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伊藤健太郎「人と人とのつながりの大切さ」 映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』インタビュー

ぴあ

20/9/10(木) 12:00

伊藤健太郎 撮影:山口真由子

今、もっとも旬な女優とも言える清原果耶を主人公に、中学生の少女と、偶然出会ったおばあさんとの奇妙な交流から少女の成長を描く、映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』が9月4日より公開となっている。

父親の再婚相手である母が妊娠し、2人から愛情を注がれているにもかかわらず、どこか居心地の悪さを感じる中学生のつばめ(清原果耶)。学校でも仲のいい友達はいるものの、変な噂を立てられ、何となく気まずい。そんなつばめが好意を寄せているのが、伊藤健太郎が演じる隣の家に住む大学生の亨くん。家の窓辺からつばめを見つけると「おはよう!」と屈託のない笑顔で挨拶をしてくる好青年だ。つばめがひょんなことから出会った“星ばあ”(桃井かおり)と呼ぶ見ず知らずのおばあさんのために、“赤い屋根”の家を一緒に探したりもする。

そんな“普通”の亨くんをちょうどいい加減の“普通さ”で演じた伊藤健太郎。役と向き合う姿勢から、自身がこの作品を通して感じたこと、そして改めて伝えたいことなどを語ってくれた。

■ファンタジーだけど僕らが普段生きている世界との距離感が近い

ーー今作について最初に感じた印象を教えてください。

この作品はファンタジーではあるんですけど、その中に現実味もあって共感できるところだったり、今の自分に刺さる言葉があったりもするので、その微妙なラインがすごく面白いな、と思いました。ファンタジーと言ってしまうと「そういう世界の話なんだ」って思いがちだけど、僕らが普段生きている世界との距離感が近いんですよね。

とはいえ、星ばあ(桃井かおり)の存在であったり、不思議なシーンがあったり、現実から離れるようなところはあるので、亨としてはそこと現実をつなぐような存在でありたいと思いました。脚本を読んだときに亨が一番リアルに近い存在だと思ったんですよね。それは、感情にしろ、つばめ(清原果耶)との掛け合いにしろ。その差をきちんと見せる存在になることは大事にしたいなと思っていました。

ーーキャラクター作りにおいて、藤井道人監督と事前に話したことはありましたか?

最初の頃に、隣に住んでいて、ちょっと憧れちゃう普通のお兄ちゃんを演じたいですね、という話をしたので、そこはすごく意識していました。無理にカッコつけたり、変に大人びたりせずに、等身大の大学生を演じることで中学生のつばめが憧れてしまうような感じ。

それで、つばめがいつか大人になって中学生の頃を思い出したときに、そこに亨がたくさん登場したらいいな、と思っていました。

ーー亨はつばめのことをどう思っていたと思いますか?

つばめから亨に対する気持ちが“LOVE”だとしたら、亨からつばめへの気持ちは“LIKE”だとは思います。何か特別な感情があるわけじゃないけど、かわいい妹のような感覚じゃないかと。

だから、困っているのであれば、一緒に何かをしてあげたい、という気持ちになったんだと思います。決して、つばめの気持ちを弄ぼうとか、そういう気持ちはないです。僕にもそんなに人数は多くないですけど、弟や妹のように思う子はいるので、亨の気持ちもわかりました。

ーーつばめを演じた清原さんの印象を教えてください。

撮影当時はまだ17歳だったんですけど、すごく大人で、自分が17歳のときはこんなにしっかりしてかなったな、と思いながら、陰からこそっと見ていました(笑)。主役として真ん中に立つ人だな、と思っていました。

ーー清原さんのお芝居に引っ張られるようなことはありましたか?

