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みうらじゅんの映画チラシ放談

『クライモリ』『シャウト・アウト』

月2回連載

第70回

『クライモリ』

── 今回の1本目は、現在公開中のホラー映画『クライモリ』です。

みうら 『クライモリ』はこれが3作目なんですかね? 2作目までは観ているんですけど。やっぱ、最初そのカタカナの邦題を見たときはグッときましたよ。“クラ・イモリ”でもなんかいいしね(笑)。

暗い森に住んでる恐ろしい兄弟が出てくるんですよね。で、これはタイトルからして最近多いスピンオフものですかね?

── スピンオフではなく、1作目と同じ脚本家によるリブート作品みたいです。あと『クライモリ』シリーズは過去に6作品作られていますね。

みうら スピンオフじゃなくリブート? 老いるショッカーにはもう、何のことやらですよ(笑)。しかし、6作ってね、そんなにあったんですか! ええと、2作目が『クライモリ デッド・エンド』でしょ?

── 『…デッド・リターン』に『…デッド・ビギニング』、『…デッド・パーティ』と『…デッド・ホテル』と続くようです。

みうら まさか知らない間にこんなに増えてるとは思ってもみなかったです。これだけクライモリを並べると壮観ですね(笑)。

── シリーズとは関係ない映画もクライモリを名乗ってますね。『バタフライエフェクト・イン・クライモリ』というものまであります。

みうら 何ですか? それ。ナオト・インティライミみたいじゃないですか(笑)。

── 1作目はamazonプライムビデオでは『間違ったターン - Wrong Turn』というタイトルで配信されているようです。

みうら でも、やっぱ断然『クライモリ』の方がいいですよね。ホラーに森はつきものですからね。“クライハヤシ”だと簡単に抜けられそうですからね。そもそもこのクライモリってどこにあるんですか?

── ウエストバージニア州のグリーンブライヤーという設定のようです。

みうら そこが『13日の金曜日』のクリスタル・レイクに当たるわけですね。

ホラー映画に出てくる無軌道な若者たちって、やたら軽装というか、中には水着姿のままのコもいてね。もちろん観客へのサービスなんでしょうけど、クライモリなのに水着持ってきて着てるっていう違和感がむしろいいんですよね。

僕、週刊SPA! でもう15年くらいグラビアのページを担当してるんですけど、たまにクライモリで、モデルの女性に水着を着てもらって撮影することがあるんです。

クライモリで水着っていう絵面だけで、なんか「儲けた!」って思いませんか? 海で見る水着よりも森で見る水着の方が得点が高い、みたいなところあるでしょ(笑)。

── 確かにホラー映画って露出度の多い格好をしがちですよね。

みうら 彼女と夏、一泊海へ旅行に行くことになったときに、「水着を一緒に見に行かない?」とかいう男っているじゃないですか。

女性モノの水着売り場って、男にとって入れない聖域っていう感覚があるじゃないですか。でも、カップルだと入れる。「これなんかイイんじゃない?」とか言いながら、試着室のカーテンの隙間から「こっちの方がイイんじゃないかな」とか分かったようなことを言って、黒のビキニ渡すみたいなことね。

大概は買ってあげるんですけどね。だったら海だけじゃなくて、やっぱりホテルの部屋でも着てほしいんですよね。でも「海じゃないのになんで?」って断られるのが関の山なんですが(笑)。こっちにしてみれば「海じゃないからいいのに」ですけどね。今回の『クライモリ』にもきっと水着はあると思うんです。

森には蚊もいっぱいいますし、毒虫だっていますよ。だから「森には軽装では入ってはいけない」と警鐘を鳴らすわけですが、ふだん見られないシーンがあるのもホラー映画の魅力。クライ水着もぜひ観たいと思いますね。

『シャウト・アウト』

── 続いては、こちらのインド映画『シャウト・アウト』ですね。

みうら まず、お聞きしたいんですが、この人は誰なんですか? すいません、僕、タイガー・シュロフさんなんて方、知りませんから。やはり気になるじゃないですか。だから選んだんですけど。

チラシには『WAR』に出てた人って書いてありますけど、ちっともヒントになってません(笑)。

── 『WAR ウォー!!』はインドのアクション映画ですね。タイガーさんはリティク・ローシャンというイケメンスターとダブル主演されていた方です。チラシには“空前絶後の肉体”って書いてありますね。

みうら 顔はとてもお優しそうなんですけど、体はムキムキですね。「必ず守る、俺を叫べ──!」とも書いてありますが、“叫べ”に“よべ”と読むようにわざわざルビが振ってありますね。おそらくインドでは今、困ったときはお釈迦様じゃなくこの方を呼ぶんでしょう。「タイガー!」って。

“超絶怒涛のアンリアル・アクション”ってコピーも珍しいですね。大概、アクションはリアルを売りにするものだと思いますけど、アンリアルって……。

── チラシ裏面の写真も、タイガー・シュロフがヘリコプターの上に半裸で乗っていて、状況が分からないですね。戦車の前で股割りしてる写真もあって、どういう展開でこうなるのか不思議です。

みうら これは股割りで身体を低くして、戦車に轢かれないようにするトレーニングなんでしょうね。どう見ても戦場で自分の身体能力を試してますよね。さすが、アンリアル(笑)。

でも、やっぱタイガーといえばジャーでしょ?

