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小林私にある原石の輝き 初のバンドセットライブも自由奔放なステージに

リアルサウンド

21/3/2(火) 12:00

 2月28日に渋谷CLUB QUATTROにて小林私のワンマンライブ『小林私公演』が行われた。2部制となっており1部は弾き語りでライブを行い、2部は初のバンドセットでのライブが繰り広げられた。このレポートでは2部の模様を書きたいと思う。

小林私(写真=かわどう) ギター、ベース、ドラム、マニピュレーターの4名のサポートメンバーを従え、1曲目に演奏されたのは「風邪」。音源を丁寧に再現しつつも重低音響く迫力あるバンドサウンドで、ライブならではの魅力も加わっている。バンドセットでは初ライブとは思えないほどの完璧な演奏だ。続く「HEALTHY」では腕を上にあげて踊りながら歌う小林私。色気がある歌声とクールな楽曲だが、ユーモアも加わったパフォーマンスは唯一無二だ。

 ライブ全体の構成もユーモアがあって唯一無二である。1〜2曲ごとにMCを行うほどトークパートが多く、話す言葉や内容は破天荒。2曲歌い終えると「疲れたので帰ります」と冗談を言うような自由さ。さらには「今日は1時間半やるんですけど、8曲しか用意してません。曲だけだと30分で終わるんで1時間話さなければなりません」と伝えてファンを驚かせる。さらには「みなさんは楽しみに来ているとは思いますが、僕たちは仕事ですから。仕事は早く終わらせたいので時間を巻いて終わります」と自由奔放な発言を続けて会場を笑わせる。

 そんな自由なMCには驚いてしまうが、カッコつけずに包み隠さずに話す様子には親近感を持ってしまった。しかし演奏する姿はクール。演奏が再開されると一瞬で空気が変わった。「悲しみのレモンサワー」ではアコースティックギターを弾きながら色っぽく歌う。客席上のミラーボールも回りアダルトな雰囲気に彩る。人柄と音楽とのギャップが凄いのだ。このつかみどころのない部分は小林私の魅力であるし、次世代のシンガーソングライターの姿にも思う。

小林私(写真=かわどう)

 音楽に酔いしれた客席の雰囲気を一瞬でシュールなMCで変えてしまうことも、彼の唯一無二な部分である。「ライブや配信を観たり観なかったり三谷幸喜」とシュールなギャグを言ってスベったり、ライブ中に「いま何時かな?」と言ってスマートフォンを取り出し時間を確認したりととにかくマイペース。ステージで自然体な姿を曝け出すことも自身を表現する手段の一つなのだろう。MCから曲への繋げ方も自由だ。「『恵日』という曲をやろうかな? やめようかな? どうしようかな?」と言ってから重低音響くミドルテンポのロックナンバー「恵日」を披露。やはり演奏が始まるとMCとは別人のようにクールな姿になる。

 小林私名義では初のバンドセットでのワンマンライブだが、以前はmont-blanc!、ブラックラビットというバンドを組んでいたらしい。初めてのバンドセットとは思えない堂々としたフロントマンとしての佇まいにも納得だ。MC後にスタンドマイクで歌った「泪」は自信に満ちた表情と佇まいだった。

 バンドメンバーの紹介方法も独特でユーモアに溢れている。今回のメンバーに決まった理由やエピソードをメンバーごとに話していくが、紹介後に「可愛いですね」とメンバーに伝えていた。今回のメンバーはライブの1カ月前に揃えたという。しかしバンドは楽曲を完璧に再現し最高の演奏をしていた。「共犯」の複雑で疾走感ある演奏は、まるで活動を長年共にしたバンドが演奏しているかのようだった。これは小林私の才能を認めている周囲のミュージシャンも、実力や才能がある人たちが揃っていることを示しているのかもしれない。

 「俺、頑張ったよ。30分巻きで終わるけれど。アンコールはありません。ありがとうございました!」と言って、最後に演奏されたのは「生活」。小林私の知名度を上昇させたきっかけでもある代表曲だ。ステージを上手から下手まで動きながら楽しそうに歌っている。ときおり満面の笑顔でダブルピースをカメラにしている姿は可愛らしい。MCでユーモアを振りまき演奏中はクールな姿を見せるというギャップを交互に見せるようなライブだった。しかし「生活」を披露している時は幸福感に満ちていて、ユーモアとクールさが入り混じったパフォーマンスである。彼の音楽と人柄の魅力がこの1曲にぎっしりと詰まっているのだ。

小林私(写真=かわどう)

 まだデビューしたばかりで荒削りな部分や未熟な部分はある。1時間半の予定を1時間で終えてしまうことは前代未聞だ。しかしライブへの満足度が低いかと言うとそういうことはない。他にはない唯一無二の個性を感じる歌声やパフォーマンスには自然と引き込まれた。その体験をできただけでも満足だ。

 まだ完成されていない原石のアーティスト。だからこそ今注目すべきアーティストで、ライブを観るべきかもしれない。2021年は小林私が成長する1年であると同時に、小林私が音楽シーンを自由に掻き回す1年になるだろう。

■むらたかもめ
オトニッチというファン目線で音楽を深読みし考察する音楽雑記ブログの運営者。出身はピエール瀧と同じ静岡県。移住地はピエール中野と同じ埼玉県。‬ロックとポップスとアイドルをメインに文章を書く人。
ブログ:https://www.ongakunojouhou.com/
Twitter:https://twitter.com/houroukamome121

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