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いしわたり淳治×狩野英孝 特別対談:作詞家が分析する、50TAの歌詞の面白さとは?

リアルサウンド

21/2/20(土) 8:00

 コラム集『言葉にできない想いは本当にあるのか』を刊行した作詞家/音楽プロデューサー・いしわたり淳治と、アーティスト“50TA”こと狩野英孝の初対談が実現した。

 きっかけは、昨年に『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)で発表された50TAの3年ぶりの新曲「ラブアース」をコラムの中でいしわたりが称賛していたこと。いしわたりは、今年初頭に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)の人気企画「2020年のマイベスト10曲」でも、同曲を7位に選出している。

 初対面の2人のクロストークは、いしわたりが考える50TAの魅力、格好よさと面白さの関係、音楽とお笑いに共通する「言葉の使われ方の進化」など、抱腹絶倒なやり取りの中にクリエイティブなヒントがたっぷり詰まった対話になった。(柴那典)

「ラブアース」の衝撃

――狩野さんは50TA「ラブアース」へのいしわたりさんのコメントを知って、どんな風に感じましたか?

狩野英孝(以下、狩野):『関ジャム』と『ロンドンハーツ』の両方のスタッフをやってるテレビ朝日の藤城さんという方がいらっしゃるんですけれど、僕はその藤城さんから「いしわたりさんが褒めてたよ」って聞いたんです。でも最初は「え? また新たなドッキリが始まった?」って思って。そこから『ロンドンハーツ』の僕をフィーチャーした回でコメントをいただいたり、『関ジャム』で名前を出してくださったりして。ほんとに嬉しいんですけれど、ただ正直、まだどこかでちょっとドッキリを疑ってる自分がいるんですよね。それは今回の対談も含めてなんですけど(笑)。

――たしかに『ロンドンハーツ』のドッキリ企画でこういうインタビュー風景ってありますもんね。

狩野:長時間かけてやる壮大なドッキリもありますからね。でも、今回「あ、これはドッキリじゃないかも」と思ったのは、今、僕が座る席を自分で選べたんですよ。ドッキリの場合って、隠しカメラの位置の関係で「ここに座ってくださいね」って座る場所を誘導されたりするんで。これはマジの対談だな、取材だなっていう確信に変わりつつあります。

――いしわたりさんが50TAの「ラブアース」を聴いたきっかけは?

いしわたり淳治(以下、いしわたり):もちろん『ロンドンハーツ』を観てですけれど、聴いた瞬間、衝撃を受けました。2回聴きましたもん。

――どんな衝撃があったんでしょうか?

いしわたり:正直、コロナ禍で沢山の人を勇気づけようというテーマで多くの人に当てはまるような曲を書くとなると、どうしても言葉が広くなりがちなんです。最初はそういう言葉の広い曲だなと思って普通に聴いていたんですね。そうしたら最後に〈何コレ?すっごーい!〉がやってきた。たとえば誰かを勇気付けるとか自分を鼓舞するというテーマで、力が湧いてくるっていうことを歌う歌は沢山あったけれど、どれも湧いてくるまでの過程の歌しかなかったんですね。本当に湧いてきたんだったら、その後のコメントがあってもいいわけじゃないですか。そこを書いているというのに衝撃を受けたんです。

 たとえば料理番組でも、料理を作るところだけを見せて終わるんじゃなくて、最後に食べて感想を言う。それと同じで、今までミュージシャンが書いてきたのは途中で終わってたような歌が多かったんだなって思って。そういう衝撃でした。

狩野:そこまで深く考えてくださって、ありがとうございます。

――狩野さんはあの曲をどういうきっかけで書いたんでしょう?

狩野:あれもドッキリだったんですけど、コロナ禍の緊急事態宣言の最中に「4日後までに曲を一曲仕上げてください」って言われて。「え? いや、4日って……」と思いながら、でも緊急事態宣言で何にもやることもないし、「じゃあやってみようかな」みたいな感じで、ギターを弾き語りしながら急遽作りました。

――〈何コレ?すっごーい!〉っていうフレーズも最初からあったんですか?