引っ張られるというのとは違うけど、つい見入ってしまうことはありました。一緒にお芝居をしている瞬間でも、段取りとかテストのときとかに、「お芝居が素敵だな」って見てしまっていて、「あっ!次は俺のセリフだ!」とか(笑)。視聴者になってしまう瞬間がありました。そういうことってあんまりないので、すごいなって思いましたね。かと思うと、等身大の17歳なところもあるし。一緒にお芝居をしていて楽しかったです。

■芝居じゃない芝居、芝居をしていない芝居をする

ーー亨はいわゆる“普通”のキャラクターですが、“普通”を演じる上で意識したことはありますか?

逆にあんまり意識をしないことですかね。例えば、猟奇的な殺人鬼とか、『今日から俺は!!』で演じた伊藤とかだと、ビジュアルにしろ、台詞にしろ、キャラクターを作るためのヒントは多いんです。そういうキャラクターはわりと引き出しを開けやすいんですよね。

なので、亨に関して言えば、バンジョーを弾いていたり、松葉づえをついたりもするんですけど、ガチガチにしないで、どこか自分の素と近い部分を出そうとしました。そっちの方を意識していたかもしれないです。演じていることを感じないようにする、というか。

もちろんセリフもありますし、素の自分とは違う人なので全くの素を出すわけではないんですけど。お芝居をしていないようなお芝居をする、みたいな感じですかね。

芝居をしよう、って思ってしまうと、たぶん普通さの部分が濁ってしまうと思うんです。だから濁らせないためには芝居をしないのが一番なんですけど、芝居をしないとただの僕なので(笑)。芝居じゃない芝居、芝居をしていない芝居をするというか。説明するのが難しいですね(苦笑)。

ーー亨の映画の中では描かれていない背景を考えることはありましたか?

ありました。それは亨に限らず、どのキャラクターを演じていてもあります。亨に関して言うと、どんな男友達と一緒にいるんだろう?というのは考えました。ストーリーの中に友達の存在が出てこないんですよね。シーンとして出てくるのは、一人でバンジョーを弾いているか、姉かつばめと一緒にいるか、なので。もしかして友達いないんじゃないかって思ったり(笑)。

バイクに乗ってバンドの練習から帰ってくるシーンがあるんですけど、そういうときは、友達と一緒にいたんだな、って思うんですけど、わりと一人の時間を大切にしている人なのかなって思ったりもしていました。

ーーそういうところからキャラクター作りをするんですか?

作るというほどではなく、何となく考えるという感じです。例えば、寝るときはどんな格好なのか。裸なのか、ちゃんとパジャマを着ているのか、それともスエットなのか、とか。そういうことを空き時間にふと考えていたりします。面白いから考えているだけです。

ここでもし亨が転んだら、どんな反応をするんだろう。すぐ立ち上がるのか、痛いって言いながら転げまわるのか、転んだことを隠すのか、とか。そういうのを考えると無意識のうちにキャラクターが出来上がって行ったりもするんですよね。

■失敗しながら少しづつ学んでいる

ーーこの映画はつばめの成長の物語でもあると思うのですが、亨もつばめと一緒に成長する姿が描かれていたと思います。その点で意識したことはありますか?

僕が亨のセリフで一番大事にしていたのが、“あのときに追いついていたら、殺していたかもしれない”というところ。物語はつばめ目線なので、そこから見ると亨って大人っぽく見えていたりもするんですけど、実際には亨はまだ大学生だし、そんなに大人じゃないんですよ。

それがあのセリフによってすごく出ているというか、亨の等身大を見せてくれるんですよね。そこから亨の考え方が変わっていくので、あのセリフはすごく意識をしていたと思います。

ーー伊藤さん自身はどんなときに自分の成長を感じますか?

やっぱり失敗をしたときじゃないですかね。失敗する前に周りから言われていたことでも、自分で失敗してようやくわかることが多いので。周りから言われることって、頭ではやらない方がいいとは思っていても、やってみないと本当の意味でわからなかったりするんですよね。

周りの大人からは失敗しない道を行けるのだから、そうした方がいいとはよく言われていたのですが、それが僕の中では腑に落ちなくて。失敗しないとわからないのが僕の性格なので(苦笑)。もちろん法律に触れるようなことはダメですけど。僕は失敗しながら少しづつ学んでいると思います。

ーー今作を通して、伊藤さん自身の考え方に変化があったことはありますか?

