに爆笑して、「なんでこんな言い方ができるんだろう」と思って絶対このニュアンスを僕も出したいと思いました。でも、家で練習しすぎて、声が枯れてしまいました(笑)。やりすぎには注意しなきゃいけませんね。

ーーこれから『スモールフット』のほか、『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』『グリンチ』と“宮野真守吹き替え祭”が始まります。宮野さんの吹き替えへの思いを教えてください。

宮野:僕に限らずこのキャストで、「この作品の吹き替えをしています」ということが売りになればいいと思って、臨んでいます。僕らなりに作品をしっかりと華やかに彩って、僕らが生き生き演じることで、「吹き替えもいいじゃん!」と思っていただけるようなお芝居だったりアプローチを目指しています。特に『スモールフット』はハッピーな作品である反面、ちょっと考えさせられるところもありますし。でもそれを重く捉えるというよりも、歌に乗せてハッピーに紡いでいく物語なので、この秋はイエティのモフモフで温まってほしいと思います。ぜひ劇場でご覧ください!

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