── 魔法瓶とか炊飯器のメーカーですよね。

みうら そうです。僕ね、中学生の頃、タイガーのランチジャーっていうのを買ってもらったんです。保温ができるお弁当箱なんですが、やたらデカくてね。今、ちょっと持ってきますね。

タイガーランチジャー

── 子供の頃のランチジャーが事務所にあるんですか?

みうら いや、これはタイガーランチジャーの思い出をよくエッセイで書いていたもので、後にどなたかがくれたんですよ。

みんなが冷めた弁当食ってるときに、金持ちの家の息子が得意げにこれを学校に持ってきてたのを見て、すっごく欲しくなってね。親にねだって、それから1年後くらいにようやく買ってもらったんです。ところがその頃には、金持ち息子もフツーの弁当箱に戻ってて。

いや、大きいんですよ、やたらね。しかもストラップをたすきがけにして運ぶカッコがね、いけてないというか。

当時、京都にまだ市電が走っていたんですけど、下校時に混み混みの市電に押し込まれたら、ドアが閉まったときにたすきにかけてたランチジャーだけが外に出たまま走り出しちゃったんです。風圧でランチジャーが飛び跳ねるでしょ、どんどん首が閉まってきて、あわや窒息死するところでしたよ(笑)。

僕は男子校でしたけど、電車には他校の女子生徒も乗っていたんですね。ある女子が窓からそれを見つけて、変なものが飛び出してるって言い出して車内は大爆笑になったんですよ。慌てて次の駅で降りて、泣きそうなくらい恥ずかしかったんです。

── 思春期にランチジャーで笑われるのはツラいですね。

みうら ランチジャーはつらいですよ(笑)。だから、少なくとも僕には困ったとき、タイガーを呼ぶセンスはないですね。

ただ、ヒンズー教の神様ってよくトラの上に乗ってたりするでしょ。文殊菩薩の乗り物は獅子ですが、タイガー。普賢菩薩は象に乗っておられます。きっと、仏像が作られた当時は象のことも日本人は見たことがなかったでしょうから、架空の動物を模したんでしょうね。そういうことを考えると、やはり、タイガーは神様に近い存在だったことが分かります。

だからインドで「俺を叫べ」って言うことは、たぶん神様なんだと思うんです。きっとこのタイガーさんは人間じゃない、トラの化身なんだと思うんですよね。

── トラの化身なら、“アンリアル”という言葉も納得です。

みうら 「トラになれ、トラになれ、トラになるのだ」はタイガーマスクですけど、たぶん映画ではアンリアルな神業を連発するでしょうね。最後は人間から元のトラに戻って、『北京原人 WHO ARE YOU?』のように山に帰っていかれるんだと予想しますね。

── ちなみにこの映画、シリーズの3作目みたいですね。『Baaghi3』が原題のようです。

みうら え? シリーズ作なんですか(笑)? 『Baaghi』って何の意味ですか? “Baaghi”がトラの神様の名前なんですかね?

── “Baaghi”は、ヒンディー語で“反逆者”という意味みたいですよ。

みうら ありゃ。それって“ランボー者”ってこと? 劇中にトラが人間に変わっていく変身シーンとかはないわけですか?

── それは、可能性がゼロなわけではないと思いますけど……。

みうら 上映時間も145分って書いてありますし、『狼男アメリカン』的なシーンはやってくれるはずですよ。でないと尺がもたないのでは?

じゃ、日本の劇場で困ったことがあったら「タイガー!」って叫んでいいんですかね? ダメですよね、それは(笑)。

取材・文:村山章

(C)2020 Constantin Film Produktion GmbH
(C)COPYRIGHTS NADIADWALA GRANDSON ENTERT

プロフィール

みうらじゅん

1958年生まれ。1980年に漫画家としてデビュー。イラストレーター、小説家、エッセイスト、ミュージシャン、仏像愛好家など様々な顔を持ち、“マイブーム”“ゆるキャラ”の名づけ親としても知られる。『みうらじゅんのゆるゆる映画劇場』『「ない仕事」の作り方』(ともに文春文庫)など著作も多数。

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