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『ヒモメン』窪田正孝の“憎めなさ”はコジコジに通じる? コメディアンの実力発揮し全方位俳優へ

リアルサウンド

18/9/8(土) 6:00

 ついに最終回を迎えるドラマ『ヒモメン』(テレビ朝日系)。無職の主人公・碑文谷翔(窪田正孝)は筋金入りのヒモ男。「楽して生きたい」をモットーに、恋人のゆり子(川口春奈)の家に転がり込み、家事も生活費もすべてゆり子任せ。自身はのんきにソファに寝転がっているだけで、たまに外に出たかと思えばパチンコに競馬。せっかく手に入れたお金はいつもギャンブルで水の泡になってしまうという、連ドラの主人公としては異色のダメ人間だ。お金がないからと言って、ゆり子の漫画や洋服を無断で売り払ったり、無料試食会目当てでゆり子を連れて結婚式場に見学に行ったり、女心もまるで無視の言動は、一部視聴者から反感の声も出た。

 だが、最終回を目前に控え、今やそんなクズなところもチャームポイントとしてすっかり受け入れられている印象だ。その理由は、本作があくまでヒモの実態ではなく、「せわしない毎日を生きる現代人への幸せのヒント」に主眼を置いて描かれていたから。

 確かに働かない翔ちゃんはどうしようもない男だが、遊んで暮らしたいは人間の偽らざる本音。先日、惜しまれながらこの世を去った人気漫画家・さくらももこによる名作『コジコジ』でも、「向上心がなさすぎる」「遊んで食べて寝てるだけじゃないかっ」と叱責する先生に対し、主人公のコジコジは「盗みや殺しやサギなんかしてないよ。遊んで食べて寝てるだけだよ。なんで悪いの?」と切り返している(さくらももこ『コジコジ』第1巻より)。このコジコジの名言に目からウロコが落ちた読者も多いだろう。

 翔ちゃんも同じだ。興味が向かないことを嫌々やっても仕方ない。頑張ることは素敵だけれど、自分に嘘をついたり、意に沿わぬ組織や上司に魂を売り渡してまで、頑張りすぎることはない。ありのままで、素直に生きていこう。全話を通じて、翔ちゃんはそんなメッセージを体現していた。

 翔ちゃんが唯一何よりも守りたいのは、大好きなゆり子のそばにいること。今なお日本には家族の看病で会社を休んだり、プライベートの用事のために有休を使うことに対して、非難めいた視線を向ける風潮が残っている。そんな前時代的な価値観を軽やかにスルーし、翔ちゃんは「最優先はゆり子」というポリシーを貫き通した。度を超えたクズでありながら、最終的に多くの視聴者が「翔ちゃん」「翔ちゃん」と愛称で呼んでいたのも、こうした姿に少なからぬ憧れと共感を抱いたから。サクッと楽しめるコメディとしてのクオリティの高さと、現代的な仕事観・生活観にマッチしたコンセプトが、作品の魅力の基盤となった。

■コメディ演技もお手のもの。全方位俳優・窪田正孝のすごみ

 そして最大の魅力は、何と言っても翔ちゃんを演じた窪田正孝の演技力だろう。数カ月前まで『アンナチュラル』(TBS系)で悩める医大生・久部六郎を演じていた俳優と同一人物とはとても思えない振り切れっぷり。見た目はもちろん、声の出し方から姿勢まで役に合わせて自由自在にアジャストする調整能力の高さには目を見張るものがある。

 特に今回秀逸だったのが、いわゆる「顔芸」の多彩さだ。こうしたライトなコメディはカット割りが多く、表情のアップが多用される。そこで窪田正孝は、眼球が飛び出しそうなほど大きく目を見開いたり、ムンクの叫びのように口を開いたり、見ているだけで楽しくなる表情豊かな演技を披露。さらに、高々とジャンプしたり、豪快にスライディングしたり、抜群の身体能力に支えられたキレのあるアクションを織り交ぜることで、視聴者の笑いを誘った。

 発声に関しても工夫が効いている。普段はちょっと眠たげな甘え声で、翔ちゃんのだらしなさを強調。しかし、カッコをつけてエリートを装うとき、ゆり子に対して男らしく愛の言葉をささやくとき、想定外の事態に見舞われ素っ頓狂な声をあげるとき。短い台詞のやりとりの中でも、スムーズに声色を切り換え、コメディアン(喜劇俳優)としての実力も存分に示した。

 『アンナチュラル』ではナイーブな役柄に応じて、微妙な目の動きで心理状態を表したが、今回はいい意味で演技も大味。窪田正孝のアメイジングなところは、繊細さを要求される芝居も、大胆さが必要な芝居も、全方位対応できるところ。直球でも変化球でも勝負できる球種の広さこそが、「カメレオン俳優」と評価される所以だ。

 30代を迎え、年齢的にも今後はますます社会派や歴史物など重厚な作品での活躍が期待される窪田正孝。これだけ弾けた役どころはしばらく見納めになる可能性も高い。大切なゆり子を失うかもしれない……という史上最大のピンチに見舞われた翔ちゃんを窪田正孝がどう演じ切るのか。最後まで気持ち良く笑わせてもらえることを楽しみにしている。(文=横川良明)

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