狩野:そうですね。淳さん(編集部注:『ロンドンハーツ』MCを務める田村淳)に無茶ぶりされたときに出てきた言葉なんですけど。僕、漫画とか映画でも、もともと弱かったヤツが何かの力を手に入れて強くなっていくストーリーが好きなんですよ。たとえば主人公が伝説の剣を手にして「な、なんだ、この力は……!?」みたいなことを言うシーンが好きで。そこから「みんなで力を合わせれば不思議な力があふれてくる……何コレ?すっごーい!」になったという(笑)。

いしわたり:普段からそういう感覚があったってことですか?

狩野:そうですね。たとえばネタを作っても、思っていたところで笑いが来なくて、全然違う予想外のところでドーンってウケたりする。それも「何コレ?すっごーい!」で(笑)。いつも予想外のことが起きるのが僕の人生なんです。

50TAが“50TAらしさ”を手に入れた瞬間

いしわたり淳治×狩野英孝

――いしわたりさんは50TAというアーティストをどういう風に評価してらっしゃるんでしょうか。

いしわたり:僕、今日朝から50TAの曲を全部聴きかえしてきたんですけれど、50TAは、実は、最初の頃は“J-POPあるある”に聴こえてたんですよ。

狩野:はいはいはい。

いしわたり:「J-POPってこうなりがちだよね」というので笑いをとる芸人さんっているじゃないですか。そういうものだと思っていたんです。面白いワードも沢山入っているし、格好良くやりたいんだけどやりきれない格好悪さみたいなものが笑いになっていたりした。でも、ある時期から50TAが“50TAらしさ”を手に入れた瞬間があったんだと僕は気付いてしまって。

狩野:えぇ!? 何ですか?それは。

いしわたり:なんだろう……たとえばアマチュアに対して「プロみたい」って言うのは褒め言葉じゃないですか。でも、プロに対して「プロみたい」と言ったら悪口になりますよね。そういう意味で、最初の頃の50TAはプロのアーティストみたいなことをしている時期だったと思うんです。でも、それを超えて、50TAがプロとして50TAをやり始めた瞬間があったと僕は思っていて。

狩野:いつですか? 自分でも気付かないポイントなんですけれど。

いしわたり:おそらく「PERFECT LOVE」のあたりは、まだ初期なんですよ。

狩野:初期ですよね。一発目のほうですね。

いしわたり:で、「Over the rainbow」あたりから徐々に変わってきて、その真骨頂が「エキサイティング」だと思います。

狩野:なるほど! ほんとにおっしゃるとおりです。

――狩野さんは「Over the rainbow」についてはどういう実感があったんですか?

狩野:僕、青春時代にずっとJ-POP聴いてたんですよ。本当に大好きで、学生の頃から毎週音楽番組を観てオリコンチャートの1位をチェックして「ああ、この歌いいな、明日CDショップ行こう」って細長いシングルCDを買いにいって。そうやってずっとJ-POPを聴いてきたんで、そういう中でいろんなアーティストさんの癖とか技とかテクニックを格好いいと思って、自分でもそれをやりたくなっちゃうんです。そうなってきたのが「Over the rainbow」くらいの時で。あの曲の決め手は「♪オーバーザレイ」「ンボー」なんですけど――。

いしわたり:(笑)。

狩野:いや、これね、みんなに「おかしいよ」って言われるんですけど、僕の中では本当に格好いいと思ってやってるんですよ。僕のイメージはMr.Childrenの「シーソーゲーム~勇敢な恋の歌~」なんですよ。「♪ねえ 等身大の愛情で」というところを聴いて「“愛”と“情”で区切るんだ!? 格好いい!」みたいに高校時代に思ったのがあって。だから「♪オーバーザレインボー〜」って普通に区切って歌うんじゃなくていいんじゃないか、みたいな。

いしわたり:でも「レインボー」を「ンボ―」で区切る人、なかなかいないと思いますよ(笑)。前に「ノコギリガール ~ひとりでトイレにいけるもん~」でも〈チャレンジンジンジ〉ってあったじゃないですか。

狩野:あります! 「ンジンジ」。「ん」が好きなのかな? 自分では気付かなかったですけど、確かにそう言われると「ん」で区切る癖ありますね。

いしわたり:ありますね。そこがいいんですよ、きっと。他の人は絶対やらないですから。

――「エキサイティング」についてはどうでしょうか?

