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大高宏雄 映画なぜなぜ産業学

コロナ禍のなかの2本の映画ー『Fukushima 50』と『デッド・ドント・ダイ』

毎月29日掲載

第21回

20/4/29(水)

3回続いて、新型コロナウイルスがらみになる。他の業種と同じように、映画界もまた、ここを避けては通れない過酷な現実が、日ごとに増しているからだ。前々回、広がりつつあるコロナ禍のただ中で公開される『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』の興行見通しについて書いたが、何といち早く、4月17日から配信が行われたことはこの場で記しておきたい。観たいけれど、コロナが心配で映画館に行かれない高齢者が多く、その要望に応えることが、配信決断の一つだという。全く前例のないことだが、この非常時における一つの特異な事例ということになろう。配信実施の先の理由にもあるとおり、コロナが、本作の興行に大きな影響を与えたのは間違いないだろう。

私は、早い段階で観た試写に次いで、3月中旬に改めて都内・TOHOシネマズ日比谷で相対したが、映画の中身と現在進行形のコロナ禍が二重写しになり、異様な心持ちにさせられた。共通点が多いからだ。その点を強いて挙げれば、政府=国家システムの脆弱さと、最前線で戦う者たちの過酷極まる現場のありようである。前者は大論文が必要だが、後者に関していえば、映画の原発作業員と、今の医療従事者をはじめとする多くの方々の死をかけた姿が重なり合った。加えて、観客もまた、映画を観る自身とコロナ禍のただ中にいる現実上の観客自身の姿とが、重なり合うという特異な面をもつ。『Fukushima 50』が、2020年の3月6日から公開されたことは、これから何年か後に改めて大きな意味をもつのではないか。興収10億円に届かなかった厳しい興行面、公開中の配信スタートなどを含め、さらなる分析が必要であることは付け加えるまでもない。

『Fukushima 50』にかなり字数を費やしたが、今回は3月下旬から公開され、相次ぐ映画館の休業によって、数奇な運命をたどった1本の洋画に触れる。その作品は、ロングライド配給によるジム・ジャームッシュ監督の『デッド・ドント・ダイ』である。ジャームッシュ監督らしい一風変わったゾンビ映画だが、これがなかなかのできばえになっていた。監督には、前々作に『パターソン』という傑作があったが、本作も油断のならない力作で、興行的な期待値も大きかったのである。ただ、本作もまた、コロナ禍に巻き込まれてしまった。

『デッド・ドント・ダイ』
(C)2019 Image Eleven Productions,Inc. All Rights Reserved.

当初は、TOHOシネマズ日比谷で3月27日から先行上映が行われ、4月3日から一般公開の予定だった。それが、先行上映の同館が急遽土日の休業を余儀なくされたため、3月27日の上映はあったが、同館休業の28、29日の土日は無しとなり、30日の月曜日から再び上映されるという変則の形になった。さらにその過程で、緊急事態宣言の実施も取り沙汰されはじめ、映画館の大々的な休業を見越したこともあって、ついに4月3日からの全国公開が、延期になってしまったのである。先行上映までして、公開が延期になったのは、それこそこの作品以外にはないだろう。

『パターソン』もロングライドの配給であり、同社はジャームッシュ作品にこだわりをもつ。『パラサイト 半地下の家族』など、ポン・ジュノ監督作品を何本も手掛けたビターズ・エンドと同じだ。同じ監督作品を買い付けて配給し続けるのは、テオ・アンゲロプロス監督やヴィム・ヴェンダース監督らの配給で一時代を築いたフランス映画社の例を持ち出すまでもなく、単館系作品主体の配給会社の言ってみれば王道である。それだけ力が入り、会社運営の要ともなる意欲作の『デッド・ドント・ダイ』が、コロナ禍に翻弄されたのである。

すでに宣伝費も使い果たしたと聞くので、これから広告面などの露出は相当難しいかもしれない。再公開がいつになったとしても、いわゆる仕切り直しには大変な労力が必要とされるだろう。今までの認知の広がりが、どこまで新たな再開で有効かどうか。それは全くわからないが、厳しい局面であるのは変わりないであろう。実のところ、ロングライドは本作の宣伝にあたり、コロナに関係なく、さまざまな露出にかなり制約があったという。米メジャー・スタジオならよくあることだが、独立系配給会社の作品でそれがあると、日本向きの自由な宣伝ができなくなるため、興行面にもかなり影響が出ることがある。ユニークなゾンビ映画という側面が、意外とあからさまに伝わっていないように見えたのは、それが理由だったろうか。

とにかく、ジャームッシュ色満載のユーモア溢れるこの力作が、再開した映画館で多くの観客と出会うことを願わずにはいられない。公開延期が、相次ぐ映画界である。1作品、1作品に、さまざまなドラマが生まれていよう。そこから、映画への感じ方が、今までと違ってくるのがわかる。これほど、映画のありがたみが肌で実感できるというのも、まずないことである。


プロフィール

大高 宏雄(おおたか・ひろお)

1954年、静岡県浜松市生まれ。映画ジャーナリスト。映画の業界通信、文化通信社特別編集委員。1992年から独立系作品を中心とした日本映画を対象にした日プロ大賞(日本映画プロフェッショナル大賞)を主宰。キネマ旬報、毎日新聞、日刊ゲンダイなどで連載記事を執筆中。著書に『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)、『仁義なき映画列伝』(鹿砦社)など。

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