変わったというより、より強く思えるようになったことはあります。この作品にはいろんな家族が出てくるじゃないですか。亨の家族に、つばめの家族、星ばあの家族とそれぞれに違う形がある。

血のつながった両親がいて、兄弟がいて、ペットがいて、とかいう家族が“理想”なのかも知れないですけど、それが“正解”ではないな、と。つばめは少し複雑な環境にいるけど、それでも家族だし、星ばあみたいに血がつながっていれば家族か、と言えば、家族ではないこともあるし。どの家族が正解で、どの家族が間違っているとかって、本人次第だと思うんですよね。そういう家族の在り方みたいなものは、すごく感じましたね。

■しぶとく生きることって大事なんだな、って

ーー最初に“刺さる言葉があった”とおっしゃっていましたが、どんなセリフが響きましたか?

星ばあの“しぶとく生きろ”というセリフは素敵だな、と思いました。いろんな捉え方ができる言葉だとは思うんですけど、僕はこの言葉が前に進むための活力になるな、と思いました。

明石家さんまさんの“生きてるだけで丸儲け”という言葉も好きで、それと似た感覚があるんですけど。辛いことがあったとしても、しぶとく生きることって大事なんだな、って思いました。

ーー“しぶとく生きろ”って年齢を重ねると響く言葉のような気がするのですが、まだ23歳の伊藤さんにも伝わるものがあるんですね。

確かに10代の頃とかって、正直、生きるとか、死ぬってことがあんまりピンと来てなかったと思うんですけど、段々とそういうことがわかるようにもなってきて。言い方が難しいんですけど、人って考えているよりも簡単に死ねてしまうじゃないですか。この瞬間の次に何が起こるかわからないわけで。

だから自分が急に死んでしまったらどうなってしまうのかな?とかも考えたりするようにもなりました。そう思うと、何があってもしぶとく生きる、というのは、すごく大切なことなんだと思います。

ーー何かそういうことを深く考えるきっかけがあったわけではないんですよね。

これといったきっかけがあったわけでないんです。幸いなことに、身近で大切な人が亡くなってしまったわけでもないですし。ただ、今の状況で言うと、世界中でたくさんの人が命を落としていることを見たり、聞いたりする機会も多いじゃないですか。そうすると、他人事でもないと思うし、考えてしまいますね。

ーーそうやって数か月で私たちの生きる環境が変わってしまって、映画を撮っていたときと、公開のときとで世の中が変わってしまった部分もありますが、改めて、この映画を通して伝えたいことはありますか?

もちろん(映画を)撮っていたときも思っていたんですけど、今はより強く、人と人とのつながりの大切さをこの映画から感じています。人が人を想うこと、人と人がつながることは大事ですよね。

人はやっぱり一人では生きていけないし、助け合いながら生きていかなきゃいけない。それは家族であれ、友達であれ、他人であれ。そういうことに関係なく、みんなが助け合って生きていくことが重要だと思うので、それをこの映画を通して感じてくれる方がたくさんいてくれたら嬉しいな、と思います。

この数か月で本当に当たり前だったことが、当たり前でなくなってしまうとか、いろんなことが変わってしまって。これからどうなってしまうんだろう、常識ってなんだろう、とかって考えると怖くなりますよね。だからこそ、変わらずに伝えられることがあってほしいなと思っています。

“普通”の大学生を“普通”に演じることで、“普通”に存在感を与えることのできる伊藤さん。トリッキーな役はもちろん、こういう“普通”の役も演じることで、俳優としての技量を発揮しているのが素晴らしいです。

ちょっと不思議だけど、誰もが共感できる想いを届ける映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』。伊藤さんのほっとする笑顔に癒されながら、観てみてください。

取材・文:瀧本 幸恵/撮影:山口真由子

『宇宙でいちばんあかるい屋根』
全国公開中

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