
最長44年ぶりの新アルバムも……「待たせすぎた」レジェンド・ミュージシャンたち
14/3/27(木) 8:00
過去の記憶とその再生の狭間にたゆたう「音の壁」を音像化したような銀杏BOYZ9年ぶりの新作『光のなかに立っていてね』や、去年のプロデューサーオブザイヤーともいうべきファレル・ウィリアムスの8年ぶりのソロアルバム『GIRL』など、2014年に入って通常のポップミュージックのリリースタームを凌駕した大作・傑作の登場が目立っている。
アーティスト側に立てば、これらの年月は制作に打ち込んだ自らの存在証明であり、作品のテーマを研ぎ澄ましていくのに必要不可欠な時間といえるが、そうした作り手の事情と並んで、作品と作品におけるリリースタームの長期化は「Don’t trust over 30.(30歳以上のやつの言うことなんか信じるな)」を標榜し、常に若者の音楽としてその「刹那」を主題化してきたロックミュージックが産業として、そして何よりも表現メディアとして、アーティスト自身の成長をも作品化できうる媒体へと成熟している証ともいえる。
今回は8年、9年といった年月がまだまだひよっこ(?)に思える、2014年「待たせすぎた」新作をリリースする洋楽アーティスト達をご紹介したい。
伝説の歌姫リンダ・パーハクス
44年ぶり奇跡の新作『The Soul of All Natural Things』
ダフトパンクをして「アシッドフォークミュージックにおける最高傑作」と言わしめ、彼等の映画『Electroma』にもフューチャーされた彼女の前作『Parallelograms』がリリースされたのは1970年。現在も当時も歯科衛生士(!)だった彼女が、趣味で録音していた驚くべき唄の数々に取り憑かれたのは、彼女の患者の一人で映画『エデンの東』『理由なき反抗』の主題歌を手掛けたレナード・ローゼンマンだった。
当時のヒッピーコミューンの在り様を幻想的に、そしてなによりも一聴したら忘れる事の出来ない歌声で描写したそのアルバムは、プロモーションされる事もなく忘れ去られていったが、2000年以降のアニマルコレクディブらによる「フリークフォーク」ムーブメントによって一躍再評価され、カルトアルバムとして神格化されていった。
そして今年スフィアン・スティーヴンスのレーベルより実に44年ぶりに発売された『The Soul of All Natural Things』は彼女の孫の世代といってもいいUSインディーのミュージシャン達による熱烈なラヴコールに応えて制作された一大傑作アルバム。人魚の歌声とよばれた彼女が紡ぐ、時代を超えた奇跡のメロディーに、魂を揺さぶられる作品だ。
「ロック史上最もドラッグをやったであろうミュージシャン」に毎年ランクイン
デヴィッド・クロスビー 20年ぶりのソロアルバム『CROZ』
ロックとドラッグといえば、その地獄から奇跡の生還をとげたBEACH BOYSのブライアン・ウィルソンやローリングストーンズのキース・リチャーズがあげられるが、そうしたミュージシャン達を超える欧米におけるジャンキー系ミュージシャンの筆頭といえばデヴィッド・クロスビーだった。
それもそのはず、彼はSUMMER OF LOVEといわれた1960年代のサイケデリックロックムーブメントを代表するバンド、THE BYRDSのソングライターであり、その後ニールヤングらと結成したCSN&Yほか、「EIGHT MILES HIGH」や「Deja Vu」といったロック史に残るドラッグソングを連発したレジェンドだ。
しかし、1970年代後半からオーバードーズに苦しめられクリニックへの入退院を繰り返し、1980年代には口の悪いゴシップ誌において「来年死亡するに違いないミュージシャン」第1位に毎回ランクインするなど、ミュージシャン生命を絶たれるような危機に陥っていった。
だが、今年72才になる彼のキャリアを救ったのはやはり音楽で、リハビリを兼ねた息子のジェームズ・レイモンドとのセッションにより立ち直ったという。そして元ダイアーストレイツのマークノップラーらの協力の元、20年ぶりのソロアルバム『CROZ』を完成させた。
オープンチューニングを多用した、まるで70年代に恋人として、そして音楽的同志として生活を共にしたジョニ・ミッチェルに捧げるかのような、フォークとジャズをクロスオーバーさせた楽曲の数々は、60〜70年代に彼が唄った希望と絶望の行方を、現代に捉えなおしたヴィッド・クロスビーのキャリア史上最高傑作といってもいい作品に仕上がっている。
漆黒の「ノワールソウルミュージック」The Afghan Whigs
16年ぶりのニューアルバム『Do to the Beast』
「ベイシティーローラーズがブラックフラッグに犯されてるような音楽を作りたいんだ」と、カートコバーン自身が言ったように1990年代にNIRVANA、PEARL JAM、SOUND GARDENといったバンドによって一大センセーションを巻き起こした音楽ジャンル「グランジ」は、その音楽的なルーツをラジオフレンドリーなポップミュージックに置いていた。そんな中、唯一といっていいほど自らの音楽性の源をスタックスやモータウン、フィリーソウルといった黒人音楽に求めたのが、グレッグ・デュリ率いるThe Afgan Whigsだった。
歌詞の世界観においても、グランジが得意としたパンク直系の激情とニヒリズムとは一線を画した、極めてフィルムノワール的なセクシャルなラブソングを唄っており、当時異色のバンドとして人気を博していた。
しかしグランジの衰退とともにバンドも解散、リーダーのグレッグ・デュリはその後ソロや新しいユニットで活動していた。その後、2012年になると再結成、去年の夏から半年をかけて制作されたのが、来月16年ぶりにリリースされるニューアルバム『Do to the Beast』である。
先行で解禁されたMV「Algiers」でも明らかなように、ノワールソウルミュージックとでもいうべき彼等独自のサウンドは健在。アルバムに収録されている他の楽曲も、映画『エンジェルハート』のようなブードゥ教をテーマしたもの、メキシコ・マタモロスでの大量殺人事件をテーマにしたものなど見事に「漆黒」。発売後の日本でのライブなども待たれるところだ。
16年から44年まで、途方もない年月を経て制作されたこれらの作品を聴いて驚くのは、アーティスト達の変わらなさである。むしろ若い時代に制作された作品よりも、そのテーマが「結晶化」され、より力強いロックミュージックとして鳴っているように思える。
それは若かりし頃、彼等を捉えた刹那の正体、年齢と共に時代と共に朽ちていくかのように思われたその「一瞬」が、実は普遍性を持つ「永遠」であった事を再発見した、彼等自身の歓びの音なのかもしれない。
■ターボ向後
AVメーカー『性格良し子ちゃん』を率いる。PUNPEEや禁断の多数決といったミュージシャンのMVも手がけ、音楽業界からも注目を集めている。公式Twitter