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YOASOBIが提示する“次世代の失恋ソング” 新曲「たぶん」で描かれた、別れによって成長していく恋愛のあり方

リアルサウンド

20/8/14(金) 12:00

 1stシングル「夜に駆ける」がリリースされるや否や、たちまちヒットチャートを駆け上がった気鋭のアーティスト、YOASOBI。快進撃を続ける彼らの打ち出した新曲「たぶん」が、2020年7月20日に配信リリースされた。

 滑らかなサウンドとリズムが耳に心地いいミドルテンポナンバーの本作は、「別れの朝」をテーマとした独白形式の歌詞が静かに胸に刺さる上質な失恋ソングとなっている。時代を象徴するアーティストとしてティーン世代を中心に話題を呼んでいるYOASOBIだが、彼らの創り出す失恋ソングに、新たな境地を見た。本コラムではその、「次世代の失恋ソング」について綴っていきたい。

〈僕は何回だってきっと

そう何年だってきっと

さよならに続く道を歩くんだ〉

―YOASOBI「たぶん」より

 「たぶん」は互いに惹かれ合っていた二人が別れを選んだ朝に抱いた気持ちをストレートに綴っている楽曲である。

YOASOBI「たぶん」Official Music Video

 「小説を音楽にするユニット」YOASOBIが今回楽曲制作の元とした小説では、別れを決めた二人の感情描写が、部屋の模様替えをする片方と気づかずに眠る片方、という些細な行動のみで繊細に描かれている。劇的に描かれていないぶん、別れに行き着いた理由がよりリアリティを持って浮かび上がってくる。

〈君とのロマンスは人生柄

続きはしないことを知った〉

―Official髭男dism「Pretender」より

 Official髭男dismの楽曲「Pretender」の歌詞では、恋愛をしている渦中ではなくその先のビジョンが歌われている。本作でも恋愛という表舞台に立つ男女二人が終焉である別れを経験する場面から逆回転のように物語が始まり、それまでを振り返る、という構図は、失恋における欠落感・喪失感をメインに歌う楽曲とはまた違うニュアンスを帯びている。

Official髭男dism – Pretender[Official Video]

 YOASOBIやOfficial髭男dismの楽曲には、恋人との別れを受け入れようとする登場人物の心情の機微が描かれている。それは以前の失恋ソングにはあまりみられなかった価値観でもあるといえよう。

 〈会いたくて 会いたくて 震える

君想うほど遠く感じて

もう一度聞かせて嘘でも

あの日のように“好きだよ”って…〉

西野カナ「会いたくて 会いたくて」より

 〈会いたい会いたい会いたい会えない

私だけを見てほしいよ

こんなにこんなに胸は痛むのに

想いは今もあなたに溢れてく〉

加藤ミリヤ「Aitai」より

 西野カナや加藤ミリヤなど、俗にケータイ世代と呼ばれる時代に「J-POP界の歌姫」と称されたアーティストたちの失恋ソングを聴いてみると、「会いたい」という感情が繰り返し訴えられている。ケータイが普及し始めた頃、関係性の構築は主に1対1のメールでのやり取りに限られていた。今のようにSNSが爆発的に流行している時代ではないため、コミュニケーションの対象は今より限定的だったのだ。だからこそ、特定の対象への思いが強まる傾向にあり、離れてしまうと会いたくなる、寂しい気持ちになる、といった感情がこの時代の失恋ソングには顕著に描かれていたのではないだろうか。

西野カナ 『会いたくて 会いたくて(short ver.)』
加藤ミリヤ 『Aitai』

 対して2020年の現在、ケータイはスマホに変わり、TwitterやInstagramといったSNSがほぼ万人に普及されているといっていい時代になった。そうなると変化してくるのは、やはり人間関係の構築方法だ。密な1対1の関係から誰とでも繋がれる世界へ、個人のパーソナルな領域が広がった今、「会いたい」という感情は以前より希薄化し、「寂しい」という感情はある程度分散できるようになった。

 そんな現代において新たに台頭し始めたのが、「別れを経験し、成長していく恋愛」という形なのではないだろうか。同様のメッセージがこれまで歌われてこなかったわけではない。しかし、昨今こうした価値観を持ったアーティストは確実に増えているように思う。恋愛の多様性も叫ばれる中、当事者である私達は常に価値観をアップデートしながら生きている。「恋愛をしなくても生きていける」と感じる人もいる中で、「恋愛はいつか終わるもの」という後ろ向きでない、むしろ前向きに捉える考え方が浸透してきているのは、現代の恋愛観における大きな変革のひとつだ。

 〈分かり合えないことなんてさ

幾らでもあるんだきっと

全てを許し合えるわけじゃないから〉

―YOASOBI「たぶん」より

 本作は、やはりそのアーティスト性に則った「時代を象徴する楽曲」としての機能を十二分に果たしているといえよう。

■安藤エヌ
日本大学芸術学部文芸学科卒。文芸、音楽、映画など幅広いジャンルで執筆するライター。WEB編集を経て、現在は音楽情報メディアrockin’onなどへの寄稿を行っている。ライターのかたわら、自身での小説創作も手掛ける。

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