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原昌和(the band apart)

愛する楽器 第17回 原昌和(the band apart)“お母さんが捨てちゃう仕様”のESP Amaze

ナタリー

19/11/25(月) 19:00

アーティストがお気に入りの楽器を紹介する本企画。第17回ではthe band apartの原昌和(B)に愛用のベース、ESP Amazeについて語ってもらった。

“ジャン負け”ベーシスト

僕はベーシストであることにはあまり興味がないんです。バンアパが最初にコピーバンドをやって遊んでた頃は荒井(岳史 / Vo, G)がベースだったんですけど、それは荒井がベースを持ってたというだけの話。彼が「ギター弾いてみたいんだよね」と言ってたんで、「じゃあ俺はベースやってみようかな」くらいの感じで始めました。「ギターが弾ければベースも弾けるだろう」くらいの感覚というか、ジャンケンに負けたからベースね、という感じのいわゆる“ジャン負け”なベーシストです。当時は定時制の高校に通っていたのですが、最初に使っていたベースはそこの部室からパクったもの(笑)。ほぼ誰も使ってないプレベ(FENDER Precision Bass)が部室にあって、それを私物にしてました。ほとんど部員もいなかったし、そのプレベを使うのは僕しかいないような状況だったんで、家に持って帰って練習しようと。誰かが「盗まれた」と騒ぐこともなくて、しばらくはそのベースを使ってました。

クリス・スクワイア(Yes)から影響を受けたが……

僕は曲を作るのが好きだし、全部の楽器がどういうふうに鳴ってるかということに興味があるだけで、その中で僕が弾く楽器はなんでもいいんです。音楽が好きで、バンドの中での自分の立ち位置がベーシストだというだけなんで、楽器としてベースを愛したのはすごくあと。バンドを始めて、ずっとベースをいじってきて、最近になってやっとベースの面白さがわかってきたかな。

もともとベースに持っていた印象は、“音の低いギター”でした。低音でバンドを支えるような意識もあんまりなかったです。単純に“太くてデカい音の出るギター”という解釈でした。以前どこかで、ベーシストとしてYesのクリス・スクワイア(B)が好きだと言ったことがあるんですが、あの人のベースはハープシコードみたいなアタックの強い音なんです。弦楽器なんだけど、キーボードみたいにバンドサウンドの最前線に張り付いて聴こえる。「ベースがメイン楽器になっちゃうんだ」と感じたという意味では、新しいベースのアプローチを教えてくれた存在です。でもそういうことを言っちゃったがために、クリス・スクワイアを取り上げる記事の取材がすぐ僕に来るようになっちゃったんで、今はもう言ってません。いや、そもそも僕がクリス・スクワイアを語れる身分じゃないだろって話なんですけどね(笑)。

お母さんが捨てちゃうくらいボロボロにして

今使っているベースはESPのAmazeです。あるときESPの人に「原にうちのベースを使ってほしいんだよね」「ゆくゆくは原のアーティストモデルを出したいんだ」という話をもらって。「すごい話だな。生きてるうちにそんなことあるんだな」なんて思ったんですけど、よくよく考えたら僕にベースをデザインする能力なんて備わってるはずがない(笑)。一応、自分でちょっとベースの絵を描いてみたわけですよ、5秒くらいで。そしたら、“デカめの木さじ”みたいになっちゃった(笑)。こんなのダメだろうということで、アーティストモデルの話は頓挫しました。

それでESPが僕に合いそうなモデルを見繕ってくれて、送られてきたのがAmazeだったんです。これ以前には、FENDERのAmerican Deluxeという素晴らしいモデルを使っていたんですけど、ESPのカタログの中で一番それに近いのがAmazeだったんでしょうね。「まず使ってみて、もし気に入ったらカスタムしていこう」という話になったんです。

あるときESPに「お母さんが捨てちゃうくらいにボディをボロボロにして持ってきて」と伝えて預けたんですよ。そしたら今みたいな感じになりました。ESPのレリック技術の粋を集めて、“お母さんが捨てちゃう仕様”にしてくれた(笑)。要はGパンのダメージ加工のようなものですね。ダメージ加工をしたかった理由は、“空手の達人の黒帯が色素が全部抜けて白帯になっちゃった”みたいなイメージがあって。「なんだこのジジイ、白帯じゃないか」と思ったら、実は一番の達人だったという感じの、“ボロボロの黒帯”を意識したんです。ビンテージの機材でもここまで剥げているのはないですからね。かなりイっちゃってる状態で届きました。

