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『ボヘミアン・ラプソディ』だけじゃない! 公開相次ぐ音楽映画をまとめて紹介

リアルサウンド

18/11/28(水) 10:00

 この秋から年明けにかけて、音楽映画が次々と公開される。しかも、ジャンルはロック、ソウル、クラシック、ワールド・ミュージックと幅広く、ちょっとしたフェスのような賑やかさだ。そんななかから、話題作をいくつか紹介しよう。

参考:<a href=”http://www.realsound.jp/movie/2018/11/post-284185.html”>その他画像はこちら</a>

『ボヘミアン・ラプソディ』
 まずは、イギリスを代表するロック・バンド、クイーンの歴史をドラマ化して、公開されるや大ヒットを記録した『ボヘミアン・ラプソディ』(公開中)。自分の生い立ちや容姿にコンプレックスを抱いていた青年、フレディ・マーキュリーは、ブライアン・メイとロジャー・テイラーのバンドに加入。バンド名を「クイーン」にした彼らは、念願のレーベル契約を交わしてデビューし、次々とヒットを生み出して、世界的な人気バンドになっていく。映画では「キラー・クイーン」「ボヘミアン・ラプソディ」など名曲のレコーディング風景も再現されていて、彼らの独創的なサウンドの秘密を垣間見ることができるのも楽しい。

 バンドが成功へと一直線に突き進む前半に対して、後半はフレディのドラマに焦点が絞られる。バイセクシュアルに目覚めたフレディは妻のメアリーと離別。寂しさをまぎらわせるためにパーティ三昧の日々を送るなかでメンバーと対立して、ドラッグに溺れていく。そして、エイズの発病。どん底のなかで彼を救ったのは、音楽と仲間たちだった。映画ではフレディの死まで描かず、クイーンの最後の輝き、1985年のライヴ・エイドのステージがクライマックスになっていて、21分に渡り白熱のパフォーマンスを再現。フレディを演じたラミ・マレックの成り切りぶりも圧巻だ。監督はフレディ同様、バイセクシュアルであることをカミングアウトしたブライアン・シンガー(『X-MEN』『ワルキューレ』)。それだけに、社会や家庭に馴染めない〈ボヘミアン(異邦人)〉としてのフレディの苦悩に焦点を当てながら、クイーンの曲を全編に散りばめて、ミュージカルのように音楽をたっぷりと聞かせる物語になっている。

『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』
 ロック界のスーパースターに続いては、ソウル・ミュージックの女神、ホイットニー・ヒューストンのドキュメンタリー『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』(2019年1月4日公開)。監督はドキュメンタリーも劇映画もこなす、ケヴィン・マクドナルド(『ボブ・マーリー/ルーツ・オブ・レジェンド』『ラストキング・オブ・スコットランド』)。家族や関係者の証言に、ホイットニー財団から託された豊富な映像を巧みに織り交ぜながら、フレディに負けない、波乱に満ちたホイットニーの人生が記録されている。

 シンガーのシシー・ヒューストンの娘として生まれ、ディオンヌ・ワーウィックやディーディー・ワーウィックを従姉妹に持つなど、子どもの頃から音楽の世界に触れていたホイットニーは、母親の厳しい英才教育を受けて歌手としての才能を開花。その美貌も手伝って、デビューした途端に新時代のポップスターとして人気を得る。それは母親が果たせなかった夢でもあった。シングル7曲が連続チャート1位という驚異的な記録を生み出し、さらに初出演映画『ボディガード』で彼女の人気は頂点に。しかし、ラッパーのボビー・ブラウンと結婚したあたりから雲行きが怪しくなる。

 ボビーの浮気、父親の横領疑惑、ドラッグ問題など、ホイットニーを追いつめていく様々なスキャンダル。なかでも、本作で初めて明らかにされて物議を醸しているのが子ども時代の性的虐待だ。しかも、相手が親戚のディーディー・ワーウィックという衝撃の事実。そのほか、母娘でライバルのことをこきおろす映像や、失敗に終わった復活ツアーの無惨なステージなどキワどい映像も登場する。その一方で、テレビ初出演時の映像や伝説となったスーパーボウルでの国歌斉唱など、素晴らしいパフォーマンスも紹介。ホイットニーの光と影をしっかり描くことで、無垢な天才の素顔に迫っている。

