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東京事変、貫禄の演奏と魅惑の歌声で聴かせた“新たなトライアル” 無観客でも“共感のサイン”交わし合った充実の配信ライブ

リアルサウンド

20/9/13(日) 21:00

 この春、8年ぶりに“再生”した東京事変が予定していたツアー『東京事変 Live Tour  2O2O ニュースフラッシュ』は新型コロナウイルス感染拡大を受けほとんどの公演開催を断念。3月にそれを告知した際に「後日、代替えに値するような公演を行うことを目指し、メンバー、スタッフ共々鋭意努力しております」とアナウンスしたものが、9月5日に実現した。

 それは、7月24日にNHKホールで行われた無観客ライブを収録した映像を『東京事変2O2O.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ』と題して、全国70カ所以上の映画館での上映と、PIA LIVE STREAM、ZAIKO、WOWOWメンバーズオンデマンドでの一斉同時配信で見ることができるというもの。ライブ配信は日常的なものになりつつあるが、国内では6月のサザンオールスターズと肩を並べるビッグスケールではないかと思う。

 19時ちょうどに配信はスタート。ステージ後方にデジタルなCGが流れ、オープニングナンバー「新しい文明開化」がスタートすると「永遠の不在証明」MVのプロローグと同じ白いエリザベスカラーに、それぞれの色合いのローブを着た5人が現れた。背中に白い孔雀の羽を広げてセンターに立つのは椎名林檎。5人を捉えたカメラがグウッと引いていくと誰もいない客席が見えてくる。その客席に向かって椎名は歌いながら、ツアーグッズとして販売している手旗を振った。一瞬なんとも言えない表情をしたように見えたが、大きく振られる手旗はそこにいるはずの人たち、これを様々な場所で見ている人たちへの共感のサインだった。

 椎名林檎のライブも東京事変のライブも、ありきたりの観客への呼びかけや掛け合いなどしないが、その代わりに手旗を振り共感のサインを送り合うのが流儀。自宅や映画館で見ている人たちは一緒に手旗を振ったに違いない。バンドの演奏も徐々に熱を帯びていき、「群青日和」でギターを弾いた椎名は最後に客席に向かってピックを投げた。

 私はこのツアーで唯一開催された東京・国際フォーラムの1日目(2月29日)を見たのだが、あの時の鬼気迫る緊張感に満ちたライブを思い出すと、この公演は腹を括った強さに貫かれていた。セットリストも衣装も曲に合わせて流れるCGも、すべてツアーのためにしつらえたものをそのまま使っていたから、ツアーの延長にある公演を通常と違うシステムで楽しんでいただく、というコンセプトなのは明快だ。無観客という点を除けば、彼らのライブにプラスもマイナスもない。ステージに立って演奏するという行為をニュートラルな姿勢で真摯に行う。そんな潔さが生む強さだ。

 

 5人が揃いのロングガウンに衣装を変えた「某都民」は、浮雲らのコーラスが生き、亀田誠治のベースが唸る。浮雲がリードを歌う「選ばれざる国民」は多彩な面々が集まっているバンドの懐の深さを感じさせる曲だ。伊澤一葉がジャジーなピアノと歌を聴かせる「絶体絶命」では、椎名が「師匠」と色っぽく呼びかけ、亀田のソロが光る。それぞれの楽器の鳴りが広いステージを埋め、カメラがクローズアップする表情や手元には言外の存在感がある。

 椎名のソロライブはゴージャスなセットやダンサーが入るなどエンターテインメントを極めた表現になるが、東京事変は背景のスクリーンぐらいしか使わずバンドそのものを見せていく。8年の間に一段と存在感を増したメンバーたちは、結成当初に見せたようなコミカルな動きといったギミックはなく、どっしり構えた演奏で圧倒する。それぞれ幅広く活動している5人だが、東京事変として結集すると独特の一体感を醸し出すようだ。曲が進むほどにそんな手応えを強く感じた。

 椎名が赤いハットを手に歌った「永遠の不在証明」がステージの流れにちょっとした句読点を打ち、後ろのスクリーンに並ぶニュース報道のような映像がフェイクなのかリアルなのか問いかけてくる中、「絶体絶命」「修羅場」が続く。ギターや鍵盤を弾く手元、叩かれるタンバリンをアップにする映像さえリアルなのかなどと思ってしまう。そんな問いかけがこのステージには仕込まれているようだ。

