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小熊俊哉が選ぶ、2018年洋楽ロック年間ベスト10 今もアップデートし続けていることを強く実感

リアルサウンド

18/12/29(土) 10:00

1.The 1975『A Brief Inquiry Into Online Relationships』
2.Kacey Musgraves『Golden Hour』
3.Yves Tumor『Safe in The Hands of Love』
4.Mitski『Be the Cowboy』
5.Shame『Songs of Praise』
6.Snail Mail『Lush』
7.David Crosby『Here If You Listen』
8.Sen Morimoto『Cannonball!』
9.Unknown Mortal Orchestra『Sex & Food』
10.Angelique Kidjo『Remain in Light』

 「洋楽ロックの年間ベストアルバム」というお題をいただいてから、しばらく真面目に考え込んでしまった。相変わらず各方面で「ロックは死んだのか?」と議論が交わされるなか、今年も難しい一年であったことは、ロック的なクリシェを周到に回避したArctic Monkeys、かたやブラックミュージック、かたやメインストリームポップに接近しながら活路を見出そうとしたジャック・ホワイトとMuse、ついに新作を出すことができなかったVampire Weekendというそれぞれの苦戦ぶりが物語っている。

 しかし、少なくとも自分にとっては、ロックが今もアップデートし続けていることが強く実感できる一年でもあった。そんなふうに思えたのは、The 1975の最新作があまりにも素晴らしかったからに他ならない。

 上掲したベスト10作については、今と向き合う姿勢や、ジャンルを前進させようという野心、ポジティブで開かれた表現、これからのシーンを担う若さや希望、過去を再定義するビジョンを意識しながら選んでみた。The 1975の最新作はそれらのポイントを全て満たしているだけでなく、ポストジャンル化が進行し、線引きが曖昧になった時代に対する最良のアンサーにもなっている。

 まず驚かされるのは多彩なサウンドで、ポストパンク、トロピカルハウス、ネオソウル、フォーク、ラウンジジャズと、一曲ごとにスタイルを横断していく。散漫に感じさせないのは、膨大な情報量を纏め上げるセルフプロデュース能力と、80’sポップ愛に根ざした持ち前のメロディセンス、表情豊かでエモーショナルな歌声が軸にあるから。そこにインターネット/SNS時代における空虚感を扱った歌詞が添えられることで、カラーの異なる全15曲は一編の物語へと昇華されていく。

 各方面でRadiohead『OK Computer』と比較されているように、壮大なるUKロックヒストリーも一手に引き受けながら、リル・ピープへの追悼やエモラップに対する目配せもあるなど、「語りたくなる」切り口がいくつも散りばめられているのも傑作たる所以だろう。日本でも本作のリリース直後から絶賛するツイートが飛び交っていたが、あんな光景を見たのは本当に久々だ。ここ数年のロックにおける閉塞感がウソみたいに、ポップかつ軽やかな仕草で「時代を映す鏡」としてのアティテュードを取り戻したのは、歴史的と言えるくらい大きな一歩だと思う。

 そんなThe 1975すら上回りそうなスケール感で、カントリーという保守的なジャンルを鮮やかに刷新したケイシー・マスグレイヴスは、この連載でも触れた未来的なサウンドや歌心はもちろん、女性やLGBTQコミュニティに捧げた歌詞も2018年の気分を反映していた。筆者がフジロックで取材した際に「LGBTQであろうと、そうでなかろうと、人間はみんな同じように愛を感じ、寂しさを感じ、自由に好きな人を選ぶ権利を持つべきだと思う」と語っていたのも印象深い。(参考:ケイシー・マスグレイヴス、Soccer Mommy、 Caroline Says……心洗われる“歌モノ”新譜5選

 3位は坂本龍一のリミックス集にも参加したYves Tumorが、名門Warpからリリースした出世作。張り裂けそうなノイズ、相反するようにポップな歌メロ、生々しいインダストリアルビートが組み合わさり、刺激的な音像を提示している。セクシーで混沌としていて、現代的な生きづらさをエモーショナルに音像化したようなアルバムだ。