『私は、マリア・カラス』
 もうひとり、歌姫を。クラシックに詳しくなくても、マリア・カラスという名前は聞いたことがあるはず。『私は、マリア・カラス』(12月21日公開)は、伝説的なオペラ歌手、マリア・カラスの生涯を、カラスの言葉で振り返ったドキュメンタリーだ。監督のトム・ヴォルフは3年かけて世界中をまわってカラスの友人たちに会い、個人的な手紙や映像に目を通した。そして、カラスが生前に書き残していた未完の自叙伝を手に入れ、そこに記された彼女自身の言葉を縦糸にして映画を構成した。カラスの言葉を朗読するのは、フランス映画界を代表する女優、ファニー・アルダンだ。

 ホイットニー同様、子どもの頃から、母親の厳しい教育のもと歌手になるために猛勉強したカラス。17歳からしか入学できないアテネ音楽院に13歳で入学すると、そこで歌手としての基礎を鍛えあげ、卒業後に華々しいデビューを飾った。50年代、カラスは若くして名声を得るが、体調不良による舞台の降板や、メトロポリタン歌劇場の支配人との対立がスキャンダルになる。しかし、28歳上の夫は金と地位にしか興味がない俗物で、カラスに歌うことを強制。心身ともに疲れ果てたカラスの前に現れたのが、海運王オナシスだった。オナシスとの熱愛。夫との泥沼の離婚調停。そして、思わぬオナシスの裏切りと、ヨーロッパの上流階級を舞台に歌姫の激しい恋が繰り広げられる。オペラを歌い、オペラのようにドラマティックに生きたカラス。わずか53歳で彼女はこの世を去るが、「私の自叙伝は歌の中に綴られている」という彼女の言葉が、歌に捧げた彼女の人生を表している。

『アメリカン・ミュージック・ジャーニー』
 最後は、アメリカの音楽の歴史を40分で振り返るドキュメンタリー『アメリカン・ミュージック・ジャーニー』(公開中)。様々な文化がぶつかり、混ざり合うことで、アメリカでは多彩な音楽が生まれてきた。その歴史上重要な場所を、LAのミュージシャン、アロー・ブラックが旅してまわる。旅の核になるのは、ジャズ・ミュージシャン、ルイ・アームストロングの生涯だ。奴隷貿易でアフリカから強制的にアメリカへ連れてこられた人々の子孫として、アメリカ南部に生まれたアームストロングは、トランペットの即興的な演奏を通じてジャズという新しい音楽を広めていく。アローはアームストロングの足跡を追って、ニューオリンズ、シカゴ、NYと旅をしながら、アフリカ系アメリカ人の音楽が、アメリカ音楽に与えた影響を振り返っていく。

 そのほかにも、アローは様々な街を旅する。メンフィスでは“ロックンロールの神”エルヴィス・プレスリーの家に寄り、ナッシュヴィルでカントリー・ミュージック、デトロイトではゴスペル、そして、マイアミではラテン・ミュージックと、その土地にちなんだ音楽を紹介。時には、ラムゼイ・ルイスやグロリア・エステファンなど著名なミュージシャンが話を聞かせてくれる。アローは旅を通じて様々な音楽を吸収し、最後に旅の成果として新曲を披露するという趣向だ。監督のグレッグ・マクギリブレイはIMAXシアターなど大型スクリーン向けの映像分野で活躍しており、街ごとにダンスや演奏シーンを盛り込んで、アメリカ音楽をテーマにしたショウのような華やかな作品に仕上げている。

 そのほか、映画『ドライビング Miss デイジー』でオスカーを受賞したリリ・フィニー・ザナックが監督を務めた『エリック・クラプトン~12小節の人生~』(公開中)。女性パンク・バンドのパイオニア、スリッツの歴史を振り返る『ザ・スリッツ:ヒア・トゥ・ビー・ハード』(12月15日公開)。タンゴに革命を起こした鬼才、アストラル・ピアソラの生涯を追った『ピアソラ 永遠のリベルタンゴ』(12月1日公開)なども公開予定。年明けにかけて、映画館で音楽を楽しむ機会が多くなりそうだ。

■村尾泰郎
ロック/映画ライター。『ミュージック・マガジン』『CDジャーナル』『CULÉL』『OCEANS』などで音楽や映画について執筆中。『ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール』『はじまりのうた』『アメリカン・ハッスル』など映画パンフレットにも寄稿。監修を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)などがある。

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