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セルジオ・メンデス、SKY-HIやコモンらとのコラボレートを通して得た“音楽の喜び”を語る

リアルサウンド

19/12/30(月) 12:00

 ブラジル・リオデジャネイロ出身のポップマエストロ、セルジオ・メンデス。1960年代、ボサノバブームのさなか、アルバム『セルジオ・メンデス&ブラジル’66』と収録曲「マシュ・ケ・ナダ」がワールドワイドなヒットを記録して以降、プロデューサー/作曲家/キーボーディスト/ボーカリストとして世界の音楽シーンに多大な影響を与えてきた。そんなセルジオが5年半ぶりとなる新作『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』を11月にリリースした。オール新曲で構成された本作には、ジョアン・ドナートから日本のSKY-HIまで多数のゲストアーティストが参加しており、セルジオ本人も「これほど作曲に関わったことは初めて」というほどエネルギーを注ぎ込んだ意欲作に仕上がっている。今回プロモーション来日を機にを行ったインタビューでは、終始陽気に、しかしとても誠実にブラジル音楽のアイデンティティやコラボレートについて話してくれた姿がとても印象的だった。(編集部)

私は常にオープンマインドだから、いろんな人と一緒にコラボレートしたい

――ニューアルバム『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』は、とても元気をもらえるハッピーなアルバムですね。今回のコンセプトはなんですか。

セルジオ:どうもありがとう! コンセプトはタイトル通り“ジョイ”だよ。喜びを表現したアルバムなんだ。ブラジルに限らず世界中のリズムやメロディを取り入れているし、世代も国境も超えたミュージシャンたちとコラボレートしている。彼らは音楽の喜びを伝えられる才能を持っているから、常に“ジョイ”を意識して作ることができたよ。

――サウンド面でいうと、リズムがとても多様に感じました。やはりリズムにはこだわったのでしょうか。

セルジオ:もちろん。今作ではとにかくたくさんのパーカッションを使っている。だから、思わず身体を動かしたくなる要素が入っているんだ。“踊りたくなる音楽”というのが、もうひとつのコンセプトかもしれないね。踊ることは、人生においてもっとも大切なことのひとつだと思っているからね。

――ブラジルといえばリオデジャネイロのサンバのイメージですが、本作ではバイーアなどブラジルの他の地方のリズムも取り入れられていますね。

セルジオ:私が生まれ育った場所は、まさにリズムに溢れていたよ。ストリートでもビーチでも、私の人生が始まった時から、常にリオデジャネイロのサンバやバイーア特有のものなど、様々なブラジルのリズムに触れることができたんだ。

――アルバムには、カルリーニョス・ブラウン、エルメート・パスコアール、ジョアン・ドナート、ギンガといったブラジルのベテランアーティストが多数関わっています。これは彼らを世界に紹介したいという意識からでしょうか。

セルジオ:たしかに、再び彼らに注目してもらいという気持ちはある。でもそれ以前に彼らと私は音楽に対する考え方がとても似ているんだ。トラディショナルな音楽を作りたいわけではないし、あくまでも今現在において新しくてフレッシュな音楽を作るためのコラボレートなんだよ。

――そういったレジェンドたちとは別に、すごく若いアーティストもたくさん参加していますね。

セルジオ:「イン・ザ・キー・オブ・ジョイ」にフィーチャーしたロサンゼルス出身のラッパーのバディや、「サンバ・イン・ヘヴン」に参加してくれたシンガーのシュガー・ジョアンズなど、彼らはとても若くて才能がある。偶然彼らと知り合って、そこで自然に生まれる化学反応がとても楽しいんだ。

――いつも不思議に思うのですが、若いアーティストたちとはどうやって知り合うのですか。

セルジオ:きっと、私がとても好奇心が強いからだと思う。新しく、オリジナルでフレッシュなことはないかなって、いつも考えを巡らせているんだ。だから、偶然素敵なアーティストたちと出会えることがあるのかもしれない。

――カリ・イ・エル・ダンディーとの楽曲「ラ・ノーチェ・エンテーラ」も意外でした。ブラジル音楽とスペイン語圏のラテン音楽は似ているようでぜんぜん違うと思うのですが。

セルジオ:彼らはコロンビア出身の兄弟グループで、いわゆるレゲトンのアーティストだね。この曲はカルリーニョス・ブラウンが書いたのだけれど、レゲトンとブラジルのリズムを融合しているんだ。ビリンバウやブラジルのパーカッションを加えて、ブラジリアンなレゲトンに仕上げようと考えた。パーティータイムにぴったりだろう?

――「サボール・ド・リオ」でコモンを起用したことも、とても興味深いですね。

セルジオ:4、5年前にジョン・レジェンドの紹介で知り合ったんだ。彼の声もサウンドもすごく好きで、この曲を書いた時に彼に聴かせたらとても気に入ってくれて、じゃあ一緒にやろうってことになったんだ。

――2006年にThe Black Eyed Peasと一緒に「マシュ・ケ・ナダ」を作った頃から、ヒップホップとのコラボレーションが盛んですが、なぜヒップホップを取り入れるのでしょうか。

セルジオ:もともとブラジル音楽とヒップホップはとても親和性が高いと考えている。無理矢理にではなく、自然に合うからずっと続けているんだ。それと私は常にオープンマインドだから、世代や国籍やジャンルが違っても、いろんな考え方の人と一緒にコラボレートしたいという気持ちがあるのも大きいかもしれない。

