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いま、最高の一本に出会える

「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」場面写真(c)2015 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

青野賢一のシネマミュージックガイド Vol.3 エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に

ナタリー

19/11/25(月) 19:00

DJ、選曲家としても知られるライター・青野賢一が毎回1つの映画をセレクトし、“映画音楽”の観点から作品の魅力を紹介するこの連載。第3回で取り上げるのは、日本で2016年11月に公開された「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」だ。1980年のアメリカ・テキサスを舞台に、野球推薦で大学に入学することになった青年が個性的なチームメイトたちと過ごした約3日半の様子を描いたこの作品の、音楽的な魅力とは。

リチャード・リンクレイターがセレクトした劇中曲

まず、真っ黒な画面に、The Knack「My Sharona」が聴こえてくる。4小節の印象的なドラムパターンに続いてベースが入ってきたところでカーステレオが映る。PIONEERのオートリバース機能が付いたカセットプレイヤーだ。そのあとに連なるギターのリフの前、さあ飛ばしてしていくぞと言わんばかりにボリュームを上げる右手。後部座席には野球のグローブとビールケースのような容れ物に詰め込まれたレコード──手前にあるのはDevoのデビューアルバム「Q: Are We Not Men? A: We Are Devo!」だ──それからレコードプレイヤーとカセットテープを収納したケースも見える。テキサスナンバーのこの車を運転しているのは、今回ご紹介する「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」の主人公、ジェイク(ブレイク・ジェナー)。彼は野球推薦で南東テキサス州立大学に入学することになり、野球部の寮を目指して車を走らせているのだ。

1980年8月28日(木)16:06に野球部の寮に到着したジェイクは、車から荷物を下ろして寮に運び込む。先のレコードケースの中にはTalking Heads「More Songs About Buildings And Food」のジャケットもチラリと見える。「エブリバディ・ウォンツ・サム!!」は、ここから9月の新入学までの3日と少しの間の出来事を描いたものだ。監督は「スクール・オブ・ロック」(2003年)、「6才のボクが、大人になるまで。」(2014年)のリチャード・リンクレイターで、この作品では脚本とプロデューサーも務めている。

寮でジェイクを迎えるのは、大学野球部の部員といえば野球一筋だろうというステレオタイプなイメージを全力で覆す個性的な面々。寮(野球部の寮はほかのそれとは違い大学構内から少し離れた2棟続きの一軒家なのだ)の2階にウオーターベッドを作ろうとしていたり、カール・セーガン「コスモス」を耽読し「第9章はブッ飛ぶぞ」とジェイクに薦めたりして、一筋縄ではいかない印象だ。ミーティングまでの2時間、ジェイクを含む5人は車に乗り込んで学内を流す。車中ではThe Sugarhill Gang「Rapper's Delight」を大音量でかけ、それに合わせてマイクリレーしながら(マイクはないが)みんなで大合唱。最高に楽しげなシーンだ。

リンクレイター監督は1960年テキサス州ヒューストン生まれで、高校、大学と野球部に所属していた。そんなところから本作は監督の自伝的性格が強いわけだが、時代設定を変更していないことで、映画の中の表現が実に説得力のあるものになっている。作中で使われている音楽はその最たるものといっていいだろう。先の「Rapper's Delight」のほか、ディスコのシーンではThe S.O.S. Band「Take Your Time (Do It Right)」、ジャーメイン・ジャクソン「Let's Get Serious」、Peaches & Herb「Shake Your Groove Thing」、Kool & the Gang「Ladies Night」、ドナ・サマー「Bad Girl」。カントリーバー「健康酒場」ではエディ・ラビット「Drivin' My Life Away」といった具合に、当時実際に耳にしていたであろう曲が使われている。これらの楽曲のセレクトは監督自らが行っているのである。

Pink Floyd好きのウィロビー

面白いのは、新学期のタイミングでカリフォルニアから編入してきた4年生のウィロビー(ワイアット・ラッセル)がジェイクら数人と寮の部屋でレコードを聴きながらマリファナを吸うシーンとその後。かかっている曲はPink Floyd「Fearless」なのだが、これは1971年発売のアルバム「Meddle」に収録されている。ウィロビーは「ここからの展開がすごい どんどん盛り上がってくんだ」「次々に上がってって……」とフレーズを口で真似る。そんな彼だが、のちに退学となってしまうのだ。理由は偽名を使っていろいろな大学に編入していたことがバレたため。ウィロビーはこのとき30歳だった。“タイダイのTシャツを着て、マリファナの煙を肺いっぱいに吸い込みながらPink Floydのトリッピーな曲を最高というカリフォルニア出身の男”というキャラクターは、1980年においては遅れてきたヒッピーかぶれといえるが、それも彼の年齢を知れば納得だろう。かぶれどころか、ウィロビーは本物のヒッピーなのだ。

前述のようなエピソードや、ジェイクの恋愛話などはあるものの、ストーリー自体はとりたてて大事件が起きるわけでもなく進んでいく。とりとめのない会話、仲間と飲むビール、暇つぶしにやるゲーム、パーティでの乱痴気騒ぎ。どれも取るに足らないことと言ってしまえばそれまでだが、それこそがかけがえのない時間だったことに、私たちはあとになって気が付くことが多い。そしてそうした時間の記憶は、音楽と組み合わさることでより鮮やかに心に刻まれる。

「エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に」

日本公開:2016年11月5日
監督・脚本・一部選曲:リチャード・リンクレイター
出演:ブレイク・ジェンナー / ゾーイ・ドゥイッチ / ライアン・グスマン / タイラー・ホークリン / グレン・パウエル / ワイアット・ラッセルほか
配給:ファントム・フィルム
発売:カルチュア・パブリッシャーズ
販売:ポニーキャニオン
価格:DVD 3800円 / Blu-ray 4700円 (共に税抜)

文 / 青野賢一

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