Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play
Download on the App Store ANDROID APP ON Google Play

いきものがかり水野良樹の うた/ことばラボ

w/堀込高樹(KIRINJI) 後篇

隔週連載

第43回

このふたりに共通する職業作家的資質は、彼らがどちらもポップミュージック、つまりできるだけたくさんに人に楽しんでもらえる音楽を作るということを意識していることから生まれている傾向のようにも思えるが、と言って聴き手に楽しんでもらうことを意識しすぎると作っている自分の楽しみは希薄になっていくかもしれない。さて、自分が作って楽しいし聴く人も楽しめる“いい曲”について、ふたりは今、どんなことを考えるのだろうか。

堀込 お客さんのなかのKIRINJIというのは、いろんな人がいろんな像を思い描いているわけですよね。すごくオルタナティブなグループだととらえている人もいれば、シュガーベイブみたいな音楽をやっている人たちと思っているリスナーもいるだろうし、「KIRINJIはAORだ」と言い切る人もいるし(笑)。つまり、パブリックイメージというものを細かいところまでよく見てみると、実はバラバラだったりするから、それにはあまり囚われないほうがいいかなと常々思っているんです。

水野 そうですよね。

堀込 無視していいんじゃないかなとさえ思うことがあります。その結果として、もしかしたらがっかりする人もいるかもしれないけど、そういうことを気にするよりも自分が作り続けていられる精神状態や環境を保っているほうがいいものができるんじゃないかなあと思ってて。それに、自己模倣をするようになると、どうしても音楽がつまらなくなるような気がするんですよ。もちろん、作風には限りがあるから、“こんな曲、昔も書いたな”という場合があるんですけど、その書いてるときに新鮮な気持ちでやってれば……、直感をもとにして書かれた曲というか、“あっ、思いついた!”と思ったときにそのまま作ってしまったような曲は意外と説得力があるような気がするんですよね。

水野 自己模倣がなぜつまらなくなるのかなと考えてみると、自分自身は生きてるからですよね。去年の僕よりも今年の僕のほうが、たぶんいろいろ知ってるだろうし、いろいろ経験して変わってるから、今の状態を出せば去年とは違うものになるというのが自然なことだと思うんですけど、自己模倣というのはそれをわざわざ前の時間に自分を戻すような行為ですよね。でも、戻そうとする去年の自分にも行き着かないから……。

堀込 そうなんですよね。

水野 それよりも、今の状態を出すほうが自分も楽しいし。前篇で話題になった、KIRINJIの歌詞にはレトロな言葉と今ビビッドに世間で言われている言葉が混ざってるという話も、その時々の“今”がずっとつながってるからこその表現なんだろうなと、ここまでお話を聞いてきてすごく納得しました。つい自己模倣してしまうというのは、“アーティストあるある”な話だと思うし、僕もよくそういうことに思い当たるんですけど、そこで過去を捨てるかというとそういう話でもなくて、むしろ毎回新しいものを入れていくということが大事なんだなということも、お話を聞いていてすごく感じました。

堀込 自分の作風とかカラーとか、そういうものからは絶対逃れられないですからね。自分の過去の作品からも逃れられないのと同じように。自分から過去の作品に寄せるということをしなくても、確実に出てくるから、そのときそのときにフレッシュな気持ちで作品と向き合うということがいいような気がしますね。

── 堀込さんの作風やカラーということを考えた場合に、ユーモアの感覚とかおかしみというようなものが要素のひとつとしてあると思うんですが、堀込さん自身はそういうことをどれくらい意識していますか。

堀込 ノリで入れちゃってるだけ、みたいなことがほとんどなんですけど(笑)。基本的に気分がいい時に書くから……。

水野 それは、めちゃくちゃ大事なことですよね。

堀込 だから、ついつい軽口をたたきたくなる、ということもあるんでしょうね。それに、昔の自分の歌詞を見ると“漢文みたいだな”と思う時があったんです。比喩とか暗喩が多くて、聴きながら楽しむと言うよりは歌詞カードを見ながら楽しむもののような感じがするなって。当時はそれがおもしろいと思ってやってたんですけど、だんだんそれは鈍重だなと思うようになってきたんです。

水野 鈍重、ですか。

堀込 特に最近はリズムが立った曲やグルーブが中心になってる曲が多くなってきたから、いよいよそういう歌詞が馴染まなくなってきて、だったら言葉も軽くて意味も明快で、という方向にシフトしていってるとは思うんです。最近は、自分が深刻すぎるものに耐えられないということもあるし……。深刻になっても事態は改善しないから(笑)。

水野 (笑)、その通りですね。

堀込 深刻になるというのは若さの特権のように思うんです。感傷に浸る、なんていうのも若いからできることのような気がするし。ライムスターのMummy-Dさんが「最近は深刻な歌詞を書きたくない」と言ってるんですよ。「中年の男が深刻な歌詞を書くと本当に暗いから、そういうのはやめたいんだ」って。その通りだな、と思ったんです。それは、けっこう大きいかもしれない。歌詞を重い感じにしないということに関しては。ただ、軽くて脆いというのはよくないから、軽くて丈夫というものにしたいなということはいつも意識しています。