いしわたり:「エキサイティング」も、いわゆる“力が湧いてくる”系の曲なんですよね。〈身体中の血が騒ぎ出す〉とか、さんざん力強く歌って、でも〈予定…〉って終わるんです。この、サビの終わりにある余計な三文字によってリアリティとオリジナリティが生まれる。これはなかなかできないと思います。こういうところがすごいなと思うんですけれど、これってどこから考えてるんですか? 最初から〈予定…〉って入れるつもりで書いてるんですか?

狩野:全然。あの曲はライブが決まって、そのために新曲を作ってくれって言われて書いたんです。せっかくお客さん入れてライブをやるのであれば、みんなが「イェーイ」って言える曲、みんながエキサイティングになれる曲がいいなって書き始めて。そこから「負けないぞ」とか「頑張るぞ」みたいな歌にしようと思って〈勝てないやつと分かりながら 恐れず牙を向けてやる〉って書いていくうちに、だんだん自信がなくなってきて。「俺、そういう時は本当に行くかなぁ、怖いなぁ」って。言い切っちゃうと嘘になっちゃうから〈予定…〉って最後につけとこう、って。

いしわたり:ファイティングポーズはとってるよっていう。

狩野:そうそうそう(笑)。

いしわたり:素晴らしい。こんなこと考えるミュージシャンいないですよ。

狩野:本当ですか!? 嬉しい。

いしわたり:やっぱり、ミュージシャンってみんな真面目じゃないですか。ふざけるプロじゃないからふざけられないというのもあると思うんですけれど。そういう意味で50TAは可能性の塊だと思いました。

本気で格好いいと思って真似してたものが、芸人として活きている

いしわたり淳治×狩野英孝

――それというのはつまり、真面目に歌うこととふざけることが絶妙に混ざっているということですか?

狩野:僕はふざけてるつもり一切ないんですけど。

いしわたり:それがいいんです。他の芸人さんと違って、狩野さんは本当に勇気づけようとしてくれてるんじゃないかっていうリアリティーがある。

狩野:そうですね。僕は100%ストレートに作ってます。

――そういうものが予想外のところで笑いにつながるのって、ご自身としてはどう感じてらっしゃるんですか?

狩野:最初はすごく嫌だったんですよ。

いしわたり:笑われることが?

狩野:はい。なんでこんな一生懸命、真面目にやってることがイジられたり笑ったりされるんだって。淳さんにも「なんでそんなヒドいこと言うんですか」みたいな感じで最初は思ってたんですけど。でも、これがテレビでOAされたら「面白かったです」って言ってくださるだけじゃなくて、手紙が届いたりするんですよ。「学校にずっと行きたくなくて休んでたのに、あれを観て勇気もらって学校行ってみました」とか。

いしわたり:絶対そうだと思いますよ。

狩野:そんな手紙をもらったら、「え!? だったらありなのかな!」って徐々に思ってくるんですよね。でも、かと言って、そういうのを狙おうとしても狙えない。「じゃあ、こういう系が好きなんでしょ?」って思って作ろうと思っても、なんにも浮かんでこなかったりする。だから、もうシンプルに自分のやりたいことをやってるだけですね。

いしわたり:たとえば『千鳥のクセがスゴいネタGP』で「大きな古時計」を歌ったりしてるじゃないですか。あれはオモシロとしてやってるんですよね?

狩野:いや、あれも最近になってテレビでやらせてもらいましたけど、もともと高校生の頃からやってるんですよ。格好いいと思って。

いしわたり:あれも本気だったんだ。

狩野:高校時代に好きなミュージシャンのライブに行ったりすると、CDで聴いたのと違う感じでアレンジして歌うじゃないですか。溜めて歌ったり、語尾を変えてみたり。あれを観て「格好いい!」って思ってたんですよ。だから僕も、もともとあった曲を自分の歌みたいに格好つけて歌ってたのがもともとやってたことで。

いしわたり:「♪100年休まずに チクタクチクタク」の「チクタク」のところをボイスパーカッションにしてるじゃないですか。あれはさすがに笑いをとりにいってますよね?

