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立川直樹のエンタテインメント探偵

『[世界を変えた書物]展』貴重図書展最終日の入場者8000人! Charのライブ、“サムライ・トランペッター”黒田卓也…世の中まだ捨てたもんじゃないぞ。

毎月連載

第9回

『[世界を変えた書物]展』

 9月8日から24日まで上野の森美術館で開催された『[世界を変えた書物]展』は最終日の入場者数が8千人に達するという驚くべき数字を記録して好評価のうちに終了した。世界の科学の発展に大きく寄与した貴重図書を展示したもので、僕はアドバイザーを務めたが、特に若い人達の熱っぽい視線がまだまだ世の中は捨てたものじゃないぞと、自信をつけさせてくれた。

 そして久石譲の中国ツアーから戻って2日後の19日にセルリアンタワー東急ホテルのボールルームで開催されたCharの『ROCK★HOUSE“Smoky in the Night”』というイベント。これはディナーショーのスタイルではなく、ホテルの中にロック・クラブをオープンさせてしまおうというコンセプトでトライしたものだったが、アコースティック・セットとエレクトリック・セットで構成されたCharのライヴは圧巻で、新しいエンタテインメントのスタイルになるような予感もした。

 おなじみの曲は勿論のこと、とりわけびっくりさせられうれしかったのは植木等の『スーダラ節』のカバー。何だか似たような感じの曲やサウンドが氾濫している中で妙に新鮮で、ロックはまだまだ大丈夫と思わせてくれた。

Char's SPECIAL PERFORMANCE『ROCK★HOUSE“Smoky in the Night”』

 その翌日の朝刊にポール・ヴィリリオというフランスの思想家の死亡記事。20代の頃から死亡記事に興味のあった僕はずっと新聞の死亡記事の切り抜きを続け、かなりの量になっているが、10日に86歳で死去した思想家の記事は短いものながら一言一句が深く入り込んできた。

 「――70年代から速度を現代社会の本質とみて考察を重ね、インターネットの発達にも地球規模での反応の一元化をもたらすとして警鐘を鳴らした。建築家としても知られ、現代を「事故の博物館」と位置づけ、巨大都市は進歩の中に随所に新たな惨事をはらむとして文明批評を展開した。代表作に『速度と政治』など」(朝日新聞)

 そう、“反応の一元化”というのは実にぐっとくる言葉だ。それは政治から商業に至るまで今や世界を覆いつくしているといっても過言ではなく、それと並行して生の人間っぽさが失われている感もあるが、Charのライヴの翌日、ブルーノート東京で目撃したトランペッター、黒田卓也のライヴも、水先案内で紹介した『兵士の物語2018』も人間力みなぎる素晴しいものだった。

 ニューヨークを拠点に活躍を続け、“サムライ・トランペッター”の異名もとる黒田卓也が国籍も様々な4人のバック・ミュージシャンと繰り広げた1時間余りのライヴの独特のグルーヴ感は絶対にライヴでなければ味わえないもの。

 演出・美術の串田和美本人を含め、石丸幹二、首藤康之、バレリーナの渡辺理恵など6人の出演者が4年ぶりに集まり、世界で注目を浴びる若手気鋭のヴァイオリニストが音楽監督を務めて抜群のサウンドを奏でる舞台は、その全体像は言葉では伝えきることのできないおもしろさだった。

黒田卓也

 そしてそれは才能のある人間が出会い、作品を作っていく時に生まれるマジカルなものが時代を超えて続いていることの証しではないだろうか。朝刊のテレビ欄をチェックして、これはと思う番組を見ると、中々魅力的なものに巡りあえるテレビだが、9月22日にNHK BSプレミアムで放映された『アラン・ドロン ラストメッセージ ~映画 人生 そして孤独~』は、その出会いの重要さを理屈抜きで感じることのできた1時間。

 タキシードを着崩してホテルのインタビューの場所に現われた82歳のドロンは、まだ十分に男の色気を発散していて1957年、21歳の時のデビュー作『女が事件にからむ時』から始まる俳優人生を雄弁に語っていたが、ルイ・マルやルキノ・ヴィスコンティ……といった世界の映画史に輝く偉大な映画監督によって俳優としての才能と魅力を開花させたドロンの「監督は偉大な指揮者。映画の“シェフ”」という言葉は最高にリアリティがあった。ジュリエット・ビノシュ共演でパトリス・ルコントが監督する引退作品『誰もいない家』の仕上がりも楽しみだ。

作品紹介

『[世界を変えた書物]展』-東京展-

日程:2018年9月8日~24日
会場:上野の森美術館

『[世界を変えた書物]展』(東京展チラシ)

Char's SPECIAL PERFORMANCE『ROCK★HOUSE“Smoky in the Night”』

日程:2018年9月19日
会場:セルリアンタワー東急ホテルB2F「セルリアンタワーボールルーム」

『黒田卓也』

日程:2018年9月20日~21日
会場:ブルーノート東京

『兵士の物語2018』

日程:2018年9月27日~10月1日
会場:スパイラルホール
演出・美術:串田和美
出演:石丸幹二/首藤康之/渡辺理恵/串田和美/武居卓/下地尚子

『アラン・ドロン ラストメッセージ ~映画 人生 そして孤独~』

放送日:2018年9月22日
NHK BSプレミアム

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著に石坂敬一との共著『すべてはスリーコードから始まった』(サンクチュアリ出版刊)。

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