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夜の本気ダンスが生み出した“ボーダーのない熱狂” 岡崎体育、DATSも出演した自主企画を見て

リアルサウンド

18/8/10(金) 19:00

 7月24日、東京キネマ倶楽部にて、夜の本気ダンスの自主企画『O-BAN-DOSS』が開催された。この『O-BAN-DOSS』は、彼らが2014年より開催してきた対バンイベントで、今回出演したのはDATS、岡崎体育、そして夜の本気ダンスの3組。現行する海外のメインストリームポップのエッセンスも昇華した、洗練されたサウンドをエモーショナルにバンドで鳴らすDATS。MacBookを傍らに、たったひとりでステージに立ち、踊らせたり、笑わせたり、とにかく“アゲる”ことに一心不乱に突っ込んでいくエンターテインメント性溢れるステージを展開する岡崎体育。そして、純然たるガレージロックバンド然とした佇まいで、「ギターロック×ダンス=?」という問いの答えを独自に拡張させ続けている夜の本気ダンス。この日揃った3組の独自性を考えてみれば、まさに異種格闘技戦とでもいうべきメンツである。

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 しかし結果として、この夜は、異種格闘技戦といえどもピリピリしたムードはなく、とても幸福度の高い約3時間のライブだった。岡崎体育だけは若干、バンドマンに対する怨念をまき散らしていたが……まぁ、そこはご愛嬌。DATSも、岡崎体育も、夜の本気ダンスも、すべてのアーティストがオーディエンスを自分たちの世界に巻き込むことのできるパフォーマンス力を持っていたし、なにより、キネマ倶楽部に集まった誰もが一切排他的ではなく、会場全体に「とにかく踊ろうぜ!」というムードが充満していたところがよかった。ボーダーはなく、ひとえに熱狂がある……そんな空間だった。

 トップバッターを飾ったDATSは、リリカルかつダンサブルなサウンドに乗せて、ハンドクラップやコール&レスポンスを先導するなど、アップリフティングなパフォーマンスを披露。「DATSはお洒落な音楽をやっているいけ好かないヤツらだと思われがちだけど、そうじゃないって、この汗を見たらわかってもらえると思います!」とMONJOE(Vo/Syn)はMCで言っていたが、まさに彼らのバンドとしての豊かな人間味、生々しさが伝わってくる演奏だった。続く、夜の本気ダンスと出身が一緒(京都府)の岡崎体育は、自身のパーソナリティをダンス、歌、ラップ……と、様々な方法論に接続しながら、エキセントリックなパフォーマンスでオーディエンスを圧倒。私は2階から観ていのだが、オーディエンスがジャンプするたびに足場が揺れまくって、ちょっと怖いくらいだった。

 そんな2組に続き登場したこの日のトリ、夜の本気ダンス。ライブは去年発表された2ndアルバム『INTELLIGENCE』と同じく、彼らの真骨頂というべき獰猛なダンスチューン「Call out」からスタートした。2曲目の「Without You」では、鋭利な導入部から切なさの宿るサビへと展開させていき、ただ“踊らせる”だけではない、体だけでなく心も突き動かしてみせるバンドの表現力の豊かさを見せつける。続く「Can‘t You See!!!」では、躍動するトライバルビートと鋭利なギターカッティング、そしてハンドマイクで歌う米田貴紀(Vo/Gt)の姿が、バンドの獣のような野性味を、これでもか! と言うぐらいに引き立たせてみせる。さらに、続いて演奏された新曲「Magical Feelin’」は、かつてないほどにバンドのポップセンスが際立った1曲。その清涼感&覚醒感の宿ったメロディで、バンドが新たなフェーズに入ったことを証明して見せる。冒頭の4曲で、夜の本気ダンスというバンドの現在地、そしてその“うま味”を濃縮して提示してくるような、見事にデザインされたセットリストだ。

 それ以降も、「Japanese Style」の後半部分では、歌なしのドープなファンクを長尺で展開したり、彼らの重要なルーツのひとつ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのカバー「N.G.S」では、原曲よりテンポを落とし、どっしりとした空間的なアンサンブルで聴かせるなど、豊かな音楽素養が反映された演奏を披露していく。

 “夜の本気ダンス”というバンド名は、実際に彼らの曲を聴いたことのない人からしたら「あぁ、ノリのいい、踊れるバンドなんだね」と、安直にイメージ付けされてしまいそうな名前でもある。もし、夜の本気ダンスの4人が単純に「盛り上がる」ことが正解だと思っているのなら、聴き手をただ運動させるだけの淡白で機能的な音楽が生まれていたことだろう。しかし実際は違う。夜の本気ダンスは、「これなら踊りやすいでしょ?」というような、聴き手を馬鹿にした音楽の提示の仕方はしない。彼らが提示する“踊る”という体験の中身は、もっと深く多様なものだ。

 シンガロングなどの一体感を求めるタイミングがあるものの、基本的に固定化されたノリ方をバンドがオーディエンスに求めることはなく、曲ごとにアプローチを変えて生み出されるグルーヴに対して、オーディエンスが自由に反応することを求める。彼らは、“踊らされる”ことと“踊る”ことの違いを知っている。そのグルーヴに乗せて、まるで「踊らされるなよ」と伝えているようだ。つまり、それは「俺たちは好き勝手に本気でやるから、お客さんにも本気で応えて欲しい」ということ。本気でダンスするということは、いつだって主体的な行為なのだと、夜の本気ダンスは知っている。

 そんな“本気ダンス”を奏でる者たちと、それを求める者たちが集まったからこそ、この日の『O-BAN-DOSS』は、ボーダーのない熱狂を生み出すことができたのだろう。こうしたイベントとなると、個々のアーティストのファンたちが、そのバンドの番だけ盛り上がる空間になってしまわないだろうか? とか、あるいはイベントのホストである夜の本気ダンスのファンが、ほかのバンドをどれほど受け入れるのか? とか……そういった点での不安感もあるものだが、この『O-BAN-DOSS』に関しては、そういった不安は一切不要だった。集まった誰もが、“誰のファン”など関係なく、こんなにも熱狂的な音楽が鳴っている空間がある……その状況自体に愛おしさを覚えている感じがした。“楽しまされる”のではなく、“楽しむ”ことを自分で選び、本気で向き合う人たちが集まっていたのだろう。

 「Dance in the rain」はイントロから歓声が上がり、「LOVE CONNECTION」、「By My Side」、「WHERE?」とキラーチューンを連投して本編は終了。アンコールでは「Feel so good」と「TAKE MY HAND」を披露した。特にアンコール2曲の演奏の激しさはすさまじく、まるで暴れ馬のようで、彼らの本気のダンスが、この先もまだまだ途切れることがないことを確信させた。

■天野史彬(あまのふみあき)
1987年生まれのライター。東京都在住。雑誌編集を経て、2012年よりフリーランスでの活動を開始。音楽関係の記事を中心に多方面で執筆中。

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