狩野:いや、あれもやってたんですよ。うちは宮城のド田舎だったんですけれど、免許取りたての時にお母さんの車を運転しながらあの曲を歌ってて。夜で誰もいないから、「♪100年休まずに」の時に、ハザードボタンをポチッと押して「♪チッチッチッチ」って鳴らして。で、「♪おじいさんと一緒に」でまたハザードボタンを押して「♪チッチッチッチ」って。そういうのを夜中に一人でやってたくらい、あそこは格好つけるポイントだと思ってたんで。

いしわたり:なるほど、そこすらもピュアだとは思わなかったです。すごい。

――狩野さんとしては、面白いか面白くないかというポイントよりも、格好いいか格好悪いかのポイントで判断していることが多い?

狩野:それはすごくあると思います。僕は中高生の時からL’Arc-en-Cielさんが大好きで、コンサートのDVDを何度も観て、hydeさんの歌い方とか身振りとか、そういうのをずっと格好いいと思ってきたんですね。その手の動きが、結局「ラーメン・つけ麺・僕イケメン」って言うときの手振りに繋がってたりする。自分が本気で格好いいと思って真似してたhydeさんの身振りとか、歌とか、そういうのが全部芸人としての自分に活かされてる感じですね。

いしわたり:やっぱ本物には敵わないってことですよね。「格好つける」って、本来は格好悪いことじゃないですか。「あいつ、格好つけてるよな」って、どう考えても悪口なので。でも、ごく一部に、格好つけて本当に格好いい人がいるんですよね。

狩野:それで言うと、僕、2007年くらいに『爆笑レッドカーペット』というネタ番組でテレビに出させていただいたんですけれど、あの番組って、いろんな芸人が1分くらいのネタをやるんですよ。それきっかけで沢山の芸人が世に出たんでめちゃくちゃありがたかったんですけど、みんなキャラを維持するのが大変だったんです。でも、その中で僕は白スーツ着て胸にバラの花をさしてロン毛で「僕イケメン」ってやってて、そのキャラが崩れることが一切なかったんですね。考えてみたら根っからのナルシストだし格好つけだから、素もこのままだった。だから楽だったというのはありますね。

50TAの音楽には“見切り発車”の良さがある

――狩野さんから、プロの作詞家としてのいしわたりさんに聞きたいことはありますか?

狩野:どんな感じでオファーを受けるのか聞きたいですね。たとえば誰が歌うのかだけじゃなくて、たとえば「楽しい曲で」とか「悲しい曲で」とか「バラードで」とか、いろんなこと言われたりするんですか?

いしわたり:簡単に言うと、アルバム曲だと自由度が高いことが多いです。タイアップの絡んでいるシングル曲とかになってくると、縛りが多くなっていく感じですね。映画の主題歌だったら「このシーンでの主人公のこういう心情で」と言われて台本を全部読むところから始まる時もあるし、ざっくりと「勇気が出るようなもの」みたいな時もありますし。

狩野:曲を作るときに「ここを推すぞ!」というパンチラインみたいなものは最初に決めるんですか?

いしわたり:決めます。

狩野:それってどうやって出てくるんですか?

いしわたり:「こういうことだな」みたいなところが浮かぶまで打ち合わせをします。逆に言うと、それさえ決まってしまえば、あとはそこに向かっての階段を作るだけなので。

狩野:なるほど。それって会議とかで生まれてくるものなんですか?

