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100年前にカワセミを撮った男・下村兼史 -日本最初の野鳥生態写真家-

20/7/12(日)

《河畔の暮》 1920年代初期 撮影地不詳 撮影:下村兼史 所蔵:(公財)山階鳥類研究所 ※展示作品は複製

野鳥記録「映画」のパイオニア、下村兼史であればずっと前から知っていた。鳥以外の生き物もユーモラスに捉えた傑作『或日の干潟』も、鳥への愛情ある眼差しに貫かれた教育映画『こんこん鳥物語』も、長期の高山撮影が彼の体を蝕んだとも伝えられる渾身の遺作『特別天然記念物 ライチョウ』もだ。しかしここが映画屋の悲しいところで、野鳥記録「写真」の祖としての仕事にはほとんど触れたことがなかった(2018年に初の本格的な展覧会が開かれたが、あろうことか筆者は見逃している)。 だが、彼の映画が、長い写真の経験あってこそ生まれ得たということは、この展示を観れば分かる。特に初期の写真《河畔の暮》には驚かされた。まるで写真家が鳥を自由に配置したかのように、背景の河や、人間の干した洗濯物とあいまって詩的なコンポジションを成している。ただの学究的な写真ではない、このフレーミングの妙がのちの映画にも活きているのだ。またその技術的な裏づけとして、『或日の干潟』でも使われた下村とキャメラが隠れるためのブラインド(ここでは小さなわらの山だ)も、若き日の写真撮影の場で考案されたものだと分かった。 「飛んでいるトキを撮る」と、口で言うだけならたった一行だ。だがそれが、極限の忍耐を経た営為であることは充分に想像できる。写真であれ映画であれ、空に生きる者たちの暮らしを地上から伺い知ることは、人間どもの見果てぬ夢の一つだろう。日本におけるその始まりが、下村の気品あふれる仕事であったことを確認できるまたとないチャンスだ。

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