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『ルパン三世 THE FIRST』が描いた“変わらなさ” 新しいフォーマットで生き続ける一味たち

リアルサウンド

19/12/25(水) 6:00

 国民的アニメシリーズ『ルパン三世』の初の完全3DCGアニメ映画『ルパン三世 THE FIRST』が12月6日から公開されている。デジタルが浸透する前からペンタブでの作画も行い、デジタル漫画協会の発起人となり会長も務めていたモンキー・パンチ先生にとって『ルパン三世』の3DCG化は悲願だったという。

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 そんな願いが叶い、2015年の夏に本作の制作はスタートした。山崎貴監督が監督を引き受け、絵コンテをストーリーリールの試写会も何度も行いプロットをブラッシュアップし、現在の物語が出来上がったのは2017年の11月だった。

 映像面もリアルにこだわるだけでなく、シリーズの特徴でもある手足の長いキャラクターたちによる荒唐無稽な動きを再現すべく、手付けアニメでアクションが描かれ、各国の『ルパン三世』ファンのアニメーターたちが集結。要所要所の場面では『カリオストロの城』からシリーズに関わるベテランアニメーターがコンテを書いたり、TVアニメシーズン2から参加し有名なテーマ曲を手掛け、世界観を決定づけた大野雄二が参加し60曲以上も作曲しているのもファンとしては嬉しい限りだ。

 4年にもわたる製作期間の間には今年4月のモンキー・パンチ先生、公開一週間前の11月29日の元祖・五右衛門役の井上真樹夫氏の逝去されるという悲しいニュースもあった。『ルパン三世 THE FIRST』は、そういった制作の裏側を知れば、とても熱く重いものを背負っている映画だということがわかるだろう。

 本作は、『ルパン三世』シリーズがこれまで守ってきた定番的なストーリーとアクションで、気軽に楽しめる娯楽作になっている。いつもどおりルパンが圧倒的身体能力と機転で活躍し、次元はボヤきながら射撃の腕を発揮、五右衛門はクールになんでもぶった斬り、不二子はルパンを騙しながらも協力してくれ、銭形はそんな一味をどんな時でも愚直に追いかけ続け、時には共闘してくれる。

 そして話に絡む純粋無垢なヒロインと、世界征服を企む悪役。国民的アニメらしく登場人物たちが、どんなキャラクターか説明されることもない。映画単体で見れば、“いつもの”『ルパン三世』であり、目新しさは感じられない。しかし、その「いつも通りさ」こそが狙い通りのものであり、ルパンたちが普段と同じことをしているからこそ、美麗でリアルな3DCGアニメとなった特性が際立つ。

  3DCGだからこそ光る展開もある。1960年代前半のパリを丁寧に活写し、ナチスドイツの残党が話に大きく絡んでくるし、『インディ・ジョーンズ』シリーズのように未知のテクノロジーによるとてつもない破壊兵器が登場。終盤の大スペクタクルシーンは3DCGならではの迫力だ。

 またルパン三世の祖父である、初代ルパンとの絆も言及され、シリーズの中でも最も知名度と人気のある『カリオストロの城』のオマージュも多用される。屋根から屋根への大ジャンプやおなじみの黄色い車でのカーチェイス、更にはルパンと純情なヒロイン・レティシアとのロマンスも、かつてのクラリスを彷彿とさせるのだ。

 だが上記の要素は本作のお涙頂戴の展開に使われることも、社会派なメッセージを送るために使われることはない。あくまで93分の上映時間を彩る要素としてしか扱われないのだ。ファミリー向けとは言いつつも、クールでドライな『ルパン三世』ならではの味わいをしっかり再現しており、どこまでいっても『ルパン三世 THE FIRST』は気軽に楽しめるエンタメ作品という姿勢を崩すことはない。だからこそ、その気軽さが気持ちいい。毛穴が見えるくらいリアルな3DCGになろうがルパン一味は変わらない。彼らは通常運転で冒険を繰り広げる。

 モンキーパンチ先生が亡くなり悲しみに暮れていたファンが多い中、3DCGという新しいフォーマットでいつも通りな『ルパン三世』を再構築した本作の意義は非常に大きい。創造主がいなくなったとしても、ルパン一味は新しい形で生き続け、観客にスリルと冒険を提供し続けるのだ。『STAND BY ME ドラえもん』の時のように原作にあるエピソードを再現することもなく、オリジナルストーリーであるにも関わらず、「まぎれもなく『ルパン三世』」な一作だった。

■シライシ
会社員との兼業ライター。1991年生まれ。CinemarcheやシネマズPLUSで執筆中。評判良ければ何でも見る派です。

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