いしわたり:僕は注文が多い方がいいので、CMの曲だったら、主人公はクラスの中でイケてるグループですか? そうじゃないほうですか?とか、部活はなんですか?とか、そういうのまで聞いちゃいます。その方がやりやすいんですよね。エピソードひとつ描くにしても「こういうキャラだったら文化祭をこういう風に見てただろうな」となるので。情報があればあるほど知りたいタイプですね。

狩野:書いた歌詞を送る時ってどんな感じなんですか? 「よっしゃ、いいのできた」なのか、「大丈夫かな、これでいいのかな」なのか、みたいな。

いしわたり:「大丈夫かな」はないんですけど、送るときに「おそらくここは引っかかるだろうな」と思うことはありますね。引っかかるというのは「別のものないですか?」と言われるかもしれないな、ということなんですけれど。そこも想定して2つ、3つの答えがあるような状態にはしておきます。ある程度曲全体のクオリティが担保できていて、そこが差し替わったとて崩れることはないだろうというところまで考えて出します。

狩野:なるほど。出した先も見えてらっしゃるんですね。

いしわたり:タイアップとかガチガチに決まっていると、なかなか遊べないんですよ。勝手にこっちがはしゃいで入れたものを、何度もクライアントを通して話し合ったりされるのは申し訳ないじゃないですか。でも「ここはちょっと」と言われたらすぐに出せるものがあれば向こうも安心できる。そういう風に考えたりします。

狩野:僕はいつも「ここを推すぞ!」っていうところをどうするか、自分で悩んじゃうんですよ。〈何コレ?すっごーい!〉の時も、最初は「何コレ?すっごい」って何度も繰り返すイメージでやってたんですけれど、だんだん何やってるのかよくわかんなくなっちゃって。最終的に「4日しかないし…うーん…最後だけにする!」って決めたのが、たまたま良かっただけなんです。自分の推し言葉の置き場所であったり、どういうフレーズだったりがいつも悩みを抱えていて。

いしわたり:50TAの音楽を聴いてて思うのは、見切り発車の良さってあると思うんですよ。

狩野:本当ですか? それこそ一番不安なんですよ。自分では。

いしわたり:やっぱり、ピュアにやっている延長にあるから面白いというか、特別なんだと思います。

狩野:そこは自分ではすごく複雑な感情があったりするんですよ。1カ月かけて作ったネタが全然受けなかったりボツになったりする一方で、淳さんに言われて4日で作って「え? これでいいんですか?」みたいなのがテレビで「面白かったよ!」って言われると、「俺、なんなんだろうな」って(笑)。そういう毎日が続くと、自分がわからなくなったりします。

――そういう毎日が10年以上続いているということですよね。

いしわたり:しかもずっと何かしらのドッキリを疑いながら(笑)。

狩野:すごいストレスです(笑)。

言葉の“新しい使い方”が生まれる瞬間

――いしわたりさんの新刊には、歌詞だけじゃなく、芸人さんのテレビの発言で気になった言葉をもとにしたコラムもありますよね。

狩野:僕も読ませてもらいました。やっぱり言葉に対してのアンテナがすごいですよね。たとえば、バイきんぐの小峠さんが言った「気だるい味」とか「味が遠い」もそうで。僕らがやってるバラエティーでは笑いになってそのまま流れちゃうんですけれど、そこをピックアップして分析するのがすごいなと思います。あれは職業病なんですか?

いしわたり:だと思います。本来だったら「味が遠い」っておかしな表現じゃないですか。だけど「味が遠い」って言われて意味がわかんない人がいないっていうことが、言葉の可能性を広げていると思っていて。たとえば女性ファッション誌で最近見たんですけれど「身体のラインを拾わない服」っていう言葉があるんですよ。身体のラインが「出る」とか「出ない」じゃなくて、それを「拾わない」と言う。でもみんなすぐに意味がわかりますよね。これって言葉の使い方の進化だと思うんです。そういうコンセンサスが世の中に広まれば、歌詞の世界も可能性がまた広がる。そういう言葉の新しい使い方が生まれる瞬間を見るのがすごく楽しいんですよね。

狩野:僕なんかは「身体のラインを拾わない服なんですよ」って言われても「あ、そうですか」って言って先に進んじゃいますからね。そこで頭の中で一回ブレーキを踏むのがすごいなって。

――いしわたりさんにとって、芸人さんの言葉が気になる理由はどういうところにあるんでしょうか?

