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ナミは『ONE PIECE』の“ヒロイン”なのか? したたかなキャラクターの役割を読む

リアルサウンド

20/8/12(水) 10:00

 青年が主人公の少年マンガでありながら、“正式なヒロイン”が不在の『ONE PIECE』。現在96巻まで続いている長寿作品とあって、これまでに“ヒロイン感”を感じさせる人物はたびたび登場してきたものだが、やはり一番最初の女性メンバーであるナミこそが、ヒロインだといえるのではないだろうか?

 ナミといえば、ゾロの次にルフィと“手を組んだ”仲間だ。しかし、ルフィにとって彼女は仲間であったが、ナミにとってはあくまでも手を組んだだけのこと。物語の序盤では、しばしば裏切り行為を見せたりもした。敵前逃亡、他人任せ、責任転嫁のプロであったナミだが、いまや彼女も麦わらの一味における重要な戦力の一人である。そんな彼女が、いつ麦わらの一味に加入したのか。これはもちろんご存知の通り、「アーロンパーク編」でのことだ。

 先述したように、ルフィらに対して裏切り行為を重ねてきたナミが、ここで最大の裏切り行為に出た。当時の彼ら大切な仲間であった船・ゴーイングメリー号で、彼女は単身お宝とともにアーロンパークへと向かったのだ。この一連のシーンに初めて触れた際は、衝撃的であった。いくら金目のものに目がないナミでも、ここまでやるのかと。しかし同時に、ここから物語が大きく動き出す兆しを感じた読者の方も多いのではないかと思う。「海賊」という言葉を耳にする度に嫌悪感を示していた彼女の言動や、その曇った表情を捉えたコマの一つひとつには違和感があった。その伏線がようやく回収されたのが「アーロンパーク編」であり、晴れてナミが仲間になるエピソードとなったのだ。そして何より、彼女はここで初めて“ヒロイン感”を出している。

 ナミに歩み寄ろうとするルフィたちに対し、徹底して突き放す態度を貫いていた彼女が、「助けて…」と涙で顔を濡らしながら訴える場面だ。何か腹に一物を抱えているような彼女だっただけに、ここで胸を締め付けられた方は多いことだろう。この直後ルフィは、自分の命より大切な麦わら帽子をナミの頭に被せ、「当たり前だ!!!!」と続ける。何度読み返しても泣いてしまう一連のシーン。これを皮切りに、ナミはここぞというときにヒロイン感を出すようになるが、先に述べたように、彼女はけっしてか弱い存在ではない。信頼できる仲間たちと死線をくぐり抜ける度にどんどん強くなるし、それに“過去”を背負っている者なだけあって心根は強く、したたかでもある。

 ナミの持つ“したたかさ”とは、つまり、世渡り上手な“ちゃっかり者”ということでもある。いざというとき、ちゃっかり者がいないと集団はまとまりを欠くし、したたかさがないと、大海賊時代を生き残ることはできないだろう。ときに金に目がくらみ、ときに一味や敵に裸体などを披露もする、一般的なヒロイン像とはかけ離れている彼女だが、航海士としてだけでなく、麦わらの一味には必要不可欠な存在なのだ。世を渡るのも、海を渡るのも、ナミは欠かせない。それに、一味がピンチのときには、船長であるルフィを誰よりもナミが信じている。やはりルフィに“救われた”という、ヒロイン的な経験が大きいのだろう。

 一口に“ヒロイン”といってもいろいろな定義があるのだろうが、その定義の一つとして、“主人公とともに歩む者”というものがあるのではないだろうか。「アラバスタ編」でのビビや、「女ヶ島編」以降のボア・ハンコック、「魚人島編」でのしらほし姫など、ルフィに対してヒロインのような態度を取る者はいるが、そもそもルフィは色事に興味がないようである。やはり、海も大地もともに歩むナミこそが、『ONE PIECE』のヒロインなのではないのだろうか?

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

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