水野 ただ、軽くて丈夫っていうのは難しいですよねえ。僕はどうも深刻になりがちだし、性格的にもいろいろ引きずるタイプなので(笑)、重くなりがちというか。そこから抜け出したいとすごく思ってるんですけど。だから、「軽くて丈夫」というのは、仕事場に掲げておきたいようなフレーズですね。

── (笑)。軽くて丈夫な歌詞を書くにはどうすればいいんでしょうか。

堀込 そうなんですよねえ……。言った手前、どうすればいいんだろう?と考えてたんですけど、正直、軽いだけじゃダメだと思ったんで“丈夫”と付け加えただけなんですよ(笑)。

水野 (笑)。

堀込 とりあえず思うのは、意味が明確で、なおかつ奥行きがある、みたいな感じかなあと思うんですけど……。

水野 中篇で「音楽的な心地よさを優先してしまう」という話がありましたが、音楽としてまずあるということが担保されているかどうかで歌詞の丈夫さも違ってくるような気がするんです。

堀込 そうですね。

水野 軽い言葉でも、どういうメロディで、どういうリズムで、歌われているかによって、その魅力は全然違うから……。こうやって会話で口にすると本当に軽い言葉が、あるメロディやリズムで歌われるとそこに物語が立ち上がってくるっていう。「丈夫」とか「奥行きがある」というのは、そういうことかなと思うんです。構造物というか、いろんな要素が連動して出来上がる何かが丈夫さにつながるというか……。

── とすると、丈夫な歌詞を作ろうと思ったら、言葉よりもむしろサウンドのことをもっと考えないといけないということになってきますか。

堀込 ハマるべきところにハマってほしい、ということかなあ。

水野 そう! 本当にいい曲って、“これ以外に考えられない!”ということになってますよね。

堀込 さっき水野さんが言われたみたいに、言葉としては軽いんだけど、あるメロディやリズムにハマると途端に輝くとか新鮮に響くということがあるじゃないですか。だから、そのハマり具合というか、バランスということをよく考える、ということなんだろうなとは思いますね。

── では、そういう曲をぜひ作っていただきたいと思いますが……。

水野 自分たちでハードルを上げちゃいましたね(笑)。

── (笑)、KIRINJIの今後の予定は?

堀込 今、まさに軽くて丈夫な曲を作ってます(笑)。で、年内になんとかアルバムを出したいなと思っています。

取材・文=兼田達矢 写真=映美 ヘアメイク=長谷川亮介(水野良樹)

プロフィール

水野良樹(いきものがかり、HIROBA)

1982年生まれ。神奈川県出身。
1999年に吉岡聖恵、山下穂尊といきものがかりを結成。
2006年に「SAKURA」でメジャーデビュー。
作詞作曲を担当した代表曲に「ありがとう」「YELL」「じょいふる」「風が吹いている」など。
グループの活動に並行して、ソングライターとして国内外を問わず様々なアーティストに楽曲提供。
またテレビ、ラジオの出演だけでなく、雑誌、新聞、webなどでも連載多数。
2019年に実験的プロジェクト「HIROBA」を立ち上げ。
2/24、33枚⽬のシングル「BAKU」、3/31、9枚⽬となるニューアルバム『WHO?』をリリース予定。

堀込高樹(KIRINJI)

1996年、実弟の堀込泰行と「キリンジ」を結成。1997年のインディーズデビューを経て、翌年メジャーデビュー。
2013年の堀込泰行脱退以後、新メンバー5人を迎えたバンド編成「KIRINJI」として再始動。
8年間の活動を経て、2021年からは堀込高樹のソロプロジェクト「KIRINJI」として活動中。
自身の作品のほか、他のアーティストなどへの楽曲提供、劇伴音楽、テーマ曲制作等、幅広い分野で活躍している。

水野良樹の対談を終えて
堀込さんは、単純に一般の音楽ファンに愛されるだけじゃなくて、音楽の作り手が憧れる存在でもあると思うんです。そこで、質のいいものを作ることにおいては類を見ないような凄さがあるから、技術で体裁はなんとなく保ててしまうんだろうけど、そういうところに止まることなく、毎回自分を新陳代謝させて、どんどん前に進んでいって、新しいものを作っているからこそ、あのブランドというか、品性が保たれているんだということをあらためて感じました。

「アレンジも自分でやればいいのに」と言ってくださいましたが、技術がないですからねえ……。だから、いきものがかりではまずないと思います。ただ、その前段階のところで、これまでよりも自分で作る範囲を広げてみるということはやりはじめています。HIROBAでやった「I」という、僕がひとりで歌ってる曲があるんですけど、あの曲はしっかりデモを作って、“けっこう、やれたな”という実感を持てて、それはひとつエポックになったと思います。その後、楽曲提供の機会には先方に説明もしないといけないから、デモをしっかり作るようになっていって、そこでも少し変わっていったと思います。それに、カウンターメロディとして浮かんでくるフレーズもあったりするんですよ。歌ものの主旋律だけを追いかけていると浮かばないようなことが出てくることもあるから、曲を作るという作業の補助作業としてデモを作るということはすごくアリだなと思っています。

アプリで読む