いしわたり:単純に話のプロだからってことだと思います。僕らが喋ってる量とは比べ物にならないぐらい芸人さんって喋ってると思うんですよね。やっぱ場数の違いは絶対ありますよね。

狩野:そうなんですよね。たしかにツッコミのワードもどんどん新しいのが出てくるというか。僕が振られて「えっと、あの、えー…」みたいに言ってると「陸でおぼれてるヤツ初めて見たわ」とか言われて、それで笑いが起きたりする。そういう言葉の産み合いになってきてますもんね。

いしわたり:いろんな事が一般化するっていうことが僕は好きなんだと思います。いろんなタイプのクリエイターの人がいると思うんですけれど、僕は多分、音楽と世の中の接点が好きなんだと思うんですよ。音楽が世の中でどういう化学反応を起こしたり、どういう風に機能するかを考えることが好きなんでしょうね。

――本の中にもありますが、音楽とお笑いを比較する観点も多いですよね。「音楽から流行語が生まれてほしい」ということも書かれています。

いしわたり:そうなんですよ。やっぱり流行歌っていうものがある方が健全だと思ってるんですよ。DA PUMPの「U.S.A」が流行った時は「あ、流行歌らしい流行歌が出てきた。嬉しい」って思ったんですよ。なぜかというと、音楽全体に勢いがなくなってしまうと、良いアーティストも出てこなくなるし、シーン全体が冴えなくなっていく。それは嫌なので、どっかでお祭りが起きててほしいんですよね。お祭りがあって、それとは違う価値観を打ち出す人が出てくるのは健全だと思うんです。でも、全員が怖い顔でシリアスな歌を歌って、それで競い合うというのは、エンターテインメントとしては歪というか、つまんないなと思っちゃうんですよね。しかも、例えば「ダメよ~ダメダメ!」っていうのは歌じゃなくてフレーズですよね。でも「♪なんでだろう~」とかになってくると、これは歌なんですよ。「そんなの関係ねぇ」は歌なのか、歌じゃないのか、ちょうど中間くらいかもしれないですけど――。

狩野:リズムに乗せてるし、確かに歌と言えば歌ですよね。

いしわたり:そういう流行語って、なんでプロは作れなかったんだろうって思っちゃうんですよね。パンクバンドが「そんなの関係ねぇ」って歌って、それが流行語になることだってあって然るべきなんじゃないかって。

――それで言うと、ここ最近は「U.S.A.」がそうですし、瑛人さんの「香水」も「君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ」というフレーズが流行になりましたよね。そういう曲が増えているような気もします。

いしわたり:確実に出てくるようになりましたね。これにはすごく元気を感じてます。やっぱり一つ大きいのは、音楽の聴き方がCD主体だった時代が長くあって、ようやく過渡期を超えたんだと思います。サブスクで聴くのが基本なんだっていう世の中にようやくなった。そのことによって、新しい音楽のニーズ、聴かれ方、機能の仕方が生まれて、それが固定されつつあるんだと思います。TikTokでバズるとか、まさにそういうことですからね。

狩野:そうですね。でもどうなんですか? 僕の世代だとみんなCDを買ってたわけですけれど、ジャッジの仕方が再生回数になってきたわけじゃないですか。そこには寂しさとかあったりしませんか?

いしわたり:僕は全然ないです。やっぱり時代とともに絶対変わっていくものですから。「Lemon」も「白日」もそうですけど、今のヒット曲って、イントロがないんですよね。いきなり歌が入る。それって、再生したときに余計なものがあるとどうせ飛ばされてしまうからだと思うんですよ。

狩野:なるほど! DISH//の「猫」もそうだ。

いしわたり:さらに言えば、TikTokは曲のBメロの真ん中をいきなり切り取ったりするわけじゃないですか。それくらい機能的であるほうが、今の時代の音楽ってことなんだと思います。

狩野:なるほどなあ。めちゃくちゃ勉強になりました。たぶん次の曲はイントロなしで作ると思います(笑)。

■書籍情報
『言葉にできない想いは本当にあるのか』
著者:いしわたり淳治
出版社:筑摩書房
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