 椎名が歌いながらガウンを脱ぎ捨て白いブラウスとスカート姿になった「能動的三分間」からほどよい緊張感を保ちながらステージは一段と熱を帯びていった。手旗を振りながら目を閉じスキャットする椎名をバンドのコーラスが追いかける。刄田綴色のドラムが繋いだ「電波通信」で椎名が前に向けてピックを持った手を伸ばすと照明が空の客席を舐めたが、空席であることはもうあまり気にならない。そこにいるはずの人たちとは、時空を超えて繋がっているはずだから。

 穏やかなピアノとともに歌い始めた「スーパースター」は、今までのどんなバージョンとも違う色合いで響いた。憧れのスーパースターに会えるよう自分を磨くという歌だが、ライブやツアーが以前のようにできない状況にあって自分を鼓舞するために歌っているように思えた。他の曲もツアー用にセットリストを組んだ時とは違う意味合いになっているものがあるだろう。

 伊澤がショルダーキーボードで前に出た「乗り気」、椎名が手旗を高く掲げて振った「閃光少女」は、喉元までボタンを止めた白いブラウスと白いプリーツスカートで直立する姿が少女のようにキリリとしていたが、同じ衣装なのに「スーパースター」では印象がガラリと変わった。スカートをつまみ上げたりホイッスルを吹きながら10センチ以上ありそうなピンヒールでリズムに合わせて歩んだり、自由で奔放な様子だ。曲の終わりにはバレリーナのようにお辞儀をした。

 驚かされたのは「今夜はから騒ぎ」。チュールのついた黒い大きなハットを被った椎名は胸元が大きく開いた黒いボディコンシャスなドレス姿になり、なめらかなボディラインを見せつけるように横向きに立ってタンバリンを叩く。歌の端々に蠱惑的な声が入り大人のムードが漂った。その姿で拡声器を持った「OSCA」はバンドともども挑戦的にテンポアップしていき、さらにアグレッシブに変容した「FOUL」に突入、終盤への狼煙を上げたのだった。

 椎名がギターを持った「勝ち戦」は落ち着いた演奏が場内を満たし、「透明人間」はビートを控えめに弾ませながら伸びやかに歌った。ラストは「空が鳴っている」。白一色の照明の中で引き締まった空気を醸し出したこの曲は、これからも動き続けていくという東京事変の宣言のように聴こえた。スリリングなロングトーンで〈神さまお願いです、あきらめさせて〉と歌う椎名は、そう願うほど強い衝動を秘めていると思わせた。

 点滅する照明にクレジットが浮かび上がり、誰もいなくなったステージが暗くなった。本来なら素晴らしいライブを観た後の高揚感に包まれたであろう会場で、撮影スタッフだけが見える客席はアイロニカルな情景にも見えた。ライブ映像が終わり、画面にはカラーバーが表示された複数のモニターと、5人のサインが並んでいた。「またね!!」と浮雲が書いている。次は配信でないライブで彼らと会えるといいのだが。

 冒頭に書いたように、東京事変はありきたりの観客との応酬を求めるタイプではないから、こうしたライブ配信もあまり違和感なく楽しめるということはあるかと思う。また広い会場を撮影のためだけに使っているので通常のライブ収録と違ったカメラワークもあっただろう。ライブにとってのニューノーマルがどんなものか世界中のアーティストが模索しているなか、東京事変も一つのトライアルを成功させた。これが彼らだけでなく他のアーティストにとっても、次へのステップになることを願っている。

■セットリスト
『東京事変2O2O.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ』
1.新しい文明開化
2.群青日和 
3.某都民
4.選ばれざる国民
5.復讐
6.永遠の不在証明
7.絶体絶命
8.修羅場
9.能動的三分間
10.電波通信
11.スーパースター
12.乗り気
13.閃光少女
14.キラーチューン
15.今夜はから騒ぎ
16.OSCA
17.FOUL
18.勝ち戦
19.透明人間 
20.空が鳴っている

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