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中森明菜がカバー曲で聴かせる“名演” 最新作『Belie』を栗本斉が聴く

リアルサウンド

16/12/28(水) 17:00

 今のアイドル・ブームにおいて、彼女のような存在はいるのだろうか? そんなことをつい考えてしまうほど、中森明菜はとても特別な存在だった。彼女がデビューした1982年は、いわゆるアイドル黄金期だ。小泉今日子、早見優、石川秀美、原田知世などが続々と登場し、テレビも映画もCMも歌番組もすべてがアイドルづくし。そのなかでも、一足先にデビューしていた松田聖子は別格の存在で、いわゆるかわいくて明るい典型的なアイドルの代名詞。その一方で、どこか影のある中森明菜の存在も大きく、陰と陽のように人気を二分していたというイメージだ。「少女A」、「禁区」、「北ウイング」、そして「飾りじゃないのよ涙は」といった初期の名曲群には、その“陰”の魅力が目一杯詰め込まれている。

 成長していくにつれ、彼女はセルフ・プロデュースによってアルバム制作に取り組み、徐々にアイドルから脱皮。アーティスティックなイメージを身にまとうようになる。そして、シンガーとしての評価を決定付けたのが、1994年に発表されたアルバム『歌姫』だ。本作では往年の歌謡曲の名曲をカバーし、その歌唱力によって高く評価された。そして本作をきっかけに、カバーが中森明菜のライフワークのひとつとなっていく。

 先日リリースされたアルバム『Belie』は、10枚近く発表してきたカバー・アルバムの最新作である。ここしばらくは活動休止などもあって安定していない印象があったが、2014年末から本格的に活動再開。精力的にリリースを行っている。とくに、2015年末に発表された5年ぶりのオリジナル・アルバム『FIXER』はEDMを取り入れるなど果敢な試みが垣間見られる野心作だった。

 しかし、そのイメージで新作カバー・アルバム『Belie』を聴くと、ちょっと予想を裏切られるかもしれない。というのも、てっきり『FIXER』の先鋭性をそのまま今作にも持ち込むかと思っていたら、スタンダードならではの気品に満ちたアルバムになっているからだ。その大きな要因として、どこかジャジーな雰囲気のバックトラックが挙げられる。実際には半数が打ち込みではあるが、アコースティック編成の生楽器が主役。シンガー・ソングライターとしても知られる木下航志がブルージーなピアノを弾いていたり、オルケスタ・デ・ラ・ルスや米米CLUBでの名演で知られるトランペット奏者の佐々木史郎がピリッとスパイスの効いたソロを聴かせてくれたりする。こういった本気度の高い演奏に呼応するかのように、中森明菜のボーカルもこれまでにないグルーヴを感じさせる。

 また、肝心の選曲も非常にツボをついている。冒頭に置かれたポルノグラフィティの「サウダージ」を聴けば、『Belie』が成功していることがよくわかるだろう。エモーショナルでエスニックな感覚は往年の明菜自身のヒット曲を思い起こさせるほどオリジナリティを感じさせ、その印象はエヴァンゲリオンでおなじみ「残酷な天使のテーゼ」や山口百恵の「謝肉祭」なども同様。いわば、これまでの明菜ファンにはストレートに響く楽曲といっていい。一方で、SHOW-YAの「限界LOVERS」におけるジャジーでスリリングな展開は、先述の通りスタンダード感を保ちつつ攻めていく感覚。シンガーとしての真骨頂といえる名演になっている。

 加えて、後半のバラード楽曲ではまた違うイメージを作り上げているのも面白い。薬師丸ひろ子の「ステキな恋の忘れ方」は得意のマイナー歌謡として完璧な仕上がりだし、山崎まさよしの「One more time, One more chance」におけるせつなさと深みは、本家を上回るほど。そして、ラストを飾る小田和正の名曲「たしかなこと」では、これまでにないほど慈しみに溢れた優しい明菜の歌が聴ける。いずれもカバーとはいえ、まるでオリジナルのように歌いこなしているのはさすがだ。

 今さら中森明菜の歌の上手さや表現力の凄さを語るのは野暮ではあるが、『Belie』を聴くと改めて彼女の実力に圧倒されてしまう。そして、これまで多数のカバー・アルバムを発表してきたが、そのなかでも屈指の出来栄え。もはや原曲と聴き比べすることがバカバカしいほどに、中森明菜にしか生み出せない作品となっている。もし、彼女に少しでもなんらかの先入観を持っている人がいたら、ぜひ気持ちを新たに聴いていただきたいアルバムだ。

■栗本 斉
旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。

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