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Base Ball Bear 小出祐介が考える、コロナ以降の音楽シーンの変化 仮想ライブ企画で感じた“表現の可能性”

リアルサウンド

20/6/29(月) 12:00

 緊急事態宣言が解除され、少しずつ日常が戻りつつあるように見える。しかし、音楽業界の状況は未だに厳しい。6月13日にはライブ開催におけるガイドラインが発表されたものの、実際にライブを行うことが困難な状況は続いていきそうだ。そんななか、新たなライブのあり方を考えているアーティストも多い。なかでもBase Ball Bearが、5月21日より開催した仮想ライブ企画『LIVE IN LIVE~IN YOUR HOME~』は印象的だった。同ライブでは、メンバーそれぞれが自宅で録音、小出祐介(Vo/Gt)がミックスを行なったパフォーマンス映像を配信しており、さらにはライブグッズも販売している。コロナ禍において様々なライブ配信が行われているなかでも、このような企画は斬新に感じられた。

(関連:Base Ball Bear – LIVE IN LIVE~IN YOUR HOME~ M5「どうしよう」

 リアルサウンドでは、Base Ball Bear 小出にメールインタビューを行う機会を得た。現在の音楽シーンに対して感じていることやポップカルチャーの存在意義、また、ライブ現場にこだわりがある小出が感じた仮想ライブの可能性についても答えてくれた。(編集部)

●新たなライブの形も見え始めている音楽シーンに対して
 これまで「ライブ配信」は、「ライブ現場」に対しての副次的なものとして位置づけている方が多かったと思います。

 自分たちを例にすると「ツアーファイナルの生配信」は、すでにライブを観た方やファンの方にはライブの追体験やファンサービス的な意味となり、まだライブを観たことがない、最近は行っていないという方には興味を持ってもらうチャンスとなります。「ライブ配信」はこの先につなげるために行うものであり、ゆえに、出し惜しみしたいものでもあるわけです。「いつでもネットで観れるじゃん」と思われてもいけないので、「ここ!」という場面で設定したいものだったんですね。

 ところが、コロナの影響でライブ現場に出られなくなってしまったため、自分たちの活動を見せる、メッセージを伝える、表現する場所をどこかに、というか、どこにも行けないのでネット上に設ける必要が出てきました。売上を立てなければいけない、純粋に何かを表現したい、など理由は様々かと思いますが、自宅からの生演奏やリモートセッション、商品化されているライブ映像を特別公開するなど、これまでやらなかったようなことをやっているアーティストの方が多かったですよね。

 ちなみに、動画のバトンが流行ったのも、人を元気づけたいという気持ちはありつつ、自分自身の「何かを表現する機会(理由)が欲しい」という、アーティストならではの気持ちにフィットしたのもあったのではないかと思っています。

 そんな段階を経て、最近は「ライブの有料配信」を行うアーティストも増えてきました。副次的なものではなく興行として、「現場としての『配信』」が行われるようになってきたということです。

 この意識は配信内容だけではなく、どう音楽をやるのかということにも影響を与えると思います。

 お客さんがいる現場でのライブと、“画面の向こうにお客さんがいる”配信ライブでは、セットリストの組み立て、サウンドメイクはもちろん、盛り上げ方も変わってくるでしょう。配信用のメソッドの構築が必要になってくるわけです。今後もし配信ライブがライブ様式として広まったとしたら、それを念頭においた楽曲制作をするアーティストが出てくるかもしれません。夏のイベントが中止になり、年内のライブ開催にも雲がかかってきたなかで、配信でのやり方・在り方を多くのアーティストが模索していくんじゃないかと思います。

 また、これはそれこそ「コロナ以降」という価値観において、どのようにライブが、音楽があればいいのかを考えることにつながってきます。

 音楽文化のパラダイムシフトとなる可能性も大きいのではないでしょうか。

●コロナ禍で改めて感じたポップカルチャーの存在意義
 スティーブン・キングが「もしアーティストが不要だと思うなら、自宅にいる間、音楽、本、詩、映画、絵画無しで過ごしなさい」とツイートしていましたよね。「まじでそれな」と思いました(笑)。

 Netflixでドラマやアニメや映画を観るのも、無料公開されていた漫画を読むのも、『あつまれ どうぶつの森』も無し。かなり辛いのではないでしょうか。

 東日本大震災の時に僕は「音楽は必要ないのかも」とかなり悩みました。もちろん、それどころじゃない局面があるとは思います。でも、いまは胸を張って「文化芸術はまじで必要」と言えます。

 10代の頃、音楽があったからどうにか生きてこられたように、映画や小説にたくさんのビジョンを与えてもらったように、漫画で夢を見たり恋に憧れたように、すべての文化芸術はこれまでもこれからも人の心の灯火です。苦しいときほど、心を照らしてくれるものです。

 人命は大切です。生活も経済も大事です。ただ、それは文化芸術を置き去りにしていいという理由にはならないはずです。コロナ禍を、すべての生命も文化芸術もまるっと乗り越えることを目指し努めるべきだと思っています。

●『LIVE IN LIVE~IN YOUR HOME~』について
 少し前まで配信でライブを行うということに意味を見出せていませんでしたが、いまはこれはこれでどう楽しむか、ここで何をどう表現していくかを考えています。

 今回の企画のこだわりのようなルールとしては、「あえて完全生演奏にはしていない」ということがあります。Zoomでセッションもできる(?)ようですが、メンバーが各々自宅にいることと、機材がフルセットでは使えないことを縛りとして楽しんだ方が面白そうだと思いました。

 なので、DAW(PCで音楽制作するためのソフトウェア)上で、“アコースティックアレンジ”ではなく、バンドのライブアレンジとして詰めながら録音(と自力でのMix)をし、あとから映像を撮影(編集はプロの方に)、という方法をとっています。

 こうすることで、スタジオ作品ほどかっちりしてはいないけれど、ライブ生演奏ほどラフでもないという、中間点のような音源が作ることができます。

 僕らは楽曲制作もこれに近いスタイルでやってきましたが、ただ、こうして作った音源を世に出せるほどアリだとは思っていなかったので、この変化だけでも結構大きなことだと思っています。

 また、セットリスト仕立てにすることだったり、MCをしてみたり、物販を作ったり、「みなさんのお家をめぐるツアー」みたいなキャッチコピーなどで空気を作ることは意識していまして。

 それによって、観てくれているみなさんがだいぶ乗ってきてくれたんじゃないかと思っています。「次は何をやるんだろう?」とか、先の展開の予想や考察をしてくれるのも嬉しいですよね。

 YouTubeのコメントも「こういう風にライブを観ている」と捉えると、途端にライブ感が出てきますし、あと単純にこちらもだいぶ制作に追われているので、そういう仮想ライブ感もありまして(笑)。同じ“長い”時間の共有は出来ているんじゃないかと思います。

●リモートとライブ現場との違い
 難しくもあり、この縛りがあるから開き直ってやれるというのは、いちばんに電子ドラムの音色ですね。

 ドラムがどんな音であるかが全体のサウンドを決める上での要なんですが、DAW上でドラムの音色を決めるとなると、まずここにかなり時間がかかります。いくらでもやれてしまう部分なので。

 ただ、堀之内さん(堀之内大介/Dr)の使っているプラグインを僕が持っていないので、技術的にそれが出来ないんですね。買えよって話なんですけど(笑)。なので、ドラム音色はすべて堀之内さんに全部作ってもらい、データも2Mixでもらってしまっています(もちろん最初の音決めは細かくやりとりしましたが)。

 ということは、僕の元には、出来上がったドラムの音と堀之内さんのOKテイクしかないので、ドラムについて僕ができるのはコンプとEQ(イコライザー)くらいしかないんですね。スネアとかキックとかそれぞれの音量調節もできないんです。何ならドラムにはやんわり空間の響きもくっついていますが、そのパラメータも触れない。その上で、ベースとギターと歌をどう乗せていくか、最終的な音像を作るかという勝負をしています。でも、ドラムの音決めが上手く行ったのかずっといい感じなんですよね。よかったよかった。

 逆に通常のレコーディングとも違うのは、様々な補正ができないという点です。自分にそういう技術もソフトもないので(笑)。自力でいいテイクを録るしかないという、最終的にアナログなことをしています。

 現場でのライブと違うことは、当たり前ですが目の前にお客さんがいないことと、他のメンバーも楽器もそこにないことです。僕らは普段イヤモニを使わないバンドなので(良い悪いの話ではないです)、その空間でどんな風に音が鳴っているか、お客さんがどんな風に聴いてくれているかを感じたり読んだりしながら演奏しています。それがない時点で全く別物であるというのは確かです。

●今後のリモートライブの可能性
 “自分たちの中で”という話であるのと、これを書いている段階ではまだ6曲目の作業をしているところというのを踏まえてですが、過去の曲をしっかりリアレンジすることができるのは大きなメリットだと思います。

 例えばリハーサルスタジオでライブアレンジをする場合、その場で録った音源を確認したりはしますが、ある程度決まったところで「あとはその場でだな」みたいになることが多いので、実は曖昧な部分もあったりするんですね。

 その点、今回はまずアレンジを確定させるので、時間はかかるし作業のカロリーは高いですが、今後のライブにおける確実な持ち曲を増やせます。

 また、通常のライブだと、全体の感想は聞けても曲単位ではわからなかったりするので、曲単位の感想を知ることができるのは参考になります。

 今後としては、現場でのライブと仮想ライブとで、相互関係が作れると面白いかもしれませんよね。仮想ライブでのアレンジを、現場で披露したら「あ、あれだ!」となってくれそうな気がします。

 ゲストを呼んだりしてもいいのかもしれません。……めちゃくちゃ大変そうですが(笑)。

(北村奈都樹)

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