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アニメ版『はめふら』、原作ファンも虜にする魅力 メディアミックス成功のポイントは?

リアルサウンド

20/5/7(木) 16:38

 今期アニメの“伏兵”として快進撃を続けているのが、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』、通称『はめふら』だ。放映前の注目度はさほど高くなかった本作だが、アニメの第1話が評判を呼び、以後人気が爆発。これにともない、山口悟による原作小説も注目を集め、4月発売の最新刊9巻のみならず既刊の売上も好調と、大旋風を巻き起こしている。

関連:【画像】脳内会議という表現技法の代表作『脳内ポイズンベリー』

 『はめふら』はオンライン小説投稿サイト「小説家になろう」に連載後、2015年に一迅社文庫アイリスから商業出版され、3巻以降は書き下ろしとして継続中のシリーズである。今や女性向けネット小説の人気ジャンルとして定着した「悪役令嬢もの」を決定づけた作品の一つであり、これまでに9巻が刊行された。さらに、小説の挿絵担当のひだかなみによる漫画化も進められ、コミックスは第4巻まで発売。クオリティの高いコミカライズは好評を博し、『はめふら』の人気を後押しする。このように、本作はもともと女性読者をターゲットにした作品であったが、アニメ化をきっかけに男性ファンの心も掴み、男女双方から支持されるコンテンツへと成長を遂げた。今回はアニメ『はめふら』を取り上げ、今最も勢いに乗っている作品の魅力について、詳しくみていきたい。

 はじめに、『はめふら』の基本設定を確認しよう。公爵令嬢としてわがままに育ったカタリナ・クラエスは、8歳の時に庭で転んで頭を打ち、その拍子に前世の記憶を取り戻す。カタリナの前世は、享年17歳のオタク女子高生だった。やがてカタリナは、今自分がいるのは前世でプレイ中だった乙女ゲーム「FORTUNE LOVER」の世界であり、ゲームに登場するライバル役の悪役令嬢に転生してしまったことに気づく。

 ゲーム内のカタリナは、どの攻略対象を選んでも国外追放もしくは死亡という、バッドエンドを迎える設定の人物だ。今生こそは平和に寿命を全うしたいと願うカタリナは、破滅フラグを回避しようと、彼女の前にあらわれた4人の攻略対象を相手に、斜め上の対策を繰り出していく。そんなカタリナの予想外の行動や表裏のないまっすぐな性格は、王子や義弟、宰相の息子が抱える孤独や悲しみ、コンプレックスを溶かしていくのであった。なお、カタリナが魅了するのは男性だけでなく、ゲーム本来のヒロイン・マリアや、カタリナと同じライバルキャラのメアリやソフィアまでもが “人たらし”なカタリナに夢中になってしまう。もっとも、本人は破滅エンドを回避することに必死なのと、恋愛に鈍感なのが重なり、寄せられた好意には全く気づいていないのだが――。

 というのが、『はめふら』のあらすじである。男女を問わず人をたらし込み、無自覚なラブコメを展開するカタリナの魅力が作品の肝となるが、アニメ版の『はめふら』ではアニメーションならではの表現を駆使し、“おバカ”かわいいカタリナの姿を輝かせている。前世で「野猿」と呼ばれた木登りの腕前で周囲の度肝を抜き(デフォルメされた木登りの動きがとてつもなくキュートだ)、お菓子に目がなく意地汚く食い荒らし、土の魔力を高めるために始めた畑仕事に傾倒、そしてここぞという時には「悪役顔」の本領を発揮して凶悪な表情を披露する。カタリナの公爵令嬢らしからぬ行動の数々が、アニメによってさらなる躍動感を得て、どこまでもチャーミングに描かれてゆく。

 『はめふら』を代表するシーンとして知られるカタリナの脳内会議も、アニメではよりエンタメ性を強調した場面に仕上がった。原作小説では議長、議員、書記と3人のカタリナ・クラエスで進められる脳内会議は、コミカライズでは5人の分身と、よりにぎやかな表現に改変された。アニメではコミカライズの設定を活かし、この5人にそれぞれ<議長、弱気、強気、真面目、ハッピー>という性格を与えることで、脳内会議の場面をさらに盛り上げている。カタリナ役の声優内田真礼による声色を変えた演じ分けも、見どころの一つだ。

 なお、キャラクターによる脳内会議という表現技法そのものは、他の作品でもすでに試みられている。たとえば、その代表作として知られる水城せとなの漫画『脳内ポイズンベリー』では、主人公の心理描写が脳内に住まう老若男女の会議を通じて描写された。一方、『はめふら』の脳内会議では、登場する脳内キャラクターがすべてカタリナ・クラエスであるシュールさや、会議を通じて導き出される結論がいささか突飛な方向性をもつことなどが、他にはないユニークな味を醸し出している。

 この原稿を執筆時点でアニメは第5話まで放映済みだが、随所に制作側のストーリーやキャラクターへの理解の深さが滲み、その“わかっている感”に絶大な信頼を寄せたくなる。各キャラの関係性を的確に描写した心躍るOPで視聴者の心を掴み、エピソードを適切に取捨選択してテンポよくストーリーを進めてきたが、第5話ではアニメ版のオリジナル展開を取り入れることで、物語の補完においても見事な仕事ぶりを発揮した。

 第5話でカタリナと義弟のキースは、マリアの実家を訪問するが、このシーンは小説ともコミカライズとも異なる展開で進み、マリアのトラウマの描写とその克服、さらには母親との和解が丁寧にフォローされた。これまではコメディタッチが目立ったところに、アニメ版が独自にエピソードを掘り下げ、重さを付加したことで、マリアがカタリナに心を救われ、彼女を慕う様の説得力が増した。

 男女ラブコメだけでなく、女女ラブコメとしても絶妙な匙加減をみせる本作は、今後ますます人気が高まってゆくだろう。1クールアニメとして放映予定の『はめふら』だが、原作小説の流れのままでは、やや尺が余るようにも感じる。今後もアニメオリジナルで話を膨らませていくのだろうか。今期の要注目アニメとして、これからの展開にも期待したい。

(文=嵯峨景子)

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