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『美人が婚活してみたら』中村倫也と田中圭、正反対の男性像が映し出す「婚活あるある」

リアルサウンド

19/4/1(月) 10:00

 映画『美人が婚活してみたら』には、婚活女性ならずとも誰もが一度は経験したことがあるような身につまされる要素が随所に散りばめられている。まさに「婚活3大クライシス」が凝縮されている作品と言ってもいいだろう。

 主人公タカコ(黒川芽以)は32歳、容姿端麗、仕事はそれなりに順調。既婚者との不毛な恋を経て、一念発起し婚活を決意する。重い腰を上げて登録した婚活サイトに、初参戦したシングルズバー(婚活バー)。そんな中、彼女の前に2人の全くタイプの異なる異性が現れる。

・婚活クライシスその1. 永遠の二番手男性からのアプローチに揺れ動く

 タカコが婚活サイトで知り合ったのは、恋に奥手でいまいちパッとしない商社マンの園木(中村倫也)。これまでのタカコであれば見向きもしなかったタイプであろう彼とデートを重ねるうちに、「結婚相手」としてはナシではないのでは? と思い改める。「婚活」という土俵においては検討対象として急浮上したのだ。

 本能的にオスとして惹かれる訳ではないが、タカコの場合には過去の苦い恋愛経験もあってか、穏やかな結婚生活を描ける相手として、理性で園木のことを「この人を好きになれたらいいのに」と判断しているようだ。

 そのピュアさや優しさに癒されはするものの、トキメキには欠け、物足りない。「可もなく不可もなく」「決定打に欠ける相手」をこれまでのようには一蹴できず、「そんな相手こそ結婚向きなのでは?」と毎回見極めにかからねばならない。そこにも婚活ならではの息苦しさが潜んでいるように思う。

・婚活クライシスその2. オスとして惹かれてしまう、結婚に不向きな男の登場

 シングルズバーで待ち受けていたのは、バツイチ・イケメン歯科医の矢田部(田中圭)との出会いだ。女性の扱いに非常に慣れておりスマートな立ち振る舞い、自然な距離の詰め方でタカコを翻弄するズルい男だ。もちろん結婚願望はゼロ。婚活中のタカコにとっては真っ先に消去すべき選択肢であるはずなのに、そう簡単に割り切れるものではないのが男女の機微である。

 「今度ご飯でもどうですか?」と矢田部宛に送ったLINEが既読にさえならずにヤキモキするタカコ。そんなタカコに「また食事でもどうですか?」と園木からの健気なLINEが届く。

 別れ際「また連絡してよ」と言い残す、常に受け身で無責任な矢田部に対して、「また連絡してもいいですか?」と丁寧にお伺いを立てる一途で誠実な園木が対照的に描かれる。

 誰もが「誰かを恋い焦がれる側・追う側」であり、それと同時に「誰かに恋い慕われる側・追われる側」でもあるのだ。この需要と供給の不一致は、恋愛、こと婚活市場においては残酷なまでに顕著に現れる。

 婚活を通して誰もが一度は思うのではないだろうか。「どの人も帯に短し襷に長し」だと。そして「“ちょうどいい相手”がいない」と嘆く。

 しかし、同時に気づいているはずだ。結局は自分自身も例に漏れず「帯に短し襷に長し」で、どっちつかずの中途半端な女なのだと。

 異性としての魅力はさておき「結婚相手には最適」と思われる園木に決め切れるほどには、形式上の「結婚」がしたい訳でも、結婚さえできればいいという訳でもない。かと言って結婚願望ゼロのモテ男・歯科医の矢田部に対して“one of 彼女候補”から抜け出したい! 絶対に彼を振り向かせたい! という気概もガッツも生憎残っていないタカコ。着実に「結婚」という目標に向けて逆算で動けるような強かさも、高い目標達成意欲がある訳でもない。だからと言って急展開を引き起こせるような、若さゆえの「自分は特別」という根拠なき自信もなければ、聞き分けの悪さもアラサーのタカコは持ち合わせていないのだ。

・婚活クライシスその3.既婚友人とのマウンティング、すれ違い

 またこの物語をよりリアリティ溢れるものにしている要因として、親友の専業主婦ケイコ(臼田あさ美)とのやり取りが挙げられる。

 既婚者ケイコからのありがた迷惑なアドバイスやフィードバックに対してタカコの反発心が徐々に色濃くなっていく様や、反対に現実ばなれしがちな未婚タカコへの苛立ちや軽蔑を巧妙に織り混ぜたタカコの発言。女性同士ならでは、親友だからこその軽妙さで互いに応戦している様子も見どころである。

 未婚女性の「将来が見えない不安」はいつだってフォーカスされがちだが、それは裏を返せば「悩める選択肢(余白)を手にしている」ことでもある。対して同じように既婚女性の「人生が見通せる安心感・安定感」ばかりがフューチャーされるものの、それはともすれば「人生が決まってしまっている退屈さ・半ば絶望感」と隣り合わせと言えなくもない。

 互いに表裏一体の「裏面」を悟られぬように強がり、本当の急所を突かれまいと交わされる表面的な自虐トークの陰にそれぞれの孤独を隠し、互いへの羨望を秘めている。そして隠し切れない孤独をどこかで共有しているからこそ、互いが痛々しく見え、他人事だと放っておけなくなるのだ。

 原作の人気漫画自体が実在の登場人物のリアルなエピソードを基に作られているというのだから、そこに多くの女性からの「共感」が生まれることにも頷ける。

 本作でタカコは身を以て、「婚活」とは究極的には他の誰でもない自分自身と合わせ鏡のように向き合う作業であることを教えてくれる。その先に何が待ち受けているのかは、人それぞれに「幸せ」の形が千差万別であるように、一概には言えないところもあるだろう。だが、「恋愛」と「結婚」を全くの別物として考えて取り組むような「婚活」には向き不向きがあり、多くの場合それは難しい。また、当然のことながら自分が人生において何を優先したいかで、選ぶ相手ももちろん変わってくることは確かだ。(文=Yoshika Umeda)

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