 2018年はアジアンカルチャーの大躍進もあり、グローバルに活躍する日系人ミュージシャンの活躍が目立った。Mitskiこと宮脇ミツキは、アメリカ人の父と日本人の母をもつハーフ。Pitchforkが今年の1位に選出した『Be the Cowboy』ではサウンドが一気に洗練され、ロマンティックで映像喚起力に満ちた一作となっている。現在はニューヨーク在住で、三重や神戸で暮らしたこともあり日本語も流暢。来年2月に来日公演も控えており、もっと注目されるべきだと思う。

 9位に選んだSen Morimotoは京都出身、シカゴ在住のマルチ演奏家で88risingのクルー。『Cannonball!』はジャズやポストロック、チャンス・ザ・ラッパー周辺のヒップホップ/R&Bの要素を織り交ぜたシカゴ的アンサンブルや、英語と日本語を使い分けた歌/ラップなど、自身のアイデンティティが滲み出たサウンドに惹きつけられる。ほかにも、Superorganismの活躍やCHAIの海外進出もあったりと、日本やアジアの存在感は今後ますます大きくなりそうだ(参考:88risingが示唆するポストYouTube時代の音楽のあり方 “横断的なプラットフォーム”が鍵に)。

 さらに今年は、UKサウスロンドンのインディシーンが盛り上がった。トム・ミッシュ、ジェイミー・アイザック、Goat Girlなど挙げたらキリがないが、ロックに絞るなら断然凄かったのがShameのライブ。見た目も青臭い男子4人が、1曲目からテンション全開で歌い、飛び回る狂乱のステージにはありったけの未来が詰まっていた。平均年齢が20代前半と思しきサウスロンドンと同様、アメリカのインディシーンではSnail Mailを筆頭に、Soccer Mommy、Lucy Dacusといった若い女性アーティストの黄金世代が活躍しており、ロックの世代交代は着実に進んでいる。

 その一方、ポール・サイモンやポール・マッカートニー、エルヴィス・コステロなど、ベテランの味わい深い充実作も多かった。そのなかでも一際美しかったのがデヴィッド・クロスビー。ByrdsやCrosby, Stills, Nash & Youngを通じて60年代から活動を続ける巨匠は、何十歳よりも若いジャズ〜フォーク系の気鋭たちと新バンドを結成し、驚異のコーラスワークを披露している。神々しい歌声は息を呑むほど。ここ数年は量産体制に入っており、77歳にして創作活動のピークを迎えている。

 最後に自分の話をさせてもらうと、2018年にもっとも感銘を受けたのはデヴィッド・バーンだった。ニューアルバム『American Utopia』を提げての最新ステージは、Talking Headsによるライブ映画の金字塔『ストップ・メイキング・センス』のセルフオマージュも織り込み(The 1975もMVでパロディしていた)、人種/性別/世代/体型のそれぞれ異なるバンドメンバーが演奏しながら、ミュージカルのごとく縦横無尽に動き回るというもの。筆者は11月に香港で目撃してきたが、NMEが「The Best Live Show Of All Time」と評したとおりパーフェクトすぎる内容で、日本上陸しなかったのが本当に悔やまれる。

 そこで10位は、アンジェリーク・キジョーによる『Remain In Light』の全曲カバーアルバム。Talking Headsが導入したアフリカ音楽のビートを、約40年後にペナン共和国の大御所シンガーが奪還するという構図で、同じくアフリカ音楽に影響を受けたエズラ・クーニグ(Vampire Weekend)や、映画『ブラックパンサー』のスコアでも演奏しているパーカッショニストも参加した意義深い作品だ。

■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部を経て、現在は音楽サイト『Mikiki』に所属。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。Twitter:@kitikuma3

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