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樋口尚文 銀幕の個性派たち

川瀬陽太、銀幕のけものみちに分け入って (インタビュー 前篇)

隔週連載

第19回

19/3/14(木)

撮影:樋口尚文

今回と次回は、『月夜釜合戦(つきよのかまがっせん)』『天然☆生活』と、主演作の公開が相次ぐ「個性派」のおひとり、川瀬陽太さんにインタビューする、特別編でお送りいたします。

─── 川瀬さんの主演作『月夜釜合戦』が関西上映で喝采を浴びた後、ようやく東京公開にこぎつけました。撮影が難しい大阪の釜ヶ崎(現・あいりん地区)での16ミリフィルムによるオールロケが話題となっている野心作ですが、どういう経緯でご出演となったのですか。

川瀬陽太(以下、川瀬) 『月夜釜合戦』は冨永昌敬監督『ローリング』を撮った2015年の、春くらいからのべ半年くらいかけて釜(=釜ヶ崎)で撮影したんですね。実はそれに先立って山崎樹一郎監督の時代劇『新しき民』に出ていまして、そこに佐藤零郎監督も役者として出演していた。そこで「川瀬さん実は」とこの映画のオファーをされたんですが、実は佐藤監督はもともとは釜に住む素人さんにこの主役をやらせようと思ったらしいんです。ところがその人が佐藤監督たちとうまく行かなくなっちゃって(笑)僕に頼んできたんですね。

─── そもそも素人さんにあの役は荷が重いですよね。

川瀬 きっと富田克也監督が自分の身のまわりの人間で『国道20号線』『サウダーヂ』みたいな映画を撮ったのと同じような方向性でやりたかったんだと思いますよ。それに佐藤監督はもともとドキュメンタリストとして布川徹郎監督に師事し、最期まで看取ったような男なんです。そのお葬式で出会った足立正生さんと釜の三角公園で酒盛りして送ったというんですが、そんな気分は今回の映画にもつながっていますよね。

『月夜釜合戦』(C)映画『月夜釜合戦』製作委員会

─── このデジタル至上主義の時代に16ミリというのは、ある意味贅沢ですね。

川瀬 僕らの時代だと、もうフィルムで撮れるのが大手の大御所監督の現場か、真逆のピンク映画の現場かだったわけで、後者のほうからスタートした自分としては、16ミリフィルムで撮るというのは惹かれましたね。それと『太陽の墓場』『(秘)色情めす市場』『仁義の墓場』『スクラップ集団』……といった釜ヶ崎をめぐる映画の記憶にも誘惑されまして。僕とキー君(渋川清彦)が会話するシーンなんか、もろ『(秘)色情めす市場』のロケ地で大喜びですよ。でも、その対面には瀟洒なマンションが建ち並んでいて、こういう釜や飛田の最後かもしれない風景を、最後かもしれないフィルムで撮る、ということがとても魅力的でした。

─── 難しい大阪ことばの演技については苦心されましたか。

川瀬 僕みたいな関東の人間が大阪ことばを話すということへの不安や緊張は当然凄くあって、当初は監督や仲間たちからみっちり大阪弁を教えてもらったりしてたんですが、主張の強い大阪の人たちは「それでええ」「うちのほうではそんな発音はせん」とか、もう意見がみごとにまちまちなので(笑)、しばらくしたら「これは寄せ場の話なのだし、出自にこだわらずテンション優先で行こう」とふっきれました。

『月夜釜合戦』(C)映画『月夜釜合戦』製作委員会

─── しかし釜ヶ崎での撮影はのどかに進んだわけではありませんよね。

川瀬 結果としてはよそ者扱いではなくて、あったかく受け入れてもらえたと思うんですが、撮影の時はあいかわらずトラブル続出で、もう5分に一回は撮影が止まる勢いでした。たとえば僕がキー君と話してるシーン撮ってたら「おまえら何しとるねん」という人やら「おっちゃん昔映画の仕事しとったから出してや」という人やら、果ては人語を解さずチャリンコ投げつけて来る人まで現れて……(笑)。でも僕らが一所懸命やってることが伝わると、過剰にそういう邪魔から僕らを防御してくれたり(笑)。いろんな事情を抱えてここに流れついた人ばかりだけど、どこか祭り好きの楽しい人たちだなと思いました。

─── そんな問題だらけの場所で撮った作品なのに、笑いもペーソスも幻想性もあって構えず楽しめる映画になっているのが凄いし、川瀬さんが実に機嫌よく風来坊を演じていますね。

川瀬 釜はさまざまな厳しい現実に直面してるんですが、かといって問題意識だけの映画には出たくないんです。そういう意味でも、今回みたいな映画なら『ダボシャツの天』みたいなことが出来るかなと思ったんですね。それに、デジタル中心になって映画の現場も志もなんだかこぢんまりとして行くなかで、ここには僕の好きな「組の匂い」があったんです。みんなで思いをひとつにして、普通ではないヤバいものを作って花火あげるぞ、みたいな雰囲気が。今やかなり失われたそういう野心、やる気が充満している現場だったんですよ。

(後篇へ続く)

作品紹介

『月夜釜合戦(つきよのかまがっせん)』

2019年3月9日公開 配給:映画『月夜釜合戦』製作委員会
監督・脚本:佐藤零郎
出演:太田直里/川瀬陽太/門戸紡/渋川清彦/カズ

プロフィール

樋口 尚文(ひぐち・なおふみ) 

1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』、新作『葬式の名人』が2019年に公開。

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