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ムスリム社会における女子高生の見合い結婚描く「ユニ」監督「とにかく正直な作品を」

ナタリー

カミラ・アンディニ (c)吉田留美

第22回東京フィルメックスのコンペティションに出品されている「ユニ」が本日11月5日に東京・有楽町朝日ホールで上映。監督を務めたカミラ・アンディニが上映後のQ&Aに出席した。

前作「見えるもの、見えざるもの」で第18回東京フィルメックスの最優秀作品賞を受賞したインドネシア出身のアンディニ。東京国際映画祭のアジア交流ラウンジのメンバーとして来日していたことから、東京フィルメックスへの現地登壇も実現した。

タイトルの「ユニ」は高校の最終学年に通う主人公の名前。大学進学など自分自身に多くの可能性を見出していた彼女の世界が、見合い結婚の申し出により一変してしまうさまを描く。“ユニ”はインドネシアで6月に生まれた子供に付ける名前で、劇中では「六月の雨」という詩も重要なモチーフに。ムスリム社会における10代女性の恋愛やセックス、見合い結婚がテーマとなっている。トロント国際映画祭ではプラットフォーム部門に出品。2022年のアカデミー賞国際長編映画賞のインドネシアの代表作品にも選出されている。

映画を着想したきっかけは、アンディニのもとで働く家政婦が、17歳で妊娠した娘のために「村に帰りたい」と帰省を申し出たことだったそう。「彼女は体調を崩した娘のことをとても心配していました。若く結婚した理由を聞いてみると、何度か求婚が続いてということでした。私が10代のときもやはり若くして結婚する人は周囲にいました。『10代の結婚』というテーマはずっと私の頭から離れませんでした」と回想。アンディニは彼女をユニと見立て、自分の視点を加えながら脚本の執筆を進めた。また実際に家政婦の娘の結婚式の日に強い雨が降っていたそうで、そのビジュアルイメージが先走ったという。結婚式での激しい雨は、映画のラストの描写にも深く関わっている。

ユニを演じたのは、映画での演技は未経験だった当時18歳のアラウィンダ・キラナ。アンディニは舞台となったジャワ島西部に位置する都市セランでユニ役を探すのは難しいと考えており「地元の人が演じると物議を醸すテーマ。そうしてジャカルタでのキャスティングを進めていたときに、私のアシスタントがInstagramで見つけました」と説明。キラナの印象を「会ってすぐにユニ役は彼女しかいないと思いました。とても勇気のある知的な女性。私のビジョンも理解してくれて、映画のテーマに対しても自分の意見を持っていた」と話しつつ「ただユニと彼女の境遇とはかなり異なっていたので、ワークショップを重ねて役を作り込んでもらいました」と語る。

「六月の雨」はインドネシアで有名な詩人サパルディ・ジョコ・ダモノの作品だ。劇中では多くの詩が引用されており、アンディニは「ユニにとって詩は現実逃避をする空間のようなもの。彼女は詩を理解することで別のところへ行く」と言及。ジョコ・ダモノの詩は監督本人にとっても思い入れがあるそうで、父で映画監督のガリン・ヌグロホが1991年に発表した「一切れのパンの愛」でも、ジョコ・ダモノの詩による楽曲が使用されていることを明かす。「その曲は『ユニ』 のエンディングでも使っています。1991年当時、私は5歳ですが、その曲が家や車でよくかかっていました。彼の詩は幼い頃からなじみがあり、私自身、詩を初めて理解できたと感じたのが彼の作品でした」と続けた。

観客からセンシティブな題材ゆえの苦労があったか問われると「インドネシアで作るにはかなり困難な作品であることは予想していました。劇場公開できるかもわからなかった。ただ最初にプロデューサーに伝えたのは、とにかく正直な作品を作りたいということ。好きなように撮らせてほしいと約束しました。そのためには勇気を持って賛同してくれるパートナーを慎重に選ぶ必要がありました」と回想。国内では10代の男女を描いた作品は多いが、ほとんどが都市部の物語であることに触れ「実際のところユニのように田舎に住んでいる若い世代がほとんど。そういった若者たちの声を代弁する作品にしたいという思いがありました。最終的に映画を信じてインドネシアの若い女性に届けたいという仲間が集ってくれました」と語る。そして検閲も問題なく通過し、12月に国内での劇場公開されることも明かした。

第22回東京フィルメックスは11月7日まで有楽町朝日ホールとヒューマントラストシネマ有楽町で開催。なお11月7日から23日にかけては一部承諾を得た作品のオンライン配信も。「ユニ」を含む7作品が配信される。また23日まで「見えるもの、見えざるもの」も視聴可能となっている。

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