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ジョージア州の中絶規制法で揺れる米エンタメ界 撤退表明後の各社の取り組みと経済的課題とは?

リアルサウンド

19/8/9(金) 8:00

 今、アメリカではジョージア州を巡って、映画/TV界と政界で大きな争いが勃発している。これは米共和党の中でも、超保守派として世間から知られているジョージア州のブライアン・ケンプ現知事が、妊娠中絶を厳しく制限する人工妊娠中絶規制法案に署名したことで、ジョージア州で撮影を行ってきた映画・テレビ業界の大手各社が、この州法が施行されれば、同州でのロケ実施を見直すと相次いで表明したからだ。

 その今年の5月7日に成立した法案というのが、ジョージア州では胎児の心音が確認できる段階に入った後の中絶を禁じる「ハートビート法案」だ。つまり、胎児のハートビート(心音)が確認された妊娠の6週目をめどに、中絶を禁止するという法案で、この時点では妊娠に気づかない女性も多いと思われる中で、女性にとって、あまりにもひどい法案が可決されたからだ。ちなみに、これよりもっと厳しいのはアラバマ州で、こちらは妊娠のどの段階でも人工中絶を禁止、性的暴行や近親相姦による妊娠でも例外と認めない法案を可決。中絶手術をした医師には、最長で99年の禁固刑を命じる厳しい法案を州知事が署名してる。

 そしてこの女性の権利を無視した人工妊娠中絶規制法が成立したことを受け、米メディアや映画界の大手、Netflix、ウォルト・ディズニー、ワーナー・メディア、NBCユニバーサル、ソニー・ピクチャーズは、新法が施行されれば同州では今後、撮影を行わないことや、新たにロケ地を見直す検討をすると表明したのだ。そして、この新法が施行されるのが2020年の1月1日。

 今回、なぜこれほどまでにジョージア州に注目が集まるかと言うと、多くの映画・TV番組が製作されているからで、そのロケ地の数は、ロサンゼルス、ニューヨークに次いで全米3位。しかも、最大30%の税額控除を認めていて、昨年だけで約9万2100人を雇用し、46億ドル(約4900億円)の賃金をもたらしたからだ。つまり、映画やTV業界がジョージア州から撤退することになると、ジョージア州は大打撃を受けることなるのだ。

 そして、その映画/TV界と政界の対立の大きなきっかけを作ったのが、1973年に女性が人工妊娠中絶手術を受ける権利が連邦法として認められた「ロー対ウェイド裁判」だ。中絶に反対する保守派(共和党議員)はこの法律を覆し、米国内で中絶手術禁止を認めさせる方向へ持ち込もうとしており、これを中絶反対派(プロ・ライフ)と呼ぶ。一方、女性の中絶の権利を擁護し、この法律を支持しているのが、ハリウッドのTV/映画業界で、これを中絶権利擁護派(プロ・チョイス)と呼ぶ。

 まず、プロ・チョイスを支持する人のコメントは、日々、米メディアでも取り上げられることが多く、その中でも最初に立ち上がったのが、#MeTooムーブメントを最初に起こした女優アリッサ・ミラノ。彼女は、施行されれば同州での撮影には参加しないとの見解を示した。これによって多くの女性セレブが次々に、この法案にコメントを残すようになった。

 その一方で、プロ・ライフ派の主張は、胎児の命の価値、あるいは政府はすべての人命を保護する義務があると考えたり、さらにカトリック教の倫理による妊娠中絶の禁止など道徳的な立場から主張しているコメントが多いようだ。

 このように、数多くのハリウッドのTV/映画会社、そしてハリウッドセレブまでがこの法案に反対している。一方で、ジョージア州に対して背を向けることで、各社、そしてジョージア州にとっても経済的な問題が発生することをふまえると、そう簡単に撤退することもできないのが実情だ。

 Netflixの人気番組『ストレンジャー・シングス 未知の世界』や『オザークへようこそ』は、これまでほぼ全てジョージア州で手がけてきた。AMCが手がけ、日本ではFOXムービーで放送されている『ウォーキング・デッド』も大部分がジョージア州だった。さらに映画では、『アベンジャーズ』シリーズ、『ブラックパンサー』など、マーベル作品の多くも、その一部をジョージア州で撮影してきている。しかも現在、20以上もTV/映画作品が、法案可決後も撮影中なのだ。その撮影中の作品の中には、クリント・イーストウッド監督作『The Ballad of Richard Jewell』(原題)、ヴェラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン主演の映画『死霊館』シリーズ第3弾、ジェラルド・バトラー主演の『Greenland』(原題)、ジョーダン・ピール監督とJ・J・エイブラムス監督が組んだ『Lovecraft Country』(原題)などが撮影されている。つまり、ハリウッド側でも「ハートビート法案」に表向きは反対しながらも、ジョージアで撮影しなければいけない、それぞれの事情があるようだ。

 だが、その一方で、人気ドラマ『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』のリード・モラーノが監督を務めるアマゾン・スタジオの新ドラマ『The Power』(原題)は、同州でロケーション・スカウトをしていたスタッフを呼び戻し、新たに撮影地を探す決定を下している。さらに、ジョージア州で撮影しながらも、新たな道を切り開こうとしているのが、ジョーダン・ピール監督とJ・J・エイブラムス監督で、彼の新作『Lovecraft Country』は、上記に挙げた通りジョージア州で撮影されているが、彼ら二人の監督はもしこの法案が施行され、撮影地を他の州に移したならば、自分たちが受け取った報酬の一部を、アメリカ自由人権協会や中絶権擁護諸団体に寄付することを表明した。

 このように、ハリウッドではそれぞれの事情で異なった対応が取られているが、現在、ハリウッドの多くの会社やセレブは、アメリカ自由人権協会(ACLU)と組んで、法案の撤回に向けて裁判所で争う姿勢を表明している。今のところ、2020の1月に施行されるまで数カ月あり、さらに施行される前に、州裁判所、または連邦裁判所での司法審査の対象になり、裁判所は、司法審査期間中には、施行を遅らせることや、違法であると判明した場合は、最終的に法律を覆すことができることになっている。今後も、州裁判所、または連邦裁判所の対応や、ハリウッド業界の人々の動きにますます注目が集まりそうだ。(文=細木信宏)

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