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立川直樹のエンタテインメント探偵

ロジャー・ウォーターズのコンサートフィルム『US+THEM』ー最先端かつ革新的なテクノロジーを駆使したコンサート演出の凄さに驚きの溜息をついた。

毎月連載

第62回

ロジャー・ウォーターズ

前回の最後にピンク・フロイドのドラマーだったニック・メイスンが結成した新しいバンドのDVDとCDの話を書いたが、“ピンク・フロイドの頭脳”と言われながらニック・メイスンとデヴィッド・ギルモア、今は亡きリチャード・ライトの3人とはバンドの名前の使用権も含めて裁判沙汰になって袂を別ったロジャー・ウォーターズが、2017年から2018年にかけて全世界で230万人を動員し「史上最高のコンサート」のひとつとも呼ばれた歴史的ライヴ『US+THEM』の映像作品と2枚組CDが超強力だ。

ロジャー・ウォーターズ『US+THEM』【完全生産限定盤】(ソニー・ミュージック)

今回は観た順にタイトルだけでも並べていくと、イーライ・ロス監督の『ルイスと不思議の時計』、フランス製作のドキュメンタリー『ジャック・ニコルソン 怪優の素顔』、1930年に小さなプロダクションで監督デビューを果たし、トーキーの時代から各撮影所を渡り歩いてきた千葉泰樹が1952年に東宝で製作した『金の卵 Golden Girl』、名手、宮川一夫の撮影と芸達者な役者たちのうまさに唸らされた1965年の大映作品『悪名幟』とテレビ桟敷で観た映画におもしろいものが多く、展覧会も『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2020』で観たピエール=エリィ ド ピブラックとウィン・シャは、作品の魅力もさることながら、京都府庁旧本館正庁、誉田屋源兵衛 竹院の間という展示場所が素晴しく、いろいろと書きたいこともあったのだが、手練のミュージシャンで編成されたバンドを一緒に繰り広げられる演奏のクオリティの高さ、永遠の歳をとることがないピンク・フロイドの名曲の魅力もさることながら、最先端かつ革新的なテクノロジーを駆使したコンサート演出の凄さに147分の間、僕は幾度も驚きの溜息をつくことになったのである。

ライヴ映像『US+THEM』より

客席を2つに分断するスクリーンにドローン攻撃、貧困に生きる人々、粉々に吹き飛ばされた家々、暴落する金、そしてトランプの軋轢を招くツイートのイメージを映し出すことによって、自分の考えを強調しながら、“完璧なアート・パフォーマンス”と形容したいショーを長年ビジュアル面でコラボレートしているショーン・エヴァンスと共に創り上げ、映像作品の監督もしたロジャー・ウォーターズは、音楽家という枠を超えて教祖か司祭のように見えるし、時には恐ろしく感じられ、時には胸が張り裂けそうな気持にさせられる。

それはセットも含めて完全にコンサートの常識を覆しているし、目も眩む光の洪水と圧倒的な映像美によって忘れ難い体験と記憶になっていく。コンサートの終了後、「感謝しても感謝しきれない。このバンドと音楽を受け入れてくれた。必要なのはここにある愛が世界中に広がることだ。方法さえ見つかるのであれば、我々は共感し、共に行動することができる。この美しい星が“豚たち”に破壊されるのを止められる。私たちは人権を信じている。そしてその権利は平等であるべきだ。それは世界中のあらゆるひとたちに当てはまる。民族や宗教や国籍などは一切関係ない。もちろんパレスチナの人たちもだ」とロジャー・ウォーターズがアムステルダムの観客に真摯な表情で言った言葉。

10月23日に完全ロック・アルバムの新作『レター・トゥ・ユー』を世界同時発売するブルース・スプリングスティーンは、「もしトランプが当選したら即刻アメリカを離れてオーストラリアに移住する」と思いっきり意思表明をしているが、ロジャー・ウォーターズは自らの作品と仕事を通して行動への呼びかけと共に、今の私たちに現実を直視すべきだと警告している。そして、世界の状況を悲観しながらも、究極的には団結と愛を通じたメッセージを送っている。

ライヴ映像『US+THEM』より

そこに僕は全面的に共感する。本当にきちんとした思いを持って作られたアートというのは大小の差こそあれ、人の心を打つのである。銀座メゾエルメス・フォーラムで11月29日まで開催されている『ベゾアール(結石)シャルロット・デュマ展』も観るに値する展覧会。すでに紹介はしたが、Bunkamura Box Galleryで開催されていた『イラストレーターが挑む寺山修司の言葉』も想像をはるかに超えた素晴しいものだった。

ロジャー・ウォーターズ『US+THEM』コンサートフィルム オフィシャルトレーラー

作品紹介

ロジャー・ウォーターズ『US+THEM』【完全生産限定盤】

発売日:2020年10月2日
価格:完全生産限定盤 Blu-ray 4,950円(税込)/DVD 3,850円(税込)
発売元:ソニー・ミュージック
詳細はこちら(Blu-ray)

『ルイスと不思議の時計』(2018年・米)

2018年10月12日公開
配給:東宝東和
監督:イーライ・ロス
出演:ジャック・ブラック/ケイト・ブランシェット/オーウェン・ヴァカーロ/レネー・エリス・ゴールズベリー
放送日:2020年10月3日
WOWOW

『ジャック・ニコルソン 怪優の素顔』

監督:エマニュエル・ノブクール
出演:ジャック・ニコルソン(アーカイブ映像)/パトリック・マクギリガン/ジャン=バティスト・トレ/ヘンリー・ジャグロム
ナレーター:クロエ・レホン
放送日:2020年10月4日
WOWOW

『金の卵 Golden Girl』(1952年・日本)

配給:東宝
監督:千葉泰樹
出演:島崎雪子/小林桂樹/岡田茉莉子/小泉博/香川京子
放送日:2020年10月7日、11日、25日
日本映画専門チャンネル

『悪名幟』(1965年・日本)

配給:大映京都
監督:田中徳三
出演:勝新太郎/田宮二郎/水谷良重/ミヤコ蝶々
放送日:2020年10月4日、8日、10日、16日、27日
日本映画専門チャンネル

『KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2020』

会期:2020年9月19日~10月18日
会場:NTT西日本 三条コラボレーションプラザ、嶋臺(しまだい)ギャラリー、誉田屋源兵衛 竹院の間ほか
公式サイトはこちら

プロフィール

立川直樹(たちかわ・なおき)

1949年、東京都生まれ。プロデューサー、ディレクター。フランスの作家ボリス・ヴィアンに憧れた青年時代を経て、60年代後半からメディアの交流をテーマに音楽、映画、アート、ステージなど幅広いジャンルを手がける。近著にSUGIZO、TAKUROとの対談集『CONVERSATION PIECE ロックン・ロールを巡る10の対話』(PARCO出版)、『I Stand Alone』(青幻舎)。

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