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けいおん!、ハルヒ、ユーフォニアム……京都アニメーションの“音”へのこだわり

リアルサウンド

18/10/21(日) 10:00

 いきなり私事で恐縮だが、筆者は毎年秋になると首都圏各地の高校の文化祭に出向き、軽音楽部のステージを観覧。そこでコピーされる楽曲のセットリストを作る、半ば道楽、半ば仕事みたいなことをやっている。この作業をしていると当然ながら若い子たちの好きな音楽の傾向が見えてくる。例えばここ1~2年はWANIMAとSHISHAMOの『NHK紅白歌合戦』組に加えて、夜の本気ダンス、ヤバイTシャツ屋さん、My Hair is Bad、ポルカドットスティングレイあたりが人気だな、といった具合に。そして2010年代に入って以来、常に高校生バンドマンに愛され続けている1曲があることにも気付かされる。それが桜高軽音部「Don’t say “lazy”」だ。

(関連:fhánaが初の京アニ作品主題歌で“踊った”理由「ダンス・ミュージックには主役がいない」

■ある種のDJ的・選曲家的とも言える京アニ制作陣の音楽的センス
 今さら説明不要だろうが、この曲は2009年のテレビアニメ『けいおん!』のエンディングテーマ。劇中軽音部バンドの所属メンバーを演じる声優陣で結成されたユニット・桜高軽音部(のちに放課後ティータイムと改名)が歌っており、リリース当時、オリコン週間シングルランキングで2位を記録した。その人気は“リアル軽音部”にも波及し、アニメ人気がピークを迎えた『映画けいおん!』上映直前の2011年秋には各校軽音部において「Don’t say “lazy”」は圧倒的な人気を誇り、またアニメ本放送から10年近く経った今もなお、文化祭が初舞台なのだろう1年生部員たちがコピーする入門編的1曲として愛されている。

 この桜高軽音部・放課後ティータイムのヒットの影には当然ながら『けいおん!』人気、ひいてはアニメを制作した京都アニメーション(京アニ)の実力がある。ここで指す“実力”とは女子高生たちのなんともノンキな日常を緻密に描いたその映像制作集団としての能力はもちろんのこと、ある種のDJ的・選曲家的とも言える京アニ制作陣の音楽的センスの良さも含まれる。事実『けいおん!』においてアニメ制作陣はオープニングテーマは劇中におけるリアルタイムの軽音部員たちがいかにも撮影しそうな映像処理を施し、エンディングテーマはもしも桜高軽音部・放課後ティータイムがメジャーデビューしたら制作されそうなPVのイメージと、その映像の巧拙のグラデーションをつけていたという。

■その後のアニソンの方向性を決定づけた革命的な1曲
 京アニの音楽へのこだわりはなにも『けいおん!』に始まった話ではない。これこそ読者にとっては言われるまでもことだろうが、2006年放映の『涼宮ハルヒの憂鬱』第26話「ライブアライブ」でも“音楽家”京都アニメーションの実力を見せつけている。さるトラブルに見舞われた軽音部に代わって、ひょんなことから文化祭のステージに上がることになった天才たる涼宮ハルヒと、宇宙の大意志的なサムシングと直接アクセスできる長門有希が原作小説曰く「マーク・ノップラーかブライアン・メイかと思うようなギターテクニックで超絶技巧」を自らにインストールした上で披露しており、その様子(つまりはギター運指)をさすがの作画力で見事にビジュアル的に再現してみせて、アニメファンだけでなく音楽ファンの度肝を抜いた。またさらに『~ハルヒ』のエンディングテーマ「ハレ晴れユカイ」や、次回作にして2007年放映の『らき☆すた』のオープニングテーマ「もってけ!セーラーふく」では、それら楽曲に乗せてリアリティあふれるアイドルダンスをアニメーションにおいて表現。それがウケ、YouTubeやニコニコ動画上にはアニメのダンスをマネた“踊ってみた”動画があふれかえった。ここにも優れた楽曲の魅力をこれまた優れた映像表現で倍加してみせる“音楽家”京アニの実力が表出しているのだ。また「もってけ!セーラーふく」においては、バッキバキのスラップベースと、マッシュアップのさらに上をいく、ジャンルのごった煮的サウンドで、その後のアニソンの方向性を決定づけたという点でも革命的な1曲だとも言える。

