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「PARCO劇場オープニング・シリーズ」特集

演じることを禁じられた役者たちの物語 『大地』で山本耕史が見つけた確かなもの

全20回

第3回

20/7/29(水)

今の状況に近い、現代に響く作品

PARCO劇場オープニング・シリーズの“夏の陣”、三谷幸喜三作品三連発公演が、第一弾の新作『大地』で華々しいスタートを切った。新型コロナウイルス感染防止のために席数は半減されているが、笑いに沸く劇場の光景、その熱量は以前と変わらない。

特定回でのライブ配信も好評実施中である。大泉洋、相島一之、浅野和之、辻萬長など、突出した個性と実力を誇る豪華な面々が集結したキャストの中で、この人もまた、三谷の世界を彩る必須の一人。『大地』の終演後、疲れも見せず、穏やかな物腰で現れた山本耕史に話を聞いた。

「三谷さんは間違いなく面白いものを作る、いつもそう思っているので、今回は僕をどんなふうに書いてくれるんだろうと楽しみにホン(台本)を待っていましたね。僕だけじゃなく、ほかの俳優さんの役を見ても、ああ、確かにその人がやると面白いな、その人らしいなと思うんですよ。逆に、その人らしくない役に描いて面白い、というパターンもありますけど。おそらく三谷さんは、“この人にこういうことを言わせたら面白いな”と考えながらホンを書いているんじゃないかな…と思ったりします」

物語の舞台となるのはとある共産主義国家、政府の監視下におかれた施設。そこに収容されているのは反政府主義のレッテルを貼られ、演じる行為を禁じられた俳優たちだ。初日前に行われた公開フォトコールのシーン説明で、三谷が「何という先見の明なのか」と場を盛り上げるべく自負していたが、コロナ禍の現状に重ね合わせて、幾分息詰まるものを感じながら舞台を見つめた人も多いだろう。三谷が山本に当てて書いたのは、著名なスター俳優、“ブロツキー”役だ。

『大地(Social Distancing Version)』舞台風景 撮影:阿部章仁

「きっと以前からこういう話をやろうと考えていらしたと思うんですけど、より今の時事に近寄せた、現代に響く作品になったように思います。僕の役は、最初に台本を読んだ時は、意外と普通だなと(笑)。スターという設定だけど、丁寧語で話していて別にエラそうにしているわけでもないし。ただ三谷さんの話を聞くと、『自分はほかの舞台俳優たちとは違う、映画畑の人間だ』という意識を持った俳優だと。それは決してほかの人を見下しているわけではなく、自分のスタイルを確立しているということなんですね。三谷さんに『イメージとしては佐藤浩市さん』と言われて、なるほど〜と思いました」

エンターテインメントが止まったこの期間を経て、“演じることができない俳優”の役を迎えた。そして今もコロナ禍は続いている。稽古中もさまざまな感情にとらわれたのではないだろうか。

「そうですね。自粛期間には全部の仕事が先延ばしになって、俳優って本当に何も出来ることがないなと。この先どうなるんだろう? という不安もあれば、危険をおかしてまでやる仕事なのかな? と思ったり。やるほうが正しいのか、やらないほうが正しいのか……よくわからなかったですね。でもとにかくこの『大地』を一発目として、やり始めた。始まる時、僕は『よし!』という思いと同時に、『ホントに大丈夫かな』という思いも正直、ありました。それでもPARCO劇場のスタッフの方々がとても徹底した感染防止対策をしてくださっているので、そこがすごく信頼してやれている部分ですよね」

力のある俳優が揃った、クレバーな稽古

そんな不安の中での幸いは、劇場のステージで稽古が進められたことだという。集中度の高い空間で、今回の“ソーシャル・ディスタンシング・バージョン”の芝居が立ち上がった。

「これまでで一番贅沢な稽古場……というか、本番の場所ですからね。いつもなら開幕間近に劇場に入って、動線や早替えのタイミングとかを調整する“場当たり”をやるけれど、そういう時間も省けましたしね。稽古で慣れ親しんだ空間で、そのまま本番ができるのはとても心強いことではありました。ソーシャル・ディスタンシング・バージョンは、やっぱり三谷さん、さすがだなと。距離を保ちながら、それすらも形として見せていく作り方がすごい。また三谷さんもすごいけど、昨今の状況がどうであれ、やっぱり作り手と僕らプレイヤーの関係性は変わらないなとも思いました。今回は相当、クレバーな稽古だったと感じています。皆で理解して、だったらここはこういう技術で、こういう解釈で、こうやって接触を回避しよう……とどんどん動いていって。力のある人が揃ったから出来たんじゃないかなと思います」

これから演劇はどうなっていくのか、いつになったらまた触れ合って演じることができるのか……と考えを巡らせ、「未知の形がこれから出来ていくのかなって思うんですよね。僕らがやるべきことは、今ある現実とは違うものを見せること……とは思うけど、僕らも人間だからね(笑)」と率直な迷いを隠さない。ただ、この『大地』の舞台に立ちながら見つけたもの、あらためて気づいたことは確かにあった。

「見つかったのは……、お客さんと僕らのつながりみたいなことかな。僕らは俳優で、演じることの大切さをあらためて感じましたし。ただ、この芝居でも言っているように、やっぱりそこに観客がいなかったら舞台は成り立たない。客席の半分だけでもお客さんが入ってくれて、笑いの反応とか薄いかな? と思ったけど、満員の時と遜色ないように感じていますね。配信も、映像ではあるけどライブで観ていただいているので、また違った楽しみ方を提供できているかなと」

東京公演は8月8日まで。8月12日には大阪公演の幕が開く。人間の尊厳とは、表現の豊かさ、自由とは……、三谷が笑いをまぶして描いた“俳優についての物語”、それを体現する俳優陣の真摯な奮闘は続いてゆく。

「こちらも試行錯誤している最中だし、お客さんもきっと新しいものを欲している、そういう状況下ですからね。お互いに求めるものを共有して、新しい形を生み出していく。元通りになればそれもありで、相乗効果にしていければ。僕、この『大地』にもし出ていなかったら、こんな風に前向きでいられたかな、とも考えますね。そういう意味では出られてよかった。お芝居に触れていることは、僕らにとって呼吸するようなものなんだなとあらためて思っています」

取材・文:上野紀子 撮影(山本耕史):源賀津己

作品情報

『大地(Social Distancing Version)』

〈東京公演〉
日程:7月1日(水)~8月8日(土)
会場 :PARCO劇場
料金: 12,000円(全席指定・税込)

〈大阪公演〉
日程:8月12日(水)~23日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
料金 12,800円(全席指定・税込)

作・演出:三谷幸喜
出演:大泉洋、山本耕史、竜星涼、栗原英雄、藤井隆、濱田龍臣、小澤雄太、まりゑ、相島一之、浅野和之、辻萬長

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