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『アンナチュラル』の成功が切り拓いた10年越しの企画 野木亜紀子が語る、『MIU404』制作の背景

リアルサウンド

20/6/26(金) 6:00

 6月26日より、金曜ドラマ『MIU404』(TBS系)がスタートする。綾野剛&星野源のダブル主演に加えて、人気ドラマ『アンナチュラル』を生み出したプロデューサー・新井順子、監督・塚原あゆ子、脚本・野木亜紀子のチームが再集結することでも大きな話題に。さらに、主題歌も米津玄師が担当すると発表され、ますます期待が高まっている。

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 『MIU404』の舞台は、警視庁・第4機動捜査隊(通称:4機捜)。働き方改革の一環で作られた架空の臨時部隊だ。勤務は24時間制で、次の当番勤務は4日後となる。つまり、24時間以内に事件解決を目指さなくてはならない。ところが、伊吹藍(綾野剛)は考えるより先に走り出す“野生のバカ“、志摩一未(星野源)は観察眼と社交力は長けているが自分も他人も信用しない“クセあり刑事“という破天荒バディ。事件の真相を追いながら、彼らの関係性の変化も楽しめそうだ。

 そんなオンエア前からワクワクが止まらない作品を紡ぐ脚本家・野木亜紀子が、今回インタビューに応じてくれた。本作が生まれた背景、そして自身が作っていきたいドラマについて聞いた。(3月某日取材)

■『アンナチュラル』の成功が切り拓いた、10年越しの企画

――まず、このゴールデンチームが再集結したことに、いち視聴者として興奮したのですが、どういった経緯で実現したのですか?

野木亜紀子(以下、野木):すごくシンプルな話で、TBSさんのほうから「また『アンナチュラル』チームで何か作ってください」と話が降ってきたんです。もともと『アンナチュラル』も「女性主人公の法医学もので、あとは何でもいい」みたいなざっくりしたオーダーだったんですが、それが今回は、「男2人のバディもの」になったっていうくらいで。プロデューサーの新井順子さんとビールを飲みながら「で、何する?」って始めて、ああだこうだ言うなかで、新井さんがずっと刑事ドラマがやりたかったと。実は、機捜をテーマにした企画書を散々出したけれど、この10年箸にも棒にも引っかからなかったと言うんですよ。「じゃ、これを機にやってみる?」と企画を出したら、今回あっさり通ったっていう。

――これまでの10年は一体……!?

野木:まあ、そういうもんですよね。「でも、良かったじゃん? これでやりたかったこと、できるんだし」って。

――以前、野木さんのTwitterで『アンナチュラル』のタイトルについて、いくつか案を出さなければならなくて、どうしても『アンナチュラル』で通したかった新井プロデューサーが、候補に「解剖、ときどき恋」を出したツイートを拝見して笑ってしまったのですが、今回の『MIU404』はすんなりと決まったんでしょうか?(“MIU(ミュウ)“とは、Mobile Investigative Unitの頭文字で、“404”は伊吹&志摩を指すコールサイン)

野木: それがですね、今回も「『MIU404』ってタイトルじゃ、また通らないんじゃない?」と警戒していたんですが、こちらもまたあっさり通って(笑)。「いやー、『アンナチュラル』効果すごいね。なんでも通るわ!」って。

――一度成功例を出すとスムーズですね(笑)。

野木:本当にそう! もともと“404″はつけたいなと思っていたんです。でも、あまりに分かりにくいのも考えものだし、かといってダサいのは絶対イヤだし……どうしようか調べていたら、「MIU」という言葉があるのを見つけて、「じゃあ『MIU404』で!」となりました。

――その後の企画も、新井プロデューサーと二人三脚で?

野木:そうですね。『アンナチュラル』のときは、新井さんが塚原さんと『リバース』をやっている時期だったので、1人で調べて企画書を書いて……みたいなことになっていたんです。だから「今回は頼むよ」と(笑)。取材も2人でして一緒に相談しながら、私が企画書を書いて新井さんが「ここもうちょっとこうしましょう」とか、各登場人物の異動歴を新井さんにまるっと作ってもらって、詰めていきました。

――綾野剛さん、星野源さんという主演のキャスティングも豪華で話題になりましたね。

野木:正直、私は(星野)源さんとは仕事が続いてしまって、いいのかな? と心配ではありました。この2人って結局『コウノドリ』コンビだよなぁと既視感もあった。でも、新井さんが「大丈夫。いけます!」と(笑)。それで、どうせやるなら最近見てない感じの2人にしようと思って、今までとは違う方向の当て書きをしました。撮影した映像を見たら、二人とも台本から更にキャラを作り込んで『コウノドリ』とはまったく違う人物にしていたので、杞憂でしたね。

――特に、綾野さん演じる伊吹は、かなり野生味あふれる感じになっているようで。

野木:そうなんです。「キミ、よくクビにならなかったね」って、ちょっとうざいくらいですよね?(笑)。でも、実際に警察の方にお話を聞いてみたら、意外とヤンチャな方が多いんですよ。今は「昔ワルだった」みたいなことが自慢話にならない時代なので、あまり表には出さないみたいですが、そういう方も活躍されているみたいで。でも考えてみたら、怖い人たち相手にビビってちゃ務まらない仕事なので、そういう人がいてもまったく不思議じゃない。だから、少々破天荒なキャラにしても大丈夫かなと。それと最近、綾野くんは本当の“悪”を背負うような役や深刻な役が多かったイメージなので、明るいワンコっぽさを出していこうとイメージを膨らませていきました。