――たしかに、ブラジルの音楽シーンは世代が分断されていないという印象があります。上の人は下の世代をすくい上げようとするし、若者たちはレジェンドたちをリスペクトして自身の音楽に取り入れることを積極的に行っていますね。

セルジオ:まさにそのとおりだよ。

「音楽は国境を超えた言語」ーー説明はいらないし、国籍も関係ない

――日本人としてどうしても聞いておきたいのは、SKY-HIとのコラボレーションです。どのようにしてこの組み合わせが実現したのでしょうか。

Sérgio Mendes – Sabor Do Rio (SKY-HI Remix)

セルジオ:アルバム制作に取り掛かり始めた頃に、日本人の若いラッパーと一緒に曲を作りたいと思ったんだ。それで日本のレコード会社の担当者に伝えて、誰か推薦してくれないかってお願いしたところ、3組のアーティストのミュージックビデオを観たのだけれど、その中にSKY-HIがいた。一瞬で彼と一緒に制作したいとインスピレーションを感じた。それから彼に会ったら、やはりとてもフィーリングが合ったんだ。すごく音楽的な素養を持っているし、ラッパーだからリズムもすごく自然に乗ることができる。実は彼のアルバムの1曲にピアノで参加しているよ。ミュージックビデオも作ったからぜひ観てほしい。

SKY-HI / What a Wonderful World!! (Prod. SKY-HI) -Music Video-

――SKY-HIとコモンは同じ曲を歌っていますが、それぞれのカラーが出ているのが面白いと感じました。

セルジオ:アメリカのシカゴ出身のコモンと、日本のSKY-HI。それぞれの解釈はまったく違うけれども、どちらも素晴らしい出来栄えになった。いかにこの楽曲そのものがユニバーサルなものなのかが証明されたともいえるね。あともうひとつ強調しておきたいのが、アートワークを日本人デザイナー(吉永祐介)にお願いしたんだ。CDジャケットは私の頭の上にピアノや様々な音楽を感じられるものが散りばめられていて、最高のデザインに仕上がっている。ブラジルだけでなく、世界中のアーティストが参加し、それを日本人がアートワークにまとめ上げたというところが嬉しい。これが本当の意味でのコラボレーションだと思っている。

――これまで50年以上も来日を重ねている中で、ここまで密接なコラボレーションは初めてではないですか。

セルジオ:これまでも何度か共演の経験はあるけれど、今回は特に密接かもしれないね。でも、70年代にカネボウのキャンペーンソングを作ったことがあって、そのときは浅野ゆう子さんとコラボレートしたんだ。「サマーチャンピオン」という曲なんだけど覚えているかい? あの時は沖縄から札幌までキャンペーンを兼ねた全国ツアーも行って、とても楽しかったという記憶があるよ。

――今作の特徴として、プレイヤーやプロデューサーとしてだけでなく、ソングライティングにも積極的に参加されていますよね。

セルジオ:演奏するのと違って、ピアノの前に座って一から作っていくから、最初のスタートが難しかったよ。楽曲作りは演奏とはまったくプロセスが違うからね。苦労もしたけれど楽しい作業だった。

――そのせいか、これまでのアルバムと比べると、多彩なゲストが参加していながらも、一本筋が通っている印象を受けました。

セルジオ:そう感じてもらえると嬉しいよ。求めていたものがはっきりしていたからね。

――この路線(ソングライティング)は次作でも継続するのでしょうか。

セルジオ:うーん、それはわからないな。というのは、私はすぐに違うことをやりたがるし、同じことを繰り返すのは好きではないんだ。ただ、素晴らしいメロディとリズムを作るという音楽の基本は変わることはないだろうね。

――あなたの音楽は、誰が聴いてもわかりやすくてハッピーな気分になる、とても楽しめるものです。でも必ず、メロディ、ハーモニー、そして特にリズムにブラジル人としてのアイデンティティを強く感じさせるところが素晴らしいと思います。そこのこだわりはどう考えていますか。

セルジオ:ありがとう。そういってもらえるのはとても嬉しい。でももっというと、音楽は国境を超えた言語なんだ。だから説明なんていらないし、国籍がどうだってことも関係ない。音楽に対する「この音楽いいなあ、好きだなあ」っていう気持ちは、どの国の人でも感じることができる。そう感じる理由は、その音楽がその人をいい気持ちにさせてくれるからで、まさにその「いい気持ち」にさせるのが、音楽の持つパワーだと思うし、グローバルなものだ。絵画を見る、本を読むというのもいいんだけれども、一瞬でいいと思えるのが音楽の凄さなんじゃないかな。

――言葉にとても重みがありますね。

セルジオ:いやいや、良い質問をしてくれて感謝しているよ。

――そういう観点でいうと、『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』はどういうアルバムになったと思いますか。様々なトライをしたアルバムだということはもちろんですが、さきほどの言葉通り、直感的に良いと思える内容になっていると思います。

セルジオ:もちろん、今までで作ったアルバムで最も好きな作品だよ。

――最高の答えですね。

セルジオ:ライブでも早くこれらの楽曲を披露したいと思っている。ツアーを楽しみにしているよ。

(取材・文=栗本斉/写真=幡手龍二)

■リリース情報
『イン・ザ・キー・オブ・ジョイ』
価格:¥3,850(税込)
iTunsはこちら

セルジオ・メンデス ユニバーサルミュージック公式サイト

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