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いま、最高の一本に出会える

桜井ユキの「感情の暴発」を見逃すな 連ドラ初主演『だから私は推しました』で見せる力量

リアルサウンド

19/8/10(土) 6:00

 いろんな方面からの「そうきたか」が詰まっているドラマ『だから私は推しました』(NHK総合)。

 今年に入ってから『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』と、最もチャレンジングな意欲作を連発している感のあるNHK「よるドラ」枠が、次に手掛けるのは「地下アイドルと出会い、オタク沼にハマったOL」の物語。つまり、ゾンビ、腐女子の次は「地下アイドル」。

 しかし、オリジナル脚本を手掛けているのは、森下佳子。古くは『白夜行』を手掛けているように、ミステリーもお手の物。地道に健気に頑張る地下アイドルと、それを支える女子アイドルオタクの切なくも可愛い物語……であろうはずもない。と思ってはいたものの、第一話の冒頭に登場したのは、警察での取り調べシーン。

 主人公は、いわゆる「推し」の説明をしていたはずなのに、そこからたどり着くのは「マンションから転落した事件」=「だから私は押しました」という独白。そうきたか……。

 さらに、主人公・遠藤愛を演じるのは、連ドラ初主演となる桜井ユキ。『東京独身男子』(テレビ朝日系)で有能で美しく、肉食だが、結婚願望のない「AK女子」を演じていたのは記憶に新しい。

【写真】『だから私は推しました』出演の桜井ユキ

 だが、それよりも先に浮かんでくるのは『絶対正義』(東海テレビ・フジテレビ系)。何よりも正しさを求める真っすぐで危ない主人公・高規範子(山口紗弥加)の高校時代の同級生で、後にジャーナリストになるが、範子の正しさに追い詰められていき、崖から突き落とす友人の一人・今村和樹役だろう。

 なにせ『だから私は~』で桜井が「推す」アイドルは、『絶対正義』で山口の高校時代と、娘役の二役を演じていた白石聖だ。“桜井ユキ×白石聖”のタッグに、危険なニオイを感じないわけはない。

 というわけで、期待値が最大限に高まる中で、意外だったのは、あの桜井ユキが、最初はSNSで「いいね」をもらうことばかり考え、周囲の空気ばかり読むOLだったこと。

 意志がものすごく強そうな大きな眼と、スッと通った鼻筋は、どう見ても気が強そうな美人だが、雰囲気は全く明るくなければ、健全でもない。中にドロドロした闇を抱えつつ、それが薄皮一枚というギリギリの状態で覆われているような危険な雰囲気こそが、桜井ユキの魅力だと思うから。

 しかし、そんな「桜井ユキらしくない」普通のOLが、スマホを拾った人物に会うために訪れたライブ会場で殻を破る。歌も踊りも全然ダメで、周りからズレているのに必死についていこうとして、前髪ばかり気にしている内気で暗い印象の地下アイドル・栗本ハナ(白石聖)の姿に、無理をしている自分自身の姿を重ね合わせ、ふいに苛立ちを爆発させる。

 そして、周囲がドン引きするのもおかまいなしに、大声で罵詈雑言を叫ぶのだ。それでこそ桜井ユキだ。

 しかし、そんなトゲトゲだらけで荒みまくった彼女に勇気を与えたのも、何をやってもダメなのに一生懸命前に進もうとするハナの姿だった。その姿に心を打たれ、高揚感と恍惚感溢れる様子で涙を流す「オタクはじめました」の表情がまた、生々しくて良い。

 そこから「ドルオタ」道の学びが始まり、ハナを雁字搦めにする独占欲の強いオタクの危険性に気づき、さらに周りのオタクと協力し合ってハナを守ることに成功する。

 しかし、達成感を得たところからが地獄の始まり……というのも、森下佳子節。今後の展開が非常に恐ろしい。

 それにしても、桜井ユキには、なぜこんなにも「苛立ち」「怒り」「闇」や「感情の暴発」が似合うのだろう。本作はまさに適役である。

 ちなみに、桜井ユキは「ユマニテ」所属。ドラマや映画好きの人は、名前を聞くと「ああ、なるほど」とピンとくるかもしれない。

 例えば、NHKの朝ドラ『まんぷく』ヒロイン・福子や、映画『万引き家族』で演技力が絶賛された安藤サクラ。福子の姪っ子として14歳の設定から違和感なく登場した岸井ゆきの。

 映画『寝ても覚めても』で多数の映画賞の主演男優賞を獲得するなど、演技派としての評価を高めている東出昌大や、『義母と娘のブルース』(TBS系)でみゆきの同級生・大樹を演じた井之脇海、若手演技派として多数の作品への出演が相次いでいる岡山天音、さらに門脇麦や満島真之介など、実力派の役者たちが揃う事務所なのだ。

 桜井ユキ自身、小学生の頃から女優を志し、一度は挫折したものの、諦めきれずに再度上京してきたという経歴の持ち主。多数の映画などに出演していたが、注目度が高まったのは、2016年にユマニテに移籍した頃からだろう。

 もともと幼少期は「人と話すのが苦手」「一人で殻に閉じこもって壁を作るタイプ」だったことを過去のインタビューで語っていたが、そんな過去のモヤモヤもドロドロした感情も、確実に演技の糧になっている。

 「美人女優」という健全な言葉ではその魅力の一部も伝わらない桜井ユキの本領が、『だから私は推しました』で存分に見られるはずだ。

(田幸和歌子)

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