■難しいのは、エンタメのわかりやすさと伝えたい本質の割合

――『アンナチュラル』の舞台も「UDIラボ」という架空の研究機関でしたが、今回も働き方改革の一環で生まれた架空の部隊ということで、個人的にはこの“現実の組織ではない“前提が、野木さんの描く物語への入りやすさを生んでいると思っているのですが。

野木:自分自身、ドラマを観ていて、「いや、実際そうじゃないよね」と気になってしまうことが多いんです。今回も実際にある2機捜とか3機捜が舞台でいいんじゃないかという話もあったのですが、やっぱりこの作品は架空にしたいとお願いしました。機捜自体はリアルだけど、「4機捜」がフィクションであれば、いろんなイレギュラーが受け入れやすくて、エンタメにできるので。書き手としての生理というか。

――あまりにリアルだと、特に事件モノは世の中の動きとリンクして変な話題にもなりかねませんよね。

野木:そうなんですよ、本当そういうの困るなーと。でも、現実にあるものを取材したり、気になったニュースや事象をヒントに物語を作っているので、意図せず繋がってしまうこともあって。そういう意味でも、見せ方ひとつとっても難しいです。

――企画のアイデアは常にストックされているんですか?

野木:そうですね。ただ、世の中どんどん変化していくので、ストックはすぐに古くなる。『フェイクニュース』(NHK総合)をやったときは、最初の企画段階で想定していた話からまるっと作り直したこともありました。ドラマも企画が動きはじめて、1年から1年半はかかりますが、映画に比べると即時性があるので、ドラマならではの、時代に沿うものをやれたらいいなとは思っています。

――インタビューで「結局、自分が面白いと思うもの、見たいと思うものを書くしかない」とおっしゃっていたのをよく見かけましたが、その軸が合っているのか不安になることはありませんか?

野木:いろいろありますね……自分が「面白い」と思っているものが、受け入れられるかは別問題なので。ただ、今回もタッグを組むプロデューサーの新井さんが、いい意味で一般視聴者なんです。すぐに「難しい! 分からん!」と言ってくれるので、“新井さんが分からないことは、視聴者にも伝わらない”、そういうベンチマークになってくれています。だから、私の仕事はまず新井順子を面白がらせること。その表面上のわかりやすさを見せながらも、私自身が面白いと思えるものを潜ませていくようにしています。

――なるほど。『逃げるは恥だが役に立つ』を観たときに、まさにそれを感じていました。表面上は多くの人が心地よく観られるラブコメで、でもちょっと考えたい人にとっては設定やセリフ一つひとつを掘り下げていける面白さがある。その物語の奥深さが、支持の広さと比例するんだなって。

野木:そうなんです。ただ『逃げ恥』のときは、乖離した感覚もありました。後半に深掘り部分を表に出したら「みくり(新垣結衣)、かわいい」って言ってた人たちが、裏切られた気分になったようで……。

――プロポーズ後の「愛情の搾取」のところですね。

野木:「みくりがかわいくなくなった」って言われていましたから。原作派や、深掘り楽しむ派の方々は「最初からそういう話だよね」となっていましたが、ただ楽しんで観ていた人たちには唐突だったようで。

――人は見たいものしか見ていないって、言いますしね。

野木:本当にそうですよね。でも、主婦の家事がどうとかって話を最初から前面に押し出していたら、あんなに観てもらえなかったとも思うので、どうしたら、あの乖離をさせずに伝えられたのかというのは、未だにわからないですね。

――未だに!

野木:未だにです(笑)。何を作っても、完璧なものなんて作れないので、毎回、何かしらの反省はあります。わかりやすい面白さと、伝えたい本質的なテーマと、そのラインはいつも悩むところです。実は、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)も『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)も、私の中でエンタメのカテゴリに入れていないんです。人を選ぶ作品もあってもいいと思うし、そういう形でしか伝えられないものもあると思うので。その時期、その枠、そのチームだからこそ作れるものをやっていきたいと思っています。

■作りたいのは「そこにしかないドラマ」

――なるほど。野木さんが考える「いいドラマ」という概念はありますか?

野木:難しいですね。でも、「そこにしかないドラマ」みたいなのが好きです。この数年で一番「やられたー!」と思ったのは、デジタル遺品を抹消する仕事屋を描いた『dele』(テレビ朝日系)で、思いつきそうで思いつかなかった題材だなと。世界でもまだ、ありそうでやられていないだろうし、あのネタを使ってドラマや映画をリメイクしたいって国もいっぱいあると思います。山田(孝之)くんの役が車椅子に乗っているんですが、その設定もうまいなあと思ったし、本当によく出来ていました。

――見返してみます。

野木:ぜひ! あの作品はもっと評価されるべきです。監督と脚本が各話違ってバラエティに飛んでいて、話によってはそれこそ「わからない人にはわからなくていい」という突き放した回もあるんですが、そこがまたいい(笑)。そういう「やられたー」みたいなドラマが出てくるためにも、いろんなことをやっていきたいです。この手があったか、みたいな。そういう意味でも、挑戦はし続けないとなと思います。今回は事件モノですし、主演は綾野くんと源さんですし、プロデューサーがTHEエンタメ好きな新井順子、そして演出が信頼している塚原あゆ子という座組みなので、思い切りエンタメも見せつつ、それ以外を好む層にも楽しめるような作品にできたらと思います。

(佐藤結衣)

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