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植草信和 映画は本も面白い 

著者・林家木久扇さんに聞く『木久扇のチャンバラ大好き人生』

毎月連載

第50回

20/10/10(土)

林家木久扇さん

「杉作、日本の夜明けは近いぞ!」。レギュラー出演番組『笑点』でのこの自己紹介用フレーズがウケて、人気落語家の仲間入りを果たした林家木久扇師匠。

ずっとこのフレーズを映画『鞍馬天狗』で嵐寛寿郎が発したものと思っていたが、著者の造語だと本書で知った。幼少のころからチャンバラ映画を応援してきた師匠の背中を、”鞍馬寛寿郎”が後押ししたに違いない。

チャンバラ映画に造詣が深い著者は過去、二冊の映画の本を出している。一冊目は『キクゾーのチャンバラ大全』(2001)、二冊目は『木久扇のチャンバラスターうんちく塾』(07)。

「キクゾー」「木久扇」と名前は違うが、両著とも幼少期から憧憬した大河内傳次郎、阪東妻三郎、嵐寛寿郎などのスターの魅力とチャンバラ映画の面白さを縦横に語りつくした好エッセイ集。

落語家として円熟期を迎えたその師匠の三冊目の映画本が、『木久扇のチャンバラ大好き人生』。時代劇映画を心の糧として生きてきた著者の集大成版だ。

師匠は御年83歳に御成りだが、チャンバラ映画を語り始めるとまるで昨日観てきたかのような弾丸トークが炸裂する。

『木久扇のチャンバラ大好き人生』(林家木久扇著/ワイズ出版/2.350円+税)

まずは本著について語ってもらった。

「アラカン先生(嵐寛寿郎)、大河内先生(大河内傳次郎)、バンツマ先生(阪東妻三郎)、右太衛門先生(市川右太衛門)は私にとって神様。子供のころから崇めてきました。その先生方についての本を作ることができて、こんなに嬉しいことはありません。前の本も一生懸命書きましたが、今回はその総仕上げだと思って私のチャンバラ映画体験のすべてを注いで取り組んだのがこの本です」。

表紙、扉を繰くるとカラーページで、『映画評論』誌のために師匠が描いた表紙が6点出て来る。知らなかった。映画雑誌の表紙も描いていたのかと、びっくりである。

「編集長の佐藤重臣さんから頼まれてノーギャラで描きました。いや、映画館のキップをもらったからノーギャラとはいえないのかな(笑)。ご存知の方もいるかもしれませんが、私は高校卒業した18歳の時、漫画家清水崑先生の弟子でしたから、絵を描くことはプロなんですよ」。

画家志望から落語家へ転身したことは知っていた。その師匠の第二の特技である漫画というかイラストが、本著には100点も載っている。そのどれもが個性的で、スターと映画への畏敬の思いがあふれている。

本書は二章で構成されている。第一章「やっぱりチャンバラ大好き」では、前記の「神様」をはじめ片岡千惠蔵、長谷川一夫、高田浩吉、大友柳太朗、近衛十四郎など38人のスターについて、殺陣の特色、役柄の独自性など、70年以上に亘って観てきたチャンバラ映画の記憶を駆使して詳述。第二章「この道」は、幼少期から落語家になるまでの自伝的エッセイ。その道程で出会った田中角栄、手塚治虫などの交流エピソードが語られている。

第一章でもっとも心に響くのは「阪東妻三郎」の項だ。「私は阪妻大好き少年だったから、彼の苦渋に満ちた役者への道と、いわれなき差別にうち勝って王道を拓くまでの道程に、とても興味がある」と記し、その無名時代から『雄呂血』で独自の殺陣を開発して剣戟王になるまでを愛情をもって活写している。

「私は小さいころ、両親の離婚で父親がいない生活をしていましたから、バンツマ先生に父親の面影を求めていたんですね。ああいう父親がいたらいいなと……だから私にとってバンツマ先生は特別な存在なのです」。

本著では師匠の意外な側面も知ることができる。例えば「月形龍之介」の項。「小学生五年の頃、チャンバラ映画にあこがれ、好きが高じて時代劇俳優・月形龍之介の弟子になりたいと手紙を出したことを覚えている」、がそれだ。

以前、遠藤周作がエッセイで「嵐寛寿郎に弟子入りの手紙を出したが、ナシのツブテ。笛吹けどアラカン踊らずだった」と書いていたが、戦中世代は映画を大変に身近なものとして捉えていたことが分かる。

東京大空襲での生家焼失、両親の離婚、貧困、映画館でのキャンデー売り、新聞配達など人並み以上に苦労してきたはずなのに、本書に暗さは微塵もない。明朗闊達な文章でチャンバラ映画への賛辞に貫かれているのだ。

「今日はこれでお仕舞いと、ケジメのつけ方が軽いんですよ。それが出来たのもすべてチャンバラ映画を観る楽しみがあったからです。チャンバラ映画とスターさんたちが私の人生を支えてくれた。感謝感謝です」。

その気持ちは、後書きによく表れている。

「私の自慢は年を重ねても軽くて、行動力があるからチャンバラのウワサを聞けば、血が沸き肉踊り、すぐにそこへ駆けつけて、過ごすその時が大切な私の人生の幸せの時間なのです!  皆さん時代劇を観ましょう! 活躍している役者さんをホメましょう。チャンバラよ永遠なれ!」。

読後、『鞍馬天狗』を、『旗本退屈男』を、『座頭市』を観たくなること必至の得難い映画の本だ。

プロフィール

林家木久扇(はやしや・きくおう)

1937年、東京・日本橋生まれ。落語家、漫画家。都立中野工業高等学校卒業後、漫画家・清水崑に弟子入り。60年、落語家・桂三木助に入門、三木助の没後、八代目林家正蔵門下に移り、芸名林家木久蔵。69年、日本TV『笑点』出演で全国的な人気に。2007年、木久蔵名を息子にゆずり、初代林家木久扇。落語協会相談役。

植草信和(うえくさ・のぶかず)

1949年、千葉県市川市生まれ。フリー編集者。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。著書『証言 日中映画興亡史』(共著)、編著は多数。

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