雑な楽器

ギター系のエレクトリック楽器ってオカルティックに扱われがちなんです。例えばよく「木が鳴る」と言う人がいますよね。でも、「それを言うなら“固有振動数”くらいはわかって話してるんだろうな?」と聞きたい。スピーカーだって、パーツ毎の固有振動性を合わせて組んでいったりするものです。でも「木が鳴る」とか言う人はそこまで考えてないと思うんですよ。しかも、弦を張ってつないでいるパーツは金属製じゃないですか。だから僕はエレクトリック楽器について「(木の)鳴りがいいんだよね」みたいなことを言うのは嫌なんです。僕からしたら、ベースはむしろ非常にキャッチーでスポーティな楽器。スケボーをカスタムするように扱える楽器だと思っていて、そこが好きなんです。折れちゃったとしても、そこからビスを取って貼り直せばいい。僕みたいにずぼらな人間が音楽に携わることができるのは、こういう“雑な楽器”があるからなんです。バイオリンみたいに本当に繊細な楽器しかなければ、僕は音楽には触れられなかった。そういう意味で、ベースは僕を音楽の世界に連れてきてくれたんだと思います。

そして音楽が好きだからこそ、僕はなるべくオカルトな要素を排除して音楽について話したい。エレキベースの音のよし悪しはどこで決まるのかというと、ピックアップマイクですよね。もちろんピックアップの性能自体も関係するんですけど、このピックアップの上でどんな音が鳴っているのかがベースのすべてだと思うんです。だからこのピックアップの上でいい音が鳴るように職人さんは設定してるはず。それを設定するうえで木材も関係するんだったら、やっと「木の鳴りがいい」と言えるかもしれないけど、実際はカオティックにいろんな要素が合わさって音が鳴ってるんですよ。ここまで言っておいてですが、僕自身はピックアップにこだわりはないし、弦もローディに買ってきてもらってるので、どこのブランドもわからないんです。すいません(笑)。

ぶっ壊れたらネックを捨てて付け替える

僕は工具でも文具でも、必要に応じて形が決まってるものがすごく好きなんです。そういう意味で、ベースにはネジも付いてるし、“工具の集合体”としてすごく興味があります。だけどベースは木に金属のネジを打ち込むわけので、ネジが木をなめてしまうんですよ。このモデルをさらに“アスリート仕様”にしていくのであれば、木にネジを打ち込むときにリコイルしてほしい。リコイルというのはバイクでよく使われる手法です。バカになったネジ山の中心をドリルで削って、そこにコイルを入れていく。そこに新しいネジを入れるとネジ山になる。そうすることで前よりも強靭なネジ山が復活するという、それがリコイルです。転んでもタダじゃ起きないぞという技術者の能力の粋が詰まってるわけです。全穴にリコイルが施されているベースがあったら、それは俺にとっての「カッコいいな、このベース」ってことになるんでしょうね。こういう観点でベースを見てるんで、僕はすごーく異端だと思います。

このモデルの素晴らしいところは、トラスロッドの調整をするコマが外に飛び出てるんです。普通はレンチを斜めに差し込んで回さないといけないんですけど、斜めからなんで木が削れてなめやすくなるんですよ。でもこのモデルはトラスロットに対してコマが垂直なんで、サイズさえ合えば穴に入る棒がどんなものでも調整ができる。僕にとってはこれが必須。ライブ中に照明が当たると熱でネックが反ったりするから、リアルタイムでトラスロッドを調整できることが僕にとっては重要です。1回のライブで何回もいじりします。どうやら本当はそんな頻繁にいじっちゃダメらしいんですけど(笑)。でも僕には一生これを使っていくんだという気概がないので、ぶっ壊れたらネックを捨てて付け替える。そういうのが気楽にできるのがスケボーと同じで、魅力的なんですよ。だからライブでは最後にぶん投げるんです。もしかしたら、これがいよいよダメになったときに初めて僕のカスタムした“木さじモデル”第1号がESPから出ることになるのかもしれない(笑)。

ファックユーアティテュード

たぶん僕とは違う形で楽器を愛してる人のほうが多数だと思います。そういう人たちからしたら僕みたいなのは一番偏屈であり、一番の“ファックユーアティテュード”でもあるでしょう。でもそんな僕のところに取材に来てくれたわけだから、ちゃんと話そうと思うことがあって。基本的に僕はロック親父みたいな奴がビンテージ至上主義のように偏屈に語っているのが嫌いなんですよ(笑)。僕のベースのレリック加工には、そういったものへの反抗という一面もあります。「お前、ボロボロにしてればカッコいいと思うんだろ?」みたいな。ロック親父は「これ、すごい鳴るでしょう?」「音が全然違うでしょ? 今の機材だったらこんな音しねえもんな。何年モノなの?」とか言ってくるでしょう。そんな相手に、「現代の機材なんですけどね」と思いながら話すのが楽しい(笑)。

とにかく、あまりにもオカルティックな考えをまことしやかに言う奴が多すぎるので、それをどうロジックでねじ伏せるかを常に考えています。負けたくない。本当にこのベースには、ロック親父がホイホイ寄ってきますからね。でもそういう人に、リコイルとかそういう方向への興味を惹かせたいんですよね。「リコイル? バイクでやるやつでしょ?」なんてロック親父が言ってきたら、「こうしたら絶対壊れないですから」って教えて「へえ、カッケー」ってなる、みたいにね。

取材・文 / 松永良平 撮影 / 阪本勇

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