■物語と共に演奏の技量が増していく演出の妙
 そして“音楽家”京アニの実力が極まったのが2015年のテレビアニメ『響け!ユーフォニアム』だろう。ここで京アニが試みた音楽表現の中でも白眉なのが、“ドヘタクソ”なプレイ。物語はヒロインである黄前久美子が舞台たる北宇治高校の吹奏楽部に入部し、優れた指導者の指導と部員のたゆまぬ努力のもと成長する様子を、ある種異様なまでに丁寧に追いかけるものではあり、その最初期、つまり久美子が高校入学時に新入生歓迎演奏をしている吹奏楽部の様子を観る映像がインサートされるのだが、この演奏が、驚くほどヘタクソなのである。当然のことながら、アニメーションの音楽はその道のプロフェッショナル、腕っこきのプレイヤーが演奏している。にもかかわらず、アニメ第1話、久美子入部前の吹奏楽部はぶっちゃけど素人みたいな演奏しかしていない。つまり、京アニの演出家は名うてのプレイヤー陣に「物語上必要なのでヘタクソにプレイしてください」とオーダーし、プレイヤー陣も見事その要望に応えて、ド素人みたいなプレイをしてみせているわけだ。

 これは『けいおん!』最初期でも見られる演出だ。メインヒロイン・平沢唯はギブソンのギター・レスポールという超名品をひょんなことから手にしつつも、どうしようもない音しか鳴らせないシークエンスが挿入されている。しかし唯は、その数話後にはなんのエクスキューズもなく、あっさりとテクニカルなプレイを見せつけている。その点『響け!ユーフォニアム』ではドヘタクソな吹奏楽部が久美子の入部と瀧昇の顧問就任によって、徐々に部の演奏がレベルアップし、最終的には吹奏楽部のコンクールの全国大会に進出するまでを描いている。要は腕っこきのミュージシャン陣が、あえてだんだん上手くなる吹奏楽部的なプレイを再現してみせているわけだ。ミュージシャン陣はもちろん、その演出をつけた京アニスタッフも評価されるべきだろう。そしてこの意匠は2018年公開のスピンオフ映画『リズと青い鳥』にも引き継がれている。こちらは北宇治高校吹奏楽部所属のでオーボエ担当・鎧塚みぞれとフルート担当・傘木希美が合奏を完成させる姿を追う物語だが、その友情を育む様子とそれと並行するようにオーボエ&フルートのアンサンブルの完成度が上がっていくという巧みな演出を施している。

■新作アニメ『ツルネ -風舞高校弓道部-』の「弦音」の演出への期待
 10月21日24時10分より、京アニの新作アニメ『ツルネ -風舞高校弓道部-』がNHK総合で放送される。ここまで音楽を中心とした作品について語ってきたが、本作は音楽劇ではない。弓道に打ち込む男の子たちの横顔を追ったライトノベル・ヤングアダルト小説が原作ではあるが、そこは京アニブランド。「弦音(つるね)」とは、矢が弓を跳ねる瞬間の音を指す言葉。その音が鳴る原理は弦楽器と変わらないので、弓を射る人により音もそれぞれ変わるという。姿勢、引く強さ、角度、さまざまな条件により音は弾くたびに変わる。そして、それは射る者の心の機微にも左右されるかもしれない。『ツルネ -風舞高校弓道部-』は、その音使いに耳を傾けてもきっと面白いはずだ。本作のOPを務めるのはラックライフの「Naru」。胸の深くまで矢を放ってくる様な、メッセージ性の強いロックチューンは、5人の主要キャラの心の葛藤をそのまま表現したかのようだ。

 対してEDのChouChoの「オレンジ色」は、青春の日々を振り返るような、ノスタルジーに満ちたバラードになっている。笑った日も泣いた日も、夕日のオレンジ色が帰り道を染めていく。どんな人にもあるオレンジ色の思い出の風景を、自身も弓道部だったというChouchoが歌うことで、より『ツルネ -風舞高校弓道部-』の世界を深めてくれそうだ。(成松哲)

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