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悠木碧、竹達彩奈、高橋李依……声優たちの”朗読”を通して実感する多彩な表現方法の数々

リアルサウンド

20/4/29(水) 6:00

 新型コロナウイルスの影響で外出自粛を余儀なくされる状況が続く中、声優界では本の朗読を録音して配信する動きが広がっている。経緯などについてはこちらの記事(リアルサウンドテック:自宅で頑張るあなたへ――声優・悠木碧から広まった、やさしい朗読の輪)を参照のこと。

(関連:悠木碧、堀江由衣……“声優として歌を唄う”強みを生かした2作品に注目

 本稿では、これらの朗読コンテンツを通して、改めて声優というプロフェッショナルが生み出すものの素晴らしさを再確認してみたい。

■悠木碧が見せた演じ分けの巧みさ

 まずは、ハッシュタグ「#せいゆうろうどくかい」の発起人である悠木碧の投稿作を味わい尽くしていこう。

 悠木は、傾向としてはハイティーン以下程度の少女役を演じる機会が多い役者である。しかし一口に“少女”といってもタイプはさまざまで、内向的で気弱な少女、カリスマ性のある強気な少女、ミステリアスなサイコパス、常軌を逸した能天気な女子高生など、かなり幅広い役柄を違和感なく演じ分けてきた。予備知識なしに作品を鑑賞していて「このキャラの声、悠木碧だったの!?」と驚かされた経験が誰しも一度はあるだろう。

 ときには少年や架空の生物など少女以外の役を務めることもあるが、その都度「むしろ悠木碧の真骨頂はこちらなのではないか」といった声も上がるほどに高い対応能力を発揮している。そんな彼女にとって、1人で複数の役柄をこなす必要のある“読み聞かせ”というジャンルは、自らの特徴を最大限に生かせる分野と言ってもあながち過言ではなかろう。

 声色の変化については言うまでもないが、とくに注目すべきポイントは“タイム感”だ。人間が100人いれば100通りの固有テンポがあるのと同じように、演じるキャラクターによって話すスピードやリズム感、呼吸の深さおよびタイミングなどの“正解”は違ってくる。これらを総合的にコントロールすることで別人格を演じ分ける妙味は、1人2役(以上)という演技スタイルで味わうのが一番わかりやすい。

 最初に公開された朗読『手袋を買いに』にて、悠木はナレーション、狐の子、狐の母親などを巧みに演じ分けている。

 地の文を読み上げるナレーションは比較的ナチュラルなテイストで、おおむね地声ではあるが、やや実音を抑えたウィスパー寄りの発声。ゆったりしたテンポを一定にキープすることでオーセンティックかつ落ち着いたムードを作り出す一方、適度な抑揚を明確に付けるなど単調にならない工夫も抜かりない。

 狐の子を演じる際は輪郭を強調した声色を高めの音域で使い、タイム感をあえて不ぞろいにすることでたどたどしさを、舌っ足らずな発音で幼さを表現。母狐のセリフでは、やや中低音にエッジを効かせて年齢感を上げ、早口気味によどみなく言いきるテンポ感で芯の強さや聡明さを演出している。

 ほかにも、『LE PETIT PRINCE①』では、TVアニメ『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』で演じた主人公・キノを彷彿とさせる落ち着いたトーンの少年ボイスを披露している。さらに幼い少年をあどけなく演じるシーンも含まれており、貴重な少年役を存分に楽しめるという意味でもファン必聴の1本だ。

 この『LE PETIT PRINCE』は、悠木と同い年で親交の深い声優仲間の寿美菜子、早見沙織との3人リレー形式で制作されるとのこと。本稿執筆時点ではイギリス在住の寿が朗読を務めた2本目がすでに公開されている。

■際立った特徴を持つ竹達彩奈の存在感

 悠木が提唱した「#せいゆうろうどくかい」には、多くの声優が共鳴。それぞれのやり方で朗読の公開に踏み切る者が後を絶たない。

 トピックとして押さえておきたいのは、まずpetit miladyとして悠木と長年苦楽を共にしてきた盟友・竹達彩奈の参加だろう。悠木の最初のツイートにいち早く同調していた竹達は、夫・梶裕貴の朗読動画『星の王子さま 前編』にゲスト参加。複数の声優を集めて同時収録を行うことが極めて困難な情勢の中、ノーリスクでトップ声優を2人そろえられるというのは非常に珍しいケースだ。

 声優としての竹達は、どちらかというと際立った特徴を持つベースの声を極力生かしてニュアンスで変化を付けていくタイプで、変幻自在に声色を操る悠木とは対照的なスタイル。どの役を演じていても一瞬で「竹達彩奈だ!」と判別できる声質そのものが最大の武器となっており、そういう意味では野沢雅子や神谷明といったレジェンド声優たちに近いポジションを確立しつつあるとも言える。この朗読の中でも明確に違う役柄を演じ分けてはいるが、どの声も圧倒的に竹達彩奈でしかない。

 ちなみにシンガー活動においてもその特性は遺憾なく発揮されており、たとえば前述のpetit miladyにおいては、竹達のボーカルにエッジが効きすぎているせいか、ユニゾンパートでは悠木の声が後ろにあるように聴こえることが往々にしてあったほど。そんなクセの強さが彼女の最大の魅力だ。

■さまざまな声優たちのさまざまな試み

 竹達同様、いち早く悠木にリアクションを返していた高橋李依は、『気絶人形』の朗読を当該ツイートの翌日にアップするというスピード対応を見せた。高橋は現在放送中のアニメ『かくしごと』のヒロイン・後藤姫や『LISTENERS リスナーズ』のヒロイン・ミュウなど、話題作の主役級を次々に務めている若手実力派の急先鋒的存在。そんな勢いある役者だけに、今回の朗読は「演じることが楽しくて仕方ない」と言わんばかりの喜びが音声ファイルの至るところから湧き出てしまって収集がつかなくなるほど、瑞々しい作品に仕上がっている。

 変わったところでは、佐藤聡美が夫・寺島拓篤の呼びかけに応じて劇団員を含む総勢4名で「よむよむ倶楽部」と銘打った本読み活動を開始。一連の自主制作朗読には珍しく、リモート作業によって多人数での芝居が実現している。『ご注文はうさぎですか?』シリーズの宇治松千夜や『アイドリッシュセブン』シリーズの小鳥遊紡などに代表される柔らかな癒し系ボイスの印象が強い佐藤だが、YouTubeにて公開された『またのきかいのおまじない』では少年役を熱演。普段の抜いた発声とは一線を画すエッジィな声色で快活さを表現しており、ある意味では『けいおん!』シリーズの田井中律に近いイメージの芝居を楽しむことができる。「可憐な女の子役もいいけど、しゅがぁさんはやっぱりこっちだよね」というファンも決して少なくないはずだ。

 また、「#せいゆうろうどくかい」とは直接関係ないところでも似たような動きはある。たとえば、雨宮天による「そらのはるやすみ」企画は、雨宮本人が期間限定で毎日絵日記を綴り、それを幼女ボイスで読み上げるという試み。声優としてのスキルのみならず、独特の画風や書き文字の美しさといった彼女ならではの特徴を生かした好企画だ。一連の「#せいゆうろうどくかい」コンテンツよりも内容的・ボリューム的に軽めである反面、毎日必ず新作が更新されるという本企画ならではの喜びが味わえる。企画の終了時期はアナウンスされていないが、少なくとも緊急事態宣言が解除されるまでは続くものと思われる。

■才能が発揮された小岩井ことりによる「神の魔法」

 こうした動きの中で、ひときわ異彩を放つ活躍を見せているのが小岩井ことりだ。悠木の思いつきツイートに対していち早く反応した彼女は、恐るべきスピードで汎用性の高いBGMを制作。誰でも気軽に使えるようフリー素材として公開した。当該ツイートからわずか12時間後のことだった。

 ゆったりとしたピアノのリフレインを主体としたインストゥルメンタルで、ドリーミーなシンセやパーカッション類が控えめに彩りを添えるアレンジ。坂本龍一や久石譲らを彷彿とさせるテイストを備えた、単体で聴いても作業BGMなどとして十分に機能しうるハイクオリティな楽曲となっている。前述の悠木や高橋のほか、日高のり子らベテラン勢もこれをBGMに採用した。

 いざ自宅で朗読を録音しようと思っても、専門的な録音機材などを所有していない声優がほとんどだろう。スマホ等などで生活ノイズにまみれた音声を録音して公開したとしてもファンは喜ぶだろうが、このBGMを重ねるだけでもその問題は大きく改善する。もちろんそれだけでなく、朗読作品のクオリティを格段にアップする一助としても有効に機能している。

 特筆すべきはそのサウンドプロダクションだ。朗読のBGMを目的に作られているため、人間の声の帯域をなるべく邪魔しないような音色選びやイコライジングがなされ、目立つ音色がセンター付近で鳴らないよう定位にもきっちり気が配られている。声優が作る音源ならではの配慮に満ちた、小岩井の人間性までもがうかがい知れる作品であると言える。

 ご存じの通り、小岩井は声優業のかたわらミュージシャンとしても精力的に活動している。Dual Alter Worldとしてのユニット活動にも顕著なように、DTMによる楽曲制作を得意としている点が一般的な声優アーティストと決定的に違うところだ。今回のことは、そんな彼女の特殊な才能が存分に発揮された好事例であったと言えるだろう。悠木はこれを「神の魔法」と呼んだ。(ナカニシキュウ)

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