Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

綾野剛の“走り姿”が『MIU404』もたらすもの 身体で表現する物語の大きな展開

リアルサウンド

20/8/31(月) 8:00

 綾野剛の疾走する姿が印象的な『MIU404』(TBS系)。これが本作における、見どころの一つともなっている。ひょっとすると彼に影響を受けて、路上に飛び出している方もいたりするのではないだろうか。それほどまでに彼の“走り姿”は、強い影響力を持っているように思えてならないのだ。

 “空前のマラソンブーム”が巻き起こってから久しい。ところがこの環境下、いままた小さなブームを迎えているように思う。緊急事態宣言が発令された4月、私たちは自宅にて極力外出を控える生活を余儀なくされたわけだが、それでも、生活必需品や食料の買い出し、健康維持のための運動など、最低限の外出は許されていた。そこで増えたのが、“市民ランナー”である(もちろん、地域差はあるだろう)。日頃からジョギングが日課の筆者は、日を追うごとに増えていくランナーの数を肌で感じた。宣言解除以降の現在は減ったように思うが、それでも、平時のときと比べると多いように思う。その走るフォームや身につけているウェアを見れば、ベテランなのか新人かどうかは一目瞭然だ。運動不足の人にとってジョギングこそ、やはり一番身近で挑戦しやすいスポーツなのだろう。動きやすい服とシューズさえあればいいのだ。

 そんななか、放送延期の末に6月26日より満を持してスタートした『MIU404』。本作で綾野が演じる伊吹藍の衣装には驚いた。彼は刑事でありながら、身につけているのはスウェット素材などのものばかり。そのうえ足元には、かの有名な「ズームX ヴェイパーフライ ネクスト%」が光っている。今年の箱根駅伝では出場選手のほとんどが着用していたという、ナイキの厚底ランニングシューズだ。これを履いて登場してきた伊吹に対し、「あ、この人ホンモノだ……」と思ったものである。

 その理由はもちろん、このシューズを履く者の大多数が一流のランナーだからだ。なにせこのシューズは「ナイキ史上最速シューズ」ともいわれ、一時は「大会での着用禁止」との声が上がり、騒動になったくらいである。聞けばこの伊吹という男、「足が速い」人物だというではないか。本作『MIU404』が“刑事モノ”であること以外の事前情報なしに視聴し始めたが、これには俄然テンションが上ってきたものだ。

 問題は、伊吹がこのシューズを履くほどの価値があるかどうかということである。ただ足が速い人が履くものではないというのはこれまで記してきたとおりだ。そこで注目してほしいのが、伊吹の“走り姿”なのである。演じる綾野本人のパーソナリティに詳しい方ならば、彼がこれを履くに値する人物だとうなずけるものだろう。

 綾野はこれまでにも、多くの作品で素晴らしい“走り姿”を披露してきた。『るろうに剣心』(2012年)や『亜人』(2017年)での彼の俊敏性、高い身体能力は広く知られているところだが、『奈緒子』(2008年)では実際にエリートランナーに扮している。今作『MIU404』を観ていても感じるのは、やはり彼の疾走時のフォームの美しさだ。というのも、綾野は元陸上選手。もちろん過去の話ではあるが、そのポテンシャルをいまだ維持しているのがさすがはプロフェッショナルである。職業は俳優でありながらも、いまだ“現役”なのだ。


 それに、多くのフィクション作品で何者かが“走りだす瞬間”というのは、イコール“物語が大きく動き出す瞬間”でもある。今作であれば『MIU404』は刑事モノなので、伊吹の全力疾走は、犯人との対峙という劇的瞬間に見られることだろう。つまり物語の劇的な展開と、綾野の“走り姿”が連動しているのである。これは脚本上における物語の大きな展開を、身体で表現しているものともいえるだろう。

 さらには、チーム戦を描いた本作において、伊吹が走るとみなの士気が上がるのも面白い。彼が走るということは、こういった効能をも持っているのだ。第10話では、伊吹が走ることがなかった。いよいよ最終回となるが、果たしてどのような走りでゴールを切るのか。心して見届けたい。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子、黒川智花
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS

新着エッセイ

新着クリエイター人生